驚きに満ちた














ルドビッチ・バグマンは悦に入っていた。

近日ウイムボーン・ワスプスを引退し、魔法省に勤める事となった。
魔法省の役人達は有名人である名ビーターを歓迎し、初めて魔法省に足を踏み入れた日から数日経ったにも拘らず、バグマンは今ですら握手を求められる事もある。

廊下を歩けば珍しげな目で見られ、魔法ゲーム・スポーツ部内でも、バグマンは嫌な思いをする事は殆どなかった。
それどころか可愛い女の子達に取り囲まれて、羨望の眼差しでこちらを見られるのは心地良い。


そんな事が続いているある日、バグマンは廊下を歩いているとふと気になる人影を見た。

バグマンは目を瞬かせてそのマントの影を見る。
前を大股で歩いているその影に引き離されないよう、歩くスピードを上げる。

その影のシルエットは小柄で、女性であろうと判断出来た。

黒い長いマントに、ヒールの殆ど無い黒いブーツが見え隠れしていて、飾り気の無い黒い髪が背に掛かっていた。
今までバグマンが此処で見てきたのは、綺麗に化粧をして身を着飾っている魔女が多かった。
年配の魔女であってもそれなりに身を飾っていた。

しかし目の前の魔女はそういう雰囲気とは違うものを纏っていて、ピンと張り詰めた雰囲気を持っているよう、バグマンは見えた。

だからバグマンはそれに興味を持って、その影を追う。


魔女の方はそんなバグマンに気付いてないように、大股でなおも廊下を歩き続けていた。

バグマンは少し駆け足でその後ろに近付く。
すると、其処に偶然に通り掛かった一人の魔法使いが、いきなり声を張り上げて、バグマンは驚いた。


「ルード、彼女にそんな風に近付いたらいけな――!」


バグマンがそれの言葉を瞬時に半分ほど理解した所で、クディッチの試合中では感じた事の無い、今までの人生で感じた事の無い冷たい殺気を感じて固まった。
寧ろ、これが殺気だ、と初めて知った。

目の前に冷たい黒い目があった。

それの形相にバグマンは息を呑むことも忘れ、動かない肢体に神経がビリビリと痺れる。
人間が持っているような生気が、その目に感じられず、円い黒い玉のようにそれが見えるのだ。

辛うじて目で黒い目の持ち主の腕を辿ってみると、その持っている杖が、自らの喉元を差していた。

ヒイ、と腰が抜けるも、尻餅も着けず危ういバランスでその場に立っている。


バグマンの身体が震え出しそうになった時、急にその黒い目が瞬きをして生気を取り戻したのを、感じた。
寧ろその目は優しげなものに変貌していたが、まだ敵意を軽く持っているのは分かる。


「…私に背後から何も言わずに近付くのは止めて、って、大分言い触らしたと思うんだけど…」

、彼は少し前に魔法省に勤め始めたんだよ」

「あら、そうなの?」


黒い目の持ち主の魔女は、思いの他凛とした声を唇の間から出した。
通り掛かった魔法使いに説明を受けた魔女は、目を完全に優しいものに変えて、驚きに満ちた顔をしているバグマンの方を見た。


「御免なさい――
 私、つい最近に襲撃を受けて、大分神経が過敏になっていまして。
 だから周りに、私に背後から無闇に近付くのは止めてって言い触らしていたのですが…貴方は知らないですよね。
 貴方の事も背後にいるのは気付いていて、誰かと感覚で探っていたのですが、省内で知らない人だと感じたのでつい、杖を…本当に御免なさい」


魔女は杖を腰に差して仕舞い、頭を下げて言う。
バグマンは一点、当然のように言われた言葉に気になる所があった。


「襲撃…?」

「ええ、襲撃です」


改めてバグマンは魔女を見ると、その魔女が大層綺麗な顔をしている事に気付いたが、その唇から事も無げに日常で有り得ない言葉が出て来る。
淡々と襲撃という言葉を日常茶飯事的に語る彼女は、愛想良く微笑んでいた。


「――貴方Mr.バグマン、ですか?」

「ええ、そうです…が……」

「省内で話題になっているじゃないですか。
 ウイムボーン・ワスプスの名ビーター、でしょう。初めまして」


そう言って差し出された手には、腕から包帯が続いて巻かれていた。

それに気付いて改めて見てみると頬にも薄い、傷跡が見える。
あれ、また良く見ると、ローブの襟から包帯が首に…

魔女は愛想良く微笑みながら、内心、ルドビッチ・バグマンを知ったのは随分前で、死喰い人が台頭していた時の事だと思った。

師匠が彼について毒づいていたから、覚えている。
魔女自身もその意見には、同意していたが。
ぶっちゃけクディッチには興味が無く、あの時代の事情聴取がなければ、魔女はバグマンの事を知らなかった。

彼と会った魔女の内心には、過去の事件がフィードバックしていた。

バグマンはそんな魔女の内心を知らず、この美人の魔女が自分の事を周りの人と同じく知っていてくれた事に喜んで、握手を返す。


魔女はバグマンの視線が自分の傷付いた身体に沿わされた事を感じていて、苦笑する。


「不甲斐ないです。
 師匠も一緒に居合わせたのですが、闇の魔法使いに少し、やられてしまって…
 捕らえる事は出来ましたが、私は結局怪我をしてしまって」

「――師匠?」

「ええ、師匠」


凛とした声でまたそう返され、バグマンは何が何だか分からなかった。


「あ、そろそろ行かなくちゃ……それじゃ、失礼します」


時計を見て焦ったように言った魔女は、踵を返してまた歩いて行こうとする。
バグマンは焦って、最大の疑問を吐き出した。


「あの、あなたは…?」


魔女はまだ自分が名乗り出ていなかった事に気付き、黒いマントを翻して足を止めて振り向いた。


です」


魔女はは目礼をして、そのまま立ち去って行った。
バグマンはという名前に覚えがあり、それの記憶の出所を思い出そうとした。


――――闇祓い?

ヴォルデモートが台頭していた時、新聞に良く出ていた。
改めてバグマンは此処が魔法省だと言う事を思い出し、新聞上の英雄だった彼女達を思い出した。

記憶は順調に周辺の記事を思い出す。

の師匠って事は――マッド-アイ・ムーディ?
それが、さっき言っていた、その場に居合わせていたと言う師匠…


闇祓いという職種に、彼女のさっきの殺気に納得し、全ての謎が解けた。

また彼女の気が落ち着いているであろう時、今度はまともに会話をしてみたいな、とバグマンは思った。
やはり少しならず、また彼女に興味を持ったからだ。


























2006/10/31






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