笑顔で隠すのは













閃光が煉瓦の壁に当たって、壁が崩れる。
それを放った魔法使いは舌打ちをして、そうしながらも足は二つの影を追って止めなかった。

汚れた壁で二つの影は曲がり、後を追っていた魔法使い達も一斉に其処を曲がる。

三日月の僅かな月明かりしか光源がないので、その影を追うにはそれは酷く見え辛い。
でも杖に灯りをともす暇さえを惜しみ、色彩のないマントを着た魔法使い達はそれを追っていた。


閃光が時折交差するけれども、それは一向に二つの影には当たらない。
片方は背が高く体格も良い影で、片方は背の低い影だ。
両方が薄切れたマントを靡かせている。

閃光が交差したのを見極め、鮮やかな金髪のショートヘアの女が杖を振る。

赤色の彼女が発した魔法は、見事に影を捉えた。
けれども二つの影は全く動きを止めないし、何も変わった様子もなかった。

しかし彼女は唇の先で微笑み、二つの影が袋小路に入るのを追った。
後の数人の魔法使い達もそれを追い、入ると円になって杖を二つの影に突きつけた。

複数人に囲まれて行き場もない、そのような状況なのに二人の追い詰められた男達は焦った言動を少したりとも見せなかった。

月明かりが僅かに男達の顔を照らし、金髪の女は目を細めてその顔を見る。

円になって杖を突きつけた魔法使い達が何か言葉を発する前に、男達は笑って姿を消した。

















男達は笑いながら、姿現しである場所に現れた。
先程と大して光景は変わらないが、追われていた所からは大分と離れた場所だ。

そして大声で笑う。
品が良いとは言えない笑い声が黒い空に響く。


すると背の低い男の視界の端で、曲がり角の所に何かが見えた。
男がそれを目を凝らして見れば、人影に見える。
それが合図の様に二人とも手に杖を持つ。

しかしその影が華奢なので、女だ、という事に気付いた時にはその杖を持った手も緩んでいた。

笑い声を上げていた時と同じ笑みを浮かべて、そっとその人影に近付いた。


フードを被った女らしいマントの影は、近付かれているのに気付かないように、曲がり角からマントの端を覗かせている。
壁に凭れ掛かっているらしい。
男達が近付き、そのマントの影がはっとしたように振り向いた時には、男達の杖で強く魔法が放たれていた。

――が、鋭い魔法の閃光はすぐさま消えてしまった。

男達の声以外に呪文を唱える声は聞こえなかった。


「non-verbal…?」


無声呪文にしては見事過ぎる。
フードを被った影はまだ動かず男達の方向を向いていた。
何の言葉も発さない。

体格の良い男はこの不思議な現象に恐怖を募らせたようで、杖を捨て身体でそれに向かって行った。
続いてもう背の低い男もそうするが、マントの端を擦ったきりで、かわされる。

すると今度は女の囁き声の様な呪文の詠唱が聞こえ、二人の男は壁に叩き付けられた。

女の杖の影も未だ見えない。
背の低い男が声を発しながら顔を上げる。


「誰だ…?あんた、誰だ?」


フードを下ろすと同時に、杖を真っ直ぐに突きつけた。
フードの下には女の笑顔が、光に薄く照らされていた。

すると杖の先から縄が出て来て、男達を縛った。
しかし背の低い男はその女の顔をじっと見ていた。


「誰だ?」

「女子供を何人も殺した貴方達を捕らえるのは、魔法省の役人に決まってるわ」


凛とした声で女は言った。
しかし笑顔は変わらず、体格の良い男はぞっとした感じを覚えた。
変に険しい顔をされるよりかは、ずっと恐ろしい。


「魔法の長けた殺人犯、とか言われてるみたいだけれど、所詮井の中の蛙ね。
 まあ法で裁かれて、大海を知ってきなさい」


そう言って男達に近付いて杖を取り上げる。

背の低い男はまだ何かを言いたげに女を、感情の篭った目で見上げて口を開いたけれども、それは適わなかった。
女は後ろを振り向き、押し寄せたさっき男達を追っていた魔法使い達の方へ行き、話を始めた。
男達に背を向ける。


体格の良い男は項垂れて抵抗もせずに連行されたが、背の低い男はまださっきの女を見ていた。
大人しくは連行されていたが、ライトブルーの目は女を捉え、耳を澄ませていた。

さっきとは違う笑顔を軽く浮かばせている横顔を見て、覚え、聞いた話の内容から女が闇祓いだという事を知る。


男は笑顔を浮かべた。

女は横目でその男の笑顔を浮かべた顔を見て、悟っているように微笑んだ。




























2006/7/17






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