相乗り














鞄を湖に落としたって?

目に涙を浮かべる一年生の姿を見下ろし、とリーマスは顔を見合わせた。
この湖には大イカや、水生動物が多くいる。
しかしその鞄の中には杖が入っていたらしいから、放っておくことはできない。

難しいなあ、とは思いつつも、は小さな少年へ尋ねる。


「何か杖以外に、魔法の強い作用をもつものは入ってた?」















「もうちょっと向こうにお願い」

「はいはい」


とリーマスは二人で手漕ぎのボートに乗っている。
は真剣な顔で湖の下を見下ろし、リーマスはの指示に従ってボートを進める。
かれこれ、もう二十分ほど経った。


「……近そう?」

「前よりかは」


は表情を崩さない。
その目は何を探しているのか、瞬きすらしていないようにも見える。
リーマスはオールを漕ぐ。


「……イカが来てる」

「え?」

「何か、こっちに近づいて来てる……こんなことをする人、珍しいからかしら?
 ちょっと危ないかも……」


と言いつつも、は体制を変えない。
ボートの縁に手を置き、真っ直ぐ下を見下ろしている。


「リーマス、向こう」

「はいはい」


の指差す方向へ進める。
正直に言ったら腕が疲れてきていたが、彼女の指示には逆らえない。
ぐっと腕に力を込めてボートの方向を変えると、がはっと顔を上げる。

そして少し唇に微笑を浮かべた。

は鞄の場所を見つけたらしい。
リーマスも少し安堵して、ボートを進める……が。
急に水流の流れが激しくなり、思うようにボートを進められなくなる。

は分かりきっていた口調で、言う。


「大イカか。ちょっと、私たちのことが煩かったのかもね」

「攻撃してくるとでも?」

「それは分かんないけど……」


大きな揺れがきて、は声を遮る。


「攻撃かしら、これって」

「そうかもしれないね」

「イカに攻撃ってして良いものなの? これは確か、貴重な種族だって言うじゃない」

「後々叱られるのは僕もごめんだ」


はボートの下に大イカの姿を見る。
ドン、とボートの底から音がした。

はふうと息を吐き、湖面の一点を見つめてから、急にマントを脱ぎ出した。
その次にはブーツまで脱ぎ出す始末だ。
そしてローブの下から手を突っ込み、杖を取り出して、それらを全てリーマスへ渡す。


「よろしく」

「……分かったよ」


今更彼女が何を始めようが、もう何も驚かない。
は最後にリーマスに微笑んでから、ボートの縁から湖面へダイブした。















が湖へ落ちた……いや、自ら入ったことで、湖の周辺ではザワザワとした喧騒が生まれていた。
鞄を落とした張本人の生徒に限っては、必死の目つきで湖面を見ている。
その後ろで、リーマスがの私物を携えながら、のんきにその生徒達の様子を眺めていた。

大丈夫なのか、いや、あの先生が滅多なことはしないだろうし――でもそれにしても、出て来るのが遅くはないだろうか――
生徒達はわいわいと言い合っていたが、鞄を落とした張本人の声によって、その声は掻き消えた。

湖面からの姿が現れたのだ。
身体を湖から出すと、は濡れた髪をかき上げて、生徒達のいる方へ歩み始めた。


「自分でもちょーっと、馬鹿なことをしたとは思ってるけど……はい、これ」


濡れた鞄を渡す。
生徒が持っている鞄に、は杖を取り出して魔法をかけると、鞄は瞬く間に乾燥した。
でもインクの滲みなどは完全には戻っていないし、落とす前の状態に戻ったわけじゃないことを説明し、生徒がお礼を言ってくれるのを聞き遂げる。
それに笑顔で応え、は自分の役目は終了とばかりに歩き始める。


「水も滴る良い女、って?」

「やめてよ、リーマス」


は苦笑しながら重いローブを絞り、髪の毛を軽く絞る。


「でも、やっぱり、細いよね」

「え?」

「今までマントに隠れていまいち分かんなかったんだけど……」


は身体に張り付いたローブへ目を落とす。
身体のラインが丸分かりだ。
は焦って、杖でローブを乾かす。


「セブルスがいたら、煩いことになってただろうなぁ。生徒達にも、目に毒だ」


あの男がこの場にいたら、何と言われるか……。


「このことは秘密でお願い」

「了解。お互いの身のためにも」


二人で視線を合わし、頷いた。



























2008/5/25






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