相撃ち














は、向かい合っている死喰い人へ魔法を放った。
それが間違いなく直撃し、死喰い人が倒れ、もう立ち向かって来ずに事切れたのを確認する。

残りの死喰い人と向き合っているムーディへ、顔を向けた。
それに加勢すべく、足を進める。
ムーディは目の前にいる死喰い人に気を取られており、背後にいる者に気がいってない。

しかし、まさか彼が背後にいる者へ攻撃を許すとは思えなくて、は焦りはしていなかった。
しかし目の前で、ムーディの背後にいる者が魔法を発する。
ムーディはそれに対し何の防御策もしていない。

こういう様子は今までも目にしたことがあった。
しかしこれは、その時のものとは違う。

それが判別出来るほどに、は経験を積んでいた。


「……!!」


まさか。
危ない!

感情が入り混じったまま、はムーディの元へ駆けつけた。
光の閃光がすぐ其処まで迫って、ムーディの背後に来た時には、の胸の数十センチ前までに迫っていた。

は杖を振る。
そしてすぐさま、ムーディを庇う格好になって、腕で魔法を受け止めた。
数割ほどは受け止めることが出来たと思う。
直撃は避けられただろう……。

死喰い人はの放った魔法が肩に当たり、肩に手を添えてその場に留まっている。

相撃ちのような格好になって、は背後を振り向いた。

ムーディは地面に膝を着き、手で顔を包んでいる。
その指の間からは、血が。
このような状況になっているのに何も言わないムーディの様子から、はいつものような「掠り傷」ではないと判断する。

は杖を構え直した。
の杖腕からも血が流れ出て、袖から流れ落ちる。

殺さなければ、彼は止まらない。

目の前の死喰い人も、杖を構え直した。
はその姿を睨み、威嚇する。
しかし死喰い人はそれに怯むことはなく、杖を振る。

はそれを防御するよう杖を振ろうとすると、途端に腕が痛み出した。
どのような呪詛を受けたのか分からないが、今、こうして痛み出したのは事実で。
何とか杖を振ったが、腕はじくじくと痛む。

は息を大きく吐く。
目の前に、また魔法の閃光が迫っている。
はまた痛みが酷くなるのを覚悟で、呪文を唱えようとするが……。

背後から魔法が飛び出した。
それはの目の前の閃光をかき消し、死喰い人へ当たる。
死喰い人は地面に倒れ、動かない。


「手加減は出来んかった」


は背後に振り返る。
ムーディに頷きで応えてから、はその場をぐるぐる回り始めた。
一人一人、倒れている人の脈拍を確かめて瞳孔を見る。

それだけをしてから、ムーディの元へ戻る。


「全部、片付いてるわ。皆死んでる。貴方を聖マンゴへ送り届けてから、此処の始末をするわ。良いわね?」


無言を肯定と捉え、はムーディの手を引き病院へ姿眩ましした。














はまた戻って来る。
目の前は悲惨な状況だった。

腕に応急手当をしてもらい、ムーディは病院へ留めた。
は一人一人の死喰い人の元へ歩みを進めた。

再度瞳孔が開ききっているのを確認して、瞼を下ろす。
緩く魔法を使って、彼らを一箇所へ集まる。
集まり終えた後、は彼らの前へ立ち、見下ろした。

この状況がさして珍しくない、と思っている自分にはもう慣れている。
力のない肢体の感覚は知っているし、死人の空ろな目つきも知っている。

最初に警告はしたが、彼らはそれを拒否した。
捕まるくらいなら、死んだ方がましだと言っていた。
こうするしかなかったのだ。

ただ感じるのは、方向がほんの少し違ったら、自分がこうして力尽きていたかもしれないということ。
そして命乞いをするより、最後まで自らの信念を貫いた彼らへの何ともいえぬ奇妙な尊敬の念――死喰い人と闇祓いは、少しべクトルが違うだけの存在だ。

は最後に数秒間目を伏せた。















「――よし、こんな感じね」


は聖マンゴの病室で羽ペンを手に取っている。
ムーディは顔に包帯を巻き、ベッドの上にいる。
どうやら鼻が欠けたらしいが、それ以外に損傷はないらしい。

は報告書を書くために必要なことを聞いて、纏めていた。
しかしそれも終わって、は用具を片付ける。

ムーディはちらりとの右腕を見た。

は椅子に座ったまま、ムーディを見る。


「で、いつ退院出来そうなの?」

「ヒーラーは二週間ほどだと言っていたが」

「そうはしてられないわよね」


この病院の常連であるは、事慣れて言う。
そのの微笑を見て、ムーディは肩を落として溜息を吐いた。


「……まさか、お前に庇われるとは……」

「落ち込んでるの?」


いつもは反対の立場だった。
しかし今は、はピンピンとしていて、ムーディはベッドの上だ。

こんなことは初めてだった。

はじっとムーディを見ている。


「……でも、私、よくやった、でしょ?」

「ああ、その通りだ。ただ己の不甲斐なさを感じているだけだ」

「私に庇われて、不甲斐ない?」

「お前がいなければ、死んでいたかもしれん」

「じゃあ、私がいて良かった、で終わったら良いんじゃないの? 結果オーライってやつ」


ムーディは黙る。
は、彼の考えていることは分かってはいる。
彼は、私のことを子供がちょっと大きくなった、程度に思っていたのに、こうして庇われるだなんて。

守る守られる、の役割が、あの時初めて逆転したのだ。

でもにとっては、ムーディには余り余るほどの恩があるから、少しそれを返せて嬉しかったという気持ちがほとんどだ。


「結果も運も実力の内よ。結果が良ければ全て良し」

「お前は相変わらずあるところで楽観的だな、

「有り難う。それに、私が戦闘で何とか振舞えるようになれたのは、アラスター、貴方のお陰だし――」


ムーディの視線を受け止めて、は微笑んだ。
結局彼は、全て自分の行いでこの結果を得たのだ。
私をこうしてほどほどに杖を振れるようにしてくれたのは、彼だ。

ムーディはのその思いを受け止めたのか眉間の皺を緩めたが、すぐに皺は戻って来る。

はふうと息を吐いて、自分が介入しても仕方がないと思い、席を立つ。
彼自身の問題だろう。
私自身としても、闇祓いとして、確かにこれは死活問題だと納得出来る節もある。


「でもね。ちょっと、私が貴方を庇うことが出来るまでに成長したこと、認めてもらえるかなあ?」

「――ああ」

「やった! じゃあ、一つ聞いて欲しいことがあるんだけど……」


は入り口で、くるりとムーディの方に振り向く。
そして満面の笑顔で言った。


「愛称で呼んで。これから、私のこと」


どうして?、とでも言いたげなムーディに、は再度口を開く。


「アラスターとちょっと肩を並べることが出来たような気がするような気がするし……。
 それに、フランクからもアラスターだけ私のことをファーストネームで呼ぶのは不自然だ、って言ってた。だから……」


口を閉じて、じっと返答を待つ
目はキラキラと期待で光っている。
ムーディはそれに応えないわけには、いかなかった。


「……分かった」

「有り難う!」


はまた満面の笑みでそう言って、扉から出て行った。
その後姿は子供そのもので、ムーディは唸る。

もうちょっと大人になっていると、思っていたのだが……。

が立ち去った後、扉が開いてヒーラーが部屋へ入って来る。


「あなたのお弟子さん、何か妙に楽しそうだったんですけれど、何かあったんですか?」

「何も」


銀縁の眼鏡をかけた若いヒーラーは、無愛想なムーディの言葉にも笑顔で対応する。


「それでは、一つ、本格的な治療の前に確かめたいのですが、どれ位で退院を希望されます?」

「三日だ」

「三日では、完全な完治はまず不可能ですよ。それに傷口が安定せずに、綺麗な状態に治りません」

「それで結構だ。早く治療をしてくれ」


ヒーラーは患者を見下ろし、カルテをもう一度見直す。
淡い緑の目は冷静だ。


「どうしてそんなに退院を急がれるんですか?」

「あの「弟子」を、一人で放っておけると思うか?」


ヒーラーはそう言うムーディを見て、肩を下ろす。
師匠馬鹿か。
素人から見たら、彼女も腕の立つプロに見えるのだが。


「分かりました。三日で退院しましょう」


こんなご時世、闇祓いの一人を早く退院させても、誰も文句は言わないだろう。
勿論、この病院の年配のヒーラーにも。

若いヒーラーは自分を担当している中年のヒーラーの存在を思い出し、軽く受け流した。
物分りが物凄く悪い人ではないし、まあ、何と言ってもこんなご時世だし……。

それにこの師匠、弟子に比べたら、ましだ。
まずちゃんと治療を受けようとする意思がある。
人から聞いた話と自分の経験から、のこの病院での行動パターンは分かっていた。

まあどっちにしても無謀な請求をしてくるが、その辺りは癒療に携わる者としての腕の見せ所だ。
ハイリスクハイリターンの因果応報を、どれだけ和らげることが出来るのか。

しかしこの師弟に関わるとろくなことがないと思いつつ、若いヒーラーは顔に笑みを作った。
妙な挑戦をさせられる。
出来ればこれ以降、関わりたくはない。



























2008/5/25






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