不釣合い
「と同居したらしいね」
話しかけられた男は、目の前で煙草をくわえている男――フランク・ロングボトムを見る。
ムーディは鋭い黒目を曇らせ、唇をひん曲げながらも冷静に言葉を放つ。
「素っ気無い言葉と裏腹の他意を、視線に感じるぞ」
「別に俺はそんな気はないけど」
「いいや、妙な卑下の視線を感じる」
「そっかな〜」
フランクは口から白い煙を吐き出した。
白い煙が煙草のヤニで黄色く汚れた天井へ上がっていき、薄く消える。
ムーディは腕を組み低く唸る。
「フランク、世間からの目は知っている。忠告は無用だ」
「それくらい分かってるよ」
ならばどうして、とムーディは尋ねる。
「この悪い時代では、人は変わりやすいから」
「ほう」
「アラスターのことは分かっているつもりだけれど、それが全てなのかも分からないし」
ムーディはフランクの言葉を否定する気はなかった。
「身寄りのない子を引き取った、で全てうまくいく世の中なら良いんだけどね。
勿論アラスターがのことに取り入っているのは分かってるし……でもなあ、やっぱ十代の若い女の子なんだよなあ……」
幾ら、身を寄せる場所がないとしても。
幾ら、身を危険に晒しているからと言っても。
幾ら、見た目がとても幼いとしても。
……いや、寧ろその幼さが危うい噂を呼ぶのだろうが。
若い娘を匿うと様々な波紋が生じる。
「それにアラスターの家、かなり危険じゃん。の安全確保になってないし」
「……お前も素直に事を聞き入れられない人種か」
「アラスターだってそうじゃないか」
職業柄疑い深い彼らは、不毛だ。
「俺は、単にがあんたに取って食われなけりゃ良いんだよ」
「お前も相当に肩を入れているな」
「アラスターには構わないよ」
ニッコリと微笑むフランクに、ムーディは肩を落とす。
そういえばこの男は可愛いらしいものが好きだった……今、彼の周りでそれに相当するのは、彼の奥方とくらいなのだろう。
「こんな世知辛い世の中だと、人は本能を剥き出しにする。いつの世だってこれは変わらない」
「ああ」
「アラスター、あんたは?」
「大丈夫だ。は女には見えん」
「俺は見えるけど」
「意見の相違だな」
男達の会話はそこで途切れる。
二人とも妙に達観した姿勢を持っていた。
フランクは飄々と変わらず煙草をふかし、ムーディは腕を組んでいる。
「そういう趣味はないんだ」
「生憎な」
「俺は結構いける口だけどなあ」
「やめろ、アリスがいるだろう」
「だから彼女が俺の趣味のストライクなんだよ」
また会話が途切れた。
ふいにムーディが溜息を吐く。
「お前がわしのことを言えた道理があるか」
「ただの保護欲だよ。でも、この事実が広まったら、世間じゃアラスターがそういう趣味だって広まるんじゃない?」
「戦時中の単なる噂だ。終われば自然に消える」
「……いつ終わるかなあ……?」
数秒の時間が経った後、急に若い声が聞こえた。
「先ほど捕らえた死喰い人三名、地下へ繋ぎました」
だ。
黒の瞳を二人へ向け、感情のない声で告げる。
その報告を待っていた二人は、重い腰を上げた。
「お前は此処で次の作戦の指示を受けておけ」
「はい」
無駄なことを言わず、は二人を軽く見送って部屋の中へ消えていく。
「また嫌な仕事だ……」
「……」
フランクは明らかに嫌な顔をしている。
の報告は、その後の事情聴取を二人が行うことを暗示している。
事情聴取、それは拷問に近い。
また本能のありのままの人間の姿を見ることとなる。
「早くこんな戦争終わって欲しいもんだ」
フランクの言葉にムーディは無言だ。
それに答える代わりに、ムーディは自身の杖を確認した。
2008/8/13
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