愛の巣














「痛いっ、痛いって、セブ!」


セブルス・スネイプの私室の部屋の扉を叩こうとしたリーマスの手が止まった。
手はノブを持ったまま、リーマスは目を瞬く。
何となく、すぐさま開けるのは、躊躇われた。

何が起こっているというのだ。
その声は明らかに、のものだった。


「やめ…やめてっ…」

「お前が望んだ事だろう?」

「そんな、皮肉込めた言い方、しないで。
 …私が、悪かったから…!」

「本当にそう思っているのか?」

「――っ、そんなに強くしないで!」


だから、何が起こっている?

単なる雑用が元でこの部屋を訪れたのだが、これは、何だ。


「いっ…あっ…」


だから、何をしているんだ?

リーマスはノブから手を離し、辺りを見渡した。
今の所他に人はいないが、全く生徒が通り掛からない訳じゃない。

の途切れ途切れの言葉が聞こえる。


「…っ…」

「そうだ、大人しくしていろ」

「もう…やめてよ、セブルス…私が悪かった、だから、もう普通にしてよ…」

「今更無理だ。分かるだろう?」

「分かる、けど…」


……防音呪文位かけろ。

リーマスは毒づいた。
これじゃあ誰だって、扉に耳を近付けたら聞こえるじゃないか。


「…貴方なら、どうにか出来るじゃ…っないの…?」

「…そんなに辛いか?」

「だって…考えてもみてよ、冷静に。
 本当これ、きつい…っ」

「ふむ…」

「もう我が儘言わないから!」


――だから、何だっていうんだ!

今にも泣きそうなの声は、初めて聞いた。
というかセブルス、この経緯を聞いていれば、何であったとしてもサド過ぎる。

リーマスははあと息を吐いて、立ち去ろうとした。
思う所がある。
これ以上は関わるべきじゃない、絶対に。

すると。


「…やはり人体には無理があったか?」

「そう、そうよ!
 普通にゴルパロットの第三の法則を用いるか、もしくはベゾアール石…は高いか。
 そう思ってその場に落ちてた液体を取ってきたのに…」

「お前も普通に元気そうだし、まあそれ程の時間も大丈夫だろう」

「まあ、体内に色んな毒薬の抗体は持ってるしね」

「…それは初耳だが」

「え? そうだっけ?」

「――全く…ブラックの傷も癒えぬ間に、一人でふらふら禁断の森を歩いてこれとは…」

「それは本当、御免なさいって」


リーマスは条件反射で扉を開けた。

其処には裸の足をセブルスに向けているがいた。
二人の視線がリーマスに向かう。


「…何だルーピン、お前は無断で人の部屋を覗き見る趣味があるのか?」

「嫌だなあ、さっき扉を叩いたけれど返事がなかったよ」


嘘だ。
嘘だが、リーマスはニコニコと徹底的に不機嫌そうなセブルスに飄々と言っていた。
リーマスの思惑通り、確かに扉が叩かれていたとしても、さっきの騒動ではそれに気付かなかった可能性があるので、セブルスは押し黙った。


「何か用なの?」

「簡単な事務作業なんだけど…」


はさっきまでの泣き声が何だったのか、リーマスが入って来るといつも通りの表情を見せていた。
リーマスはその間にその状況を見渡した。

の裸の足の酷く膿んだ傷に、セブルスが薬を付けている。
しかし彼は手袋をしているようだ。

…そうか、薬での治療か…

リーマスは用事をさっさと済ます。
そしてちらりとセブルスが持っている瓶のラベルを見ると、それは「一部の魔法生物用」と書いてあった。
そして「特効性」とも。

話が見えて来た。


「その薬、何?」

「いやね、私がちょっと不注意で怪我しちゃったから…」

「でもそれ人間用じゃないみたいだけれど」

「だから痛い、無理」

「お前が薬を付けて治療するのを面倒臭がるから、この時だけ我慢すれば大丈夫なものを選んでやったのだ」

「本当に治るだけなら歯、食い縛って我慢するけど、絶対これ副作用出るって」

「お前が試しても良い、って言うから試した」

「…でもよく考えると、怪我した以上に、変な症状が出たら…」

「お前は並みの事では死なない、と言っていたではないか?」


…軽く怒らせたのかもしれない。

はそう思った。
見た目は変わりはないが、内心では怒り心頭だったりして…でもこれも、自分を思ってくれているからのこそだ、というのは分かっている。
セブルスは冷淡に最後の言葉を言っていた。

は思い掛けない事に、頭を掻いた。
こんなつもりじゃなかったのに…

リーマスは状況を掴んだ。
そしてセブルスの様子との様子を見て、この場の感情の流れを掴み、じれったいような感覚に襲われた。


「まあ、まあ、セブルス。
 そう言っている間に解毒剤作ってあげたら? 何かあったら困るよ」

「作るのならだって作れるし、並大抵の事では死なないらしいからな」

「むきにならずに」


は困ったようにしていて、リーマスがセブルスを宥めていた。
そしてリーマスはゆっくりと次の言葉を言った。


「――良いなあ、はそんなに愛されていて――」


二人の驚いた視線がリーマスに突き刺さった。
当の本人は平気の平左で唇を緩める。


「セブルスが其処まで人の事想うの、初めて見たよ」

「…ルーピン、お前…」

「だって本当の事だよ」


セブルスは明らか、リーマスを酷く睨み付けていた。
は苦笑いをして、リーマスを見る。
それには軽い微笑が含まれていた。

奇妙な空気がこの場を支配していた。


「ああ、僕は邪魔だったね。じゃあ後は二人でどうぞ」


愛の巣に立ち入るのは許されない、とでも言いたげに。
リーマスはくるりと回って、あっさり扉から出て行った。

はリーマスに、心の中で感謝の言葉を述べた。

そしてとびっきりの笑みを作って、心の底からセブルスを思って彼の手をぎゅっと掴み、向かい合うように身体を返した。




























2007/8/3






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