まるで憎しみのような
鏡と向かい合って、じっと見る。
鏡に映っているのは自分の顔。
すると、ふいには髪をいつものように上げて、後ろに一つ結びにする。
そしてまたじっと見る。
「…流石になあ…」
は目を細め、包帯が取れたばかりで生々しい跡を残す、額の傷を見た。
いつもの髪形をすれば前髪も掬い取られてしまい、どうしても額の傷が、人の目に晒されてしまう。
そして身体を起こし、大きな鏡の前に後ろ向きで立ち、手鏡で自分の首筋を写す。
「…流石にねえ…」
其処にも、ようやく包帯が取れたばかりの、生々しい傷跡があった。
傷跡を手でなぞってみると、ボコリとした凹凸が感じられる。
髪を括ると首筋が晒されてしまう。
は溜息を吐くと、歩いてまたベッドに戻り、腰掛けて手鏡を手に持った。
でも今度は顔を写す事無く、ベッドにそのまま寝転がる。
今まで傷を負うことは多々あったが、このように、人の目によく晒される場所での一生傷は少なかった。
傷は多いが、全て、ローブに隠れる場所だ。
特に顔に一生傷を負うことは今までなかった。
傷を負ってきた経験から、これは完全に治らないなと思う。
今更それで何を感じる訳でもないが、流石に、女として、これを人目にずっと晒すのはどうか、と考える。
今までの髪型なら、かなりこの二つの傷が明確に分かってしまう。
一番近い所で鎖骨の辺りにも同じような傷を負わされたが、まあ、こっちは、良いや。
別に、一生傷と言っても、絶対に治せないわけではない。
よくヒーラーに言われるが、そういう魔法薬をつければ、簡単に治るらしい。
私が言う一生傷というのは、自分の身体だけでは完全に治せない、というだけだ。
なのでいつも病院に行くとそれを薦められるが……まあ私が女だから、だろうか。
別に嫁に行く予定もなし、まああったとしても、いやそれも絶対にないが――あったとしても、治そうとは思わないだろう。
でも今回は、少し不味い。
は髪を寝たまま解いた。
「…髪、下ろすしかないか」
は散々伸びて、肩甲骨を通り越そうとしている髪を一房持ち上げ、言った。
今度切って貰う時、ちゃんと前髪も作って貰っておこう。
は溜息を吐いた。
何もかもあいつのせいだ。
こんな傷を負わされて私がこんな事で悩んでいるのは、絶対、あいつのせい。
嫌な思い出がフラッシュバックして、は眉を寄せた。
セブルス・スネイプ――前から、いつも私達の手から、狡猾に逃げ出す奴として認識していた。
ダンブルドアが使っていたスパイだったか知らないが、あいつがアズカバンを逃れた事に、強く怒りを感じる。
というかスパイなんて絶対に嘘だって。
アルバス・ダンブルドア。
師匠の友人だと認識し、とても高名で魔力の強い魔法使いである、と認識している。
会った事はない。
だから何とも言えないけれど、ダンブルドアは師匠が言うに、とても過ぎる程に、人を信じようとする人らしい。
だからスネイプの件もそういう…寧ろ、ヴォルデモートがそう指示した、と思えなくもない。
表面上はダンブルドアの側にいるが、反対にダンブルドアの事を探るスパイとして。
――絶対にあいつは死喰い人だ。
闇の魔法に見初められた目は、私がよく知っている。
は眉を寄せたまま空を見つめる。
何にかけて、あいつのせいで、ブラックの事を最後に感覚で知れなかったのが一番悔しい。
それにあいつのせいで、あれ以後、大分と病院で治療に専念させられ、スネイプがアズカバンから逃れるのを指を咥えて見ていただけ、というのに憤りを感じる。
それにあいつのせいで、ヴォルデモートが失脚した大切な時に、闇祓いにいられずに何も出来なかったなんて…!
はスネイプに、まるで憎しみのような感情を抱いている事を、自覚していた。
ふつふつとした憎しみが浮かぶ。
もうこれは単なる怒りだけでは、ない。
もう一度首筋の傷を人差し指でなぞる。
ふいに単純な疑問が口をついた。
「…どーしてキスしたんだ…」
あの時の光景は簡単に思い出せる。
お互い、何か動きがあれば殺し合う状況だったけれど、彼はそんな事をしなくてもあの状況を打開する事は、出来た筈だ。
「散々人の事を扱き下ろしてたのに」
女じゃない、とか、男みたい、とか…そんな感じだったような気がする。
まあキス自体は、ファーストキスは軽く済ましてあるので、どうでも良かった。
「単に、からかわれた…?」
それが一番妥当だろう。
彼の実力からいけば、初心そうに見えた私をああいうのでからかった…最悪だな。
ははん、と自嘲げに笑っては身体を腹筋を使って起こす。
「…ヴォルデモートも一旦はいなくなったんだし、もう少し、身なりに気を使おうかな」
アリスにもそう言われてたしなあ…
は家の中だから、長い黒髪を後ろに一つに纏めながら、自分の化粧台を見遣って呟いた。
いや、その前に師匠の家から出て行かなくちゃ――
はほうと溜息を吐いて、ヴォルデモート失脚後の時代の変わり目を感じた。
そうだ、するべき事は沢山あるのだ、ずっと憎しみに構っている訳にもいかない。
2006/11/20
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