求愛














ヴォルデモート卿がハリー・ポッターによって討たれた後、ルシウス・マルフォイの姿が何気なく魔法省内にあるのを見て、は憤りを感じた。
あの男は何とも手回りが良い。
ヴォルデモートに気に入られかつ、魔法省でも立場を失っていないだなんて。

はルシウスがいる部屋をちらりと眺めながら、その前にある廊下を渡った。
彼に関して良い記憶はない。
ただ、彼の狡猾さに苦く賞賛を胸に抱き、己の不甲斐なさに唇を噛むだけだ。

そうしてルシウスの姿を魔法省内で見ることはあったが、はそれを見なかったことにして過ごしてきた。

そんなある日のこと、ムーディとが連れ立って省内を歩いていたら、何と目の前からルシウス・マルフォイが歩を進めてくるのだ。
これは……出来れば無視をしたいが、そういうわけにもいかないような……。
はムーディを見上げると、ムーディもムーディで不穏な目つきをしていた。

師匠と私は同じ意見を持っているようだ。

ルシウスは品のある微笑をたたえて、口を開く。


「これはこれは。あなた達のお噂はかねがね聞いております。連れ立って、またお仕事を?」

「マルフォイ。わしは、今、此処で、お前にすべき話は全くない。お分かりかな?」

「これはまた、嫌われたもので……」


ムーディはそうとだけ低く警告するように述べると、するりとルシウスの姿を越える。
もそれについて行こうとしたところ、目の前にルシウスの姿が割り込んだ。
はそれに留められる。

ムーディはチッと舌を鳴らした。


「あなたはどうです? Ms.?」

「彼女はわしと行くべき所がある。今すぐ其処を退いてもらえんか?」

「Mr.ムーディ、私は彼女に聞いている」


ムーディは、忌々しい、とでもいうようにルシウスを睨んだ。
しかしルシウスはその視線を気にするどころか、涼しげな目つきでを見下ろす。

も師匠によく似た目つきで、低く答えた。


「私は、貴方に対して好意は持っていません。退いていただけませんか?」


はっきりとした言葉、そしての明らかな敵意を含んだ目に、ルシウスは笑った。


「確かに、私はあなたに対して好かれるようなことはしてませんね」

「だから、其処を退いて下さい、Mr.マルフォイ」

「だからこそ、あなたともう一度話をしたかった」


はぎゅっと眉を寄せた。
ルシウス・マルフォイと最後に関わったのは、随分前だ。
その時は闇祓いとして死喰い人に捕らえられ、ルシウスに意味なく性的暴行を加えられたような……加えられなかったような……。

彼を目前にすると、その時の記憶が鮮明になってくる。
胸の中にぐらぐらと感情が溜まっていく。


、私はこれからあなたに好かれるようなことをしていきたい」

「……どういう意味ですか?」


ルシウスは、の顎をするりと掴んだ。
の顎が上へ上がる。
は益々この状況に眉間に皺を寄せた。


「あえて示すなら……」


ルシウスは不敵な微笑を見せている。
触れられている顎が不穏な動きをしないか気を配っていると、予想外にルシウスが腰を折る。

無防備だった額に、唇が当てられた。

は、途端にずざざっと身体を引いてルシウスから距離を取り、唇の触れた場所に手を当て、目を見開いて、眉を寄せる。
苦さと驚きに満ちた顔をしているが、歪んだ唇からは言うべき言葉が出て来ない。
小さな言葉が唇から僅かに、漏れるだけだ。

目からは僅かに嫌悪の視線が。

ルシウスはの何とも幼い反応に満足して、その姿を目に留めてから、マントから懐中時計を取り出した。


「もう行かねばならないようだ。仕事がある――それでは、失礼」


ルシウスは優雅に二人に対して腰を折って、迷うことなく廊下を歩いて行く。
良質な生地の黒いマントが翻った。

はきょとんとそれを見ていたが、額をごしごし擦りながらムーディの元へ歩く。

ムーディは、ルシウスの後姿を苦々しげに見ている。


「面倒な奴に気に入られたようだな」

「……そう、かも。ねえ、アラスター、何もついてない?」


そう言って前髪を上げて額を見せ、縋るような目つきで見てくるに、ムーディは大丈夫だと言って頭に手を置いた。
は心地良い頭への刺激に、満足する。


「あの人、のうのうと魔法省を歩いていられるのね」

「捕まえるのに足りる物証はかき集めたら何とかなるかもしれないが、上がそうとは言わないだろう」


歩き出すムーディを、は追いかける。


「……あの人、女に対して皆あんな感じなの?」

「そうだと言えばそうかもしれんが……」


ムーディはを見下ろす。
多分、そうではないのだろう。
しかしそれを、も分かってはいた。

面倒な男に気に入られたを見下ろし、まだ無邪気な顔に溜息を吐く。
いらない面倒を負ってしまった彼女に同情する。
それにしても、ムーディはさっきのルシウスの行為に対して、何ともいえない苛付きを覚えていた。

しかし二人は何事もなかったかのように、歩みを進めている。




























2008/3/19






close