歌う君の
私室の扉を開いてみたら、いつもの様に図々しくもが其処に座り込んでいて、何やら羊皮紙に書き付けている。
勝手に部屋に入り込む彼女、でもそれが日常だったので、セブルスは意に介さず自分のデスクへと向かった。
その間、が機嫌が良さげに鼻歌を歌っているのを、しっかと耳に入れながら。
歌詞は途切れ途切れだけれど、メロディーは薄い裏声でしっかりと分かる。
今まで適当に機嫌良く鼻歌を歌う事はあったが、しっかりとしたメロディーつきの歌なんて歌うなんて。
そんなの様子は珍しかったので、セブルスは耳をそば立ててそれを聞いていた。
おぼろげな裏声の旋律が部屋に響き、音痴ではないのは分かる。
しかし巷の歌手の煩い歌とは違って、とても自然に空気に響いて、心地の悪いものだとはセブルスは思わなかった。
すると一曲が終わったようで、がふいに黙った。
「随分と機嫌が良いな」
「まあね」
「何の歌だ?」
「あれ…聞いてたの?」
的の外れたの問いにセブルスは呆れる。
は驚いたような顔で、口に手を当てていた。
「すぐ側で歌われてたら、嫌でも自然に耳に入るだろう」
「えー――嫌だ、恥ずかしい」
今更何だ、とセブルスは少し恥ずかしげに目線を逸らしたに、眉を寄せる。
彼女の視界にセブルスは、いまいち入っていなかったらしい。
「あー…それと、この曲ね。
えーっと……題名は思い出せないけど、十数年前に頻繁にラジオで流れてたやつ。
ヴォルデモートが勢力を極めていた時辺り。
その暗いご時勢に、希望を持てるような明るい歌を歌ってくれたから、結構耳に残ってるの。
まあ貴方が世の中を暗くした犯人の一人だけど」
が視線を過ぎらせ、セブルスに楽しげに問い掛けた。
楽しげに問い掛けるべき内容だろうか、とセブルスは思って、ばっさりとした闇祓い相手に苦笑する。
はその視線を受け取って、再度問う。
「その時の辺り、貴方ラジオ聞く事なんて、やっぱりなかった?」
「そうだな。どうりでその歌を知らない訳だ」
「そうね」
はそう言って、羽ペンを再度手に取って、また羊皮紙に文字を書き始める。
「もう一回」
「…え?」
「もう一回歌ってくれ」
はセブルスの言葉に眉を寄せた。
人前で歌を歌うなんて、元々好きじゃないし、恥ずかしいし、今までそんな事をした事もない。
さっきのは単なる偶然だった。
でもそう言って再度椅子に座り直し、仕事をし始めたセブルスの後姿を見て、はふうと息を吐く。
表情を緩ませて、息を吸い込んだ。
今度は少し歌詞を思い出して、前と変わりなく薄く歌う。
歌を歌う喉なんて大して鍛えた事はないので、張りがあるとは言えない裏声を出す事しか出来ない。
でもセブルスは、それを聞いて珍しく表情を緩ませながら、羊皮紙に字を書いていた。
何となく、心地が良いのだ。
それがが歌っているせいなのか、単にその歌が良いのか分からないが。
おぼろげな歌声が旋律を添って、部屋に薄く響いていた。
は歌いながら、地下だけれど魔法で備え付けてある窓から、日差しが自分に向かって差して来るのに目を細める。
夕方の橙色の日差しが眩しくて、は立ち上がって窓へ向かい、カーテンを閉めた。
すると其処で歌が終わる。
目を下ろすと、丁度下でセブルスが机に向かっていた。
「綺麗だ」
「…歌のメロディーが? 本当はもっと綺麗な曲なんだけど…」
「さあ、それはどうだろうな」
は瞬きして、彼の言う言葉の意味を理解する。
そして窓に凭れていた身体を起こし、屈めて、彼の頬へ小さく口付ける。
はくすくす笑いながら、カーテン越しに赤い空を見上げた。
「セブはこの歌が流れていた頃、何を思ってたの?」
答えは思いの他、すぐに帰って来た。
「お前と大して変わるまい」
「…その通りね」
は的を良く得たセブルスの答えに、益々笑んだ。
皮肉と言えば皮肉になるが、真実と言ったら、真実となるに違いない。
は、未だ羊皮紙に目線を落としたセブルスに向き直って、小さく苦笑して、元々座っていた場所に向かった。
2006/12/31
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