悪戯好きの笑み














いつものように本部に戻ろうと、師匠と二人で廊下を歩いていたら、その扉の前に赤毛の頭が三つあるのが見えた。
この燃えるような赤毛を持つ家系は、私には一つしか思い当たらなかった。


「アーサー?」


一人の一番背の高い人物はそうだと、分かっている。
しかし他の、二つの背の高さの同じ人物は…





アーサーがそう言ったと同時に、私と大して変わらないひょろりとした背の高さの、二人の少年と目が合った。
年の頃はホグワーツ入学するかしないか、だろう。

全く同じ顔である二人の少年の姿、それでは大体の予想はついた。


「子供連れて来たの?」


の隣でムーディが魔法の目で、じっとその双子のアーサーの息子を凝視していた。
するとその目は周りを見渡すようにくるくると回りだす。

は沢山いるアーサーの子供の、双子の名前を思い出そうとする。


「「パパ、この綺麗なお姉さん誰?」」


綺麗にはもった声で、生意気な様子でを指差す。
は双子達の目と合うと、向こうはニッコリと笑みを返してくる。


「そんな事言われるのは、久し振りだわ…」


苦笑っぽく言ったその言葉には、色々な意味が含まれていた。
今の思い切り闇祓いである自分に、綺麗だと言う人等、ここ数年皆目なかった。


「二人とも、人に名前を聞く前に、自分から名乗らなくちゃならないだろう?」

「フレッドです!」

「ジョージです!」


は手を叩いて、思い出した。
ビル、チャーリー、パーシーに続いての四男目の双子だ。

はそう思い出したが、隣のムーディはそんな事を全く知らないし、それを覚えようとしているのかも分からない。
まあ彼にとってはウィーズリー家の息子、という事実だけで十分なのだろう。


「二人とも、闇祓いだ。
 こちらがアラスター・ムーディさん」


フレッドとジョージはやっぱり、とでもいうように、目の前で回っている青い目玉を見る。
私達の事は、彼らの父親から聞いているらしい。
興味津々な様子でムーディを見上げていた。


「そしてこちらが、さんだ」


二人は視線をの方へ移し変える。


「お姉さん、恋人いるの?」

「こら、フレッド!」


は一瞬眉を寄せかけたが、相手が子供だと思い出し、微笑む。
腕をマントの下で組んで答える。


「いないわね」

「こんなに綺麗なのに?」

「綺麗なのかは分からないけれど、見た目と中身の美しさって違うものなのよ。
 私に言い寄ってくる男なんて、まあ、さらさらいないわ」


フレッドとジョージが不思議そうに顔を見合わせている。

はその光景を微笑ましく見守り、に恋人が出来ない原因の一つである、彼女の師匠を見上げると、興味なさげに突っ立っていた。
は苦笑する。


「ねえ、その目、怖くないの?」

「へ?」


いきなり振られた質問に訳が分からず、は間抜けな声を上げる。
アーサーもその意味を掴みかねていた。


「鼻もないよ」

「あ…」


アーサーが慌てたようにフレッドとジョージの口を塞ぎ、は吹き出して師匠を見上げた。
彼は神妙な面持ちで、眉を顰めていた。
子供と言うのは正直だ。

は口を塞いだアーサーの手を軽く解いて、フレッドとジョージに目線を合わせる。

ほんの少し、いや、殆ど膝を曲げる必要はなかった。


「――怖くないわよ。
 あれはね、昔私を守ってくれた跡なの」


二人の頭に手を載せながらそう言い、クスリと微笑む。
フレッドとジョージは、がムーディの事を大切に思っているのを直感的に感じた。


「ところで私、貴方達に一つ言いたかった事があるの」


が仕切り直す様に、マントを払って下で腕を組んだ。

フレッドとジョージは、改めてを見る。


「貴方達、悪戯グッズみたいなの、好きなの?
 好きなのは別に良いと思うわ。
 でもね――」


が右手を肩程まで上げて、人差し指をくいっと曲げる。
すると廊下のカーテンの後ろ、ドアの隙間などから、いきなり黒い丸い物体が飛び出してきた。

アーサーが驚いた様子でそれを見る。
その数はどんどん増えるばかりだ。


「魔法省内に仕掛けるのは、止めておきなさい。
 私はゾンコとか行った事ないし、これらがどういう働きをするのかは知らないけれど、大体は予想はつくわ」


丸い物体がの手の平の上に集まる。
それは大層な数で、アーサーは怒気を含んだ目でフレッドとジョージを見下ろした。


「今日の所は返してあげるけれど、今度同じ事をしたら――」

「スゲェ…」


の言葉を遮って、フレッドが目を光らしながら感嘆の声を上げた。
ジョージも同じ目で、を見ている。

にしては、こんな子供の悪戯位見抜けなくて何が闇祓いだ、と思ったのだが。


「スゲェよ!
 俺達の悪戯、全て見破った…!」

、凄い!」


いきなり呼び捨てにされ、見に余り覚えのない賛辞の言葉を貰う。
わいわいと二人が言い合い、アーサーの青筋なんて全く見えている節もない。

そんな中ムーディは、気になっていた事はがもう言ってくれたので、やれやれと本部内に帰って行った。


「凄い! 俺達の悪戯、今まで誰にも、こんな風に完璧に見破られた事なかったのに!!」

「やっぱり闇祓いだから…?」

「俺達もまだまだだな――」


は活き活きと話し合っている様子を、苦笑して見守る。
キラキラとした視線を頂くが、何と応えれば良いのか分からない。
声変わりのしていない高い声が響く。


「じゃあ、に、見破られなかったら完璧だっていう事だよな…?」

「そうなるな」


悪戯好きな笑みを輝かせ、フレッドとジョージは、をじっと見た。
は一つ瞬く。


「…私を騙す気?」

「うん」


大体の内容からそう推測したは、笑う。


「騙せるものなら、騙してみなさいよ、フレッド」


そう軽く冗談めいて言って、手の中の悪戯道具をフレッドに返す。
フレッドは、初対面の人に、双子のどちらかを判別されていた事に驚いた。


「「よっしゃ! 騙すぞ!!」」


え?

軽く冗談めいていたのに、それが彼らには届いていなかったらしい。
まともにそういう意味に取られていて、は戸惑う。


「僕らを初対面で見分けてくれたのは、が初めてだ」

「それにも応えて、全身全霊を賭けて悪戯を――」


ゴツン!


アーサーの拳骨が、フレッドとジョージに降った。
二人はしゃがみ込んで頭を押さえ、痛みに呻く。


「初対面の人にそんな事を言って、失礼だと思わないのか!?」

「まあまあ…アーサー…」


はアーサーを収め、苦笑しながら地面の二人を見下ろした。
別に彼らのせいで気分を害した訳でもないし、寧ろ、少し面白い気もする。

闇祓いの身で、こんな子供に宣戦布告されるとは。

まあ騙される気は全くしないが…


「私、もう行かなきゃ、会議があるの。
 じゃあね、フレッド、ジョージ。
 まあ騙したいなら、好きにすれば良いわ」


そう言っては手を振り、何気なくその場を立ち去る。

フレッドとジョージはその後姿を見送りながら、目を輝かせていた。




そしてそれの数年後。

はホグワーツに勤める事となり、双子と再会した。
再会する途端、留めなく悪戯の応酬に出会った。

去年まで他へ注がれてきた悪戯が、全て、に集中したようだった。

彼らも成長してはいるが、やはりがそれを見破るのは容易く、杖の一振り二振りでそれを収拾する。
でも時折、が眉を寄せるようなものがあったりして、その成長を感じた。
彼らもを騙せれば一人前、と勝手にハードルを作っていたようで、力作をに浴びせ掛けた。


しかし、かなり、面倒臭い。


は双子の悪戯の面倒臭さに溜息を吐く。
せめて廊下を歩けば時折何かが起きる、というのは止めて欲しい。

そして、昔、自分はどうしてあんなに簡単に、あんな事を言ってしまったのだ、と過去の自分を呪った。



























2006/10/31






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