哀悼
自分の胸については、整理がいっていたつもりだった。
ロングボトム夫妻の襲撃事件後、自身で犯人を捕まえ、アズカバンへ投獄した。
息子のネビルも救出した。
その後に省内の勢力のごたごたはあったものの、今となっては、事は全て収まったはずだった。
は魔法省の通路で、バーテミウス・クラウチ――国際魔法協力部部長を見た。
彼は、魔法法執行部から移籍しても、変わってない。
背筋を伸ばし、恐ろしくきちんとした身なりをしている。
はクラウチと目線が合った。
はどうしようもなくて、クラウチの方へ歩み寄った。
「クラウチさん、あの……」
クラウチは無表情でを見下ろす。
はその無表情にも関わらず、口を開ける。
「奥様に心からのお悔やみを申し上げます」
の目は何かをとつとつと訴えている。
感情を抑えた言葉が、感情を抑えた唇が、感情を表へ出す材料になる。
は手を緩く握り締めている。
そしてはクラウチと目を合わせているのに堪えられず、少し目を逸らした。
しかしクラウチは何も言わない。
「私のせい、ですよね」
は唇を開けて、呟く。
私がバーテミウス・クラウチjr.を捕まえたからだ。
息子をアズカバンに投獄され、それを奥方が思い悩まないはずがない。
勿論、この職業をしている以上、そういう恨みを負っているのは分かっている。
しかしそれは多くの場合、スリザリンの純血の家系だった。
まさかかつての上司の妻を亡くしてしまう原因を作っただなんて……。
「本心で思っているのか?」
「本心でなければ、こんな場所でこうして言いません」
クラウチは何を思っているのかは知らないが、じっとを見下ろしていた。
それは、とクラウチが最初に出会った時の光景に似ている。
「私の職業からいけば、馬鹿なことを言っているのは分かっています。
これを承知の上で、私は仕事をしているはずですから。でも、貴方を目の前に、私はこう言わずにはいられなかったんです」
「しかし君にこのようなことを言われる義理はない。
それに正直に言えば、君にこのようなことを言われても私は困惑するしかない」
「……」
それも、分かっているつもりだった。
でも、言わずにはいられなかった。
はきゅっと目を細めた。
しかしクラウチは、それを傍から見ているように、感情を表さない。
いや、は彼が感情を荒立たせているところを、クラウチjr.の裁判以降に見ていない。
あの裁判で、分かっていた。
私は、ロングボトム夫妻を拷問した死喰い人を捕まえたという世間からの賞賛と、自分自身の満足感、そして気が狂った夫妻への胸が辛く、苦しくなる思いを得た。
それで十分だと思っていたのに、裁判の時の怒りを露にするクラウチ、そしてその隣で泣き崩れる奥方を見て、また違うものを私は得てしまった。
しかし私は、己の恨みと自己満足から冷徹な目をしていたと思う。
こうなることは、分かっていた。
しかし今、私は胸が苦しい。
勿論、フランクとアリスを病院に送るしかなかった時と比べたら、その苦しみはずっと小さい。
しかしその分、胸の中はこんがらがって、痛いほどの心の痛みはないけれど、それを解くことが出来ない。
不可能だ。
「――ごめんなさい。全て、私の自己満足です。私は……どうしようもないですね」
「そうだな」
「……これ以上、何かを言っても、私は愚かな言葉しか吐くことが出来ません」
「ならば口を噤むべきだ」
は口を噤んだ。
そして顔を下げて、じっと足元を見つめてから、顔を上げる。
クラウチ相手に、一つ頭を下げた。
黙ったまま去るの後姿を、クラウチは見送っている。
感情など、切り捨てれは良いのに。
人への同情などという感情など、切り捨てれば良い。
闇祓いという職業に就いている者の多くはそうしている。
感情を切り捨てなければ、特にこんな時代は、こんな仕事をやってられない。
それに下手な感情を持たれても、こっちが困るだけだ。
歩き去るの後姿は、最初に彼女に会った時よりかは、大きかった。
しかしそれに反して、彼女はあまり変わっていない。
世間が彼女へ与える評価は、大きく変わったというのに。
クラウチはに背中を向け、歩き出した。
これ以上、彼女へ関与する必要は自分にはない。
既に属する部が違う。
・は、立派な闇祓いだ――彼女の感情や思惑を別にし、世間はこう思っている。
これで良い。
自分が彼女の前途を案じなくとも、ムーディが彼女をうまく誘ってくれる。
それに、闇祓いが駒となる時代は、もう終わったのだ。
2008/5/25
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