恋愛














正直に言うと、私はそんなに初心ではなかった。
性交渉の経験が全くなかったわけではないし、仕事上それを利用して作戦を行ったことがある。
……いや、仕事上の場合は、最後までことが行われたことがなかった、と補足しておくが。

そして過去、多少はそのような拷問に対する耐性をもつよう訓練したこともあった。
磔の呪文や服従の呪文の耐性をつけるのと同じようにだ。
まあ、その訓練が功をそうしたことはあまり今までないけれど。

このように、私は人に言われるほどそんなに初心ではない。
むしろほどほどに世間ずれはしているが……私に足りなかったのは、男女の情を解する力の方だろう。

冷静にこう解釈する。

割り切ったものならば、私は何とでも対応できる。
しかし欲情や本能ばかりではない、男女の情を含んだ恋情や愛情を向けられるのには、全く慣れてはいない。
それにそれを向けられること事体が、あの時の私にとっては恐怖だった。

ああ、だから私はあんなにもうろたえてしまったのか。

冷静になってからやっと納得できた。
自分の二面性がどうも不思議になってきていたのだ。


「なるほどな。これで納得した」

「え?」

「当初はすぐに顔を赤くしてうろたえていたのに、少し時間が経ったら、そっちから乗りかかってきただろう」

「……私、ずっと受身でいるのは性に合わなくて」

「他の男にもそんなことをしたことが?」

「うーん……数回位は?」

「……仕事ではどんなことをしたんだ?」

「ベタに、娼館で娼婦の真似事とか、夜中に囮になるとか――」


は首への刺激に身体を疎ませる。
キスマークが残される。


「嫉妬深い男は嫌われるわよ。それに貴方だって、そんなこと位分かっていたでしょ」

「分かってはいたが、もう少し自分の身体を大切にしたらどうだ?」


はセブルスに目を向けて、少し首を傾げる。


「貴方が大切にしてくれるでしょ?」


が何気なく言った言葉。
セブルスが急に何も言わなくなったので、ますますは首を傾げる。


「殺し文句だぞ、それは……」

「え? ってちょっと……! 今の冗談だって!」


はセブルスの手をガードし、踏み止まる。
は顔に奇妙な微笑を浮かべる。


「本当に冗談よ。だって貴方、本気で大切にしてくれるの? 私なんて遊びなんじゃ……」


そう言う唇を塞がれる。
もまんざらではないようで、自然にそれに応え始める。

いつも、こうなる。
二人の関係を明確に口にする、お互いが心に思っているだろうことを口にすると、それは冗談扱いされるか、塞がれる。

いつものこと。

つまりは、この関係は、時にただの他人の傷の舐め合いだけなのかもしれない。

だって本気でさっきの言葉を言っていない。
冗談扱いされるのは分かってのことだった。
だから、は応えた。

なまじ、相手を見知っている他人であるから。
なまじ、相手の過去を知り合っている他人であるから。
そしてその他人同士が、一緒にいても不和を起こさずに心地が良いから。

今の所、不和を起こさず、心地が良いから。


は目を開く。
目の前にいるのは人間で、私も人間だった。
愛を求めて、肉を求めるのは、個体として生きる上で人間に必須のものだ。

結局、私は誰かに愛されたかったのだ。
愛されて、過去を埋め、充足感を得たかったのだ。
心からそれを強く願うほどに。
しかし、誰かに愛されたくない人間はこの世に存在しないだろう。

愛されることなく、愛を求めることさえ出来なかったら……ヴォルデモートがそれの良い例だ。
目の前のこの人は、それを求めることが出来るから、彼とは違うのだ。
ヴォルデモートと彼が、生い立ちの上で似通っているということは知っていた。


どうして彼は、それを私に求めたのだろう?

どうして、私?

彼の過去を知っているという、条件が整っていたから?


は最初に彼と対面した時を思い出していた。
あの時、彼は何を感じたのだろう――?


私は……彼を信じたいけれど、信じることができない。
それは永遠のもののように思う。
彼の心の全てを見るまで。

けれど私は、今もこの関係を続けてしまう――ああ、この、心地良さに流されて――


はじっとセブルスの姿を見る。
見えない。
いや、私は、ただ見ようとしていない。

どうして?

傷付きたくないから。
怖いから。
いや、違う。

私も、利己的に、自身が大切で、心の本当の奥底に意地の悪いものが蔓延って、見ようとしていないからだ。
だって私と彼は他人だから。
他人のものまで背負いたくないんだ。
自分のもので、私はもう精一杯だから。


私の口は善を叫んでいるが、心はそうではない。

だから、互いに私達は傷を舐め合うのだ。

似たもの同士が対になって……。

お互いに遠くを見つめ合っているのだ。

傷を舐め合うその方法が、互いに愛するという行為なのだ。

クリスマスのあの夜から、私達は傷を舐め合っていた。
私にはこれを崩すことは出来ない。
彼だってそうだろう。
これはあまりにも、心地良過ぎる。


「セブルス?」

「何だ?」

「貴方のこと、信じても良いのよね?」

「……」


はいつものように笑う。
いつもここで黙るセブルスが面白い。

そうは思いながらも、私は、彼に多少の希望を抱いている。
恋愛の苦い思いはもう真っ平だ。

だけれど、私は、もう、何となくは分かってる。

でもそうは思っていても、やっぱり希望が捨てきれない私が、此処にいる。
彼の言う言葉をそのまま信じたい私が、此処にいる。

そこで私はいつも思い返すのだ。

彼が彼の言う言葉のまま思っているのならば、彼はもっと私に心の内を見せてくれるはずだ、と。

しかし、私は、彼が用意してくれるこの温もりを見過ごすことは出来ない。

互いに愛し合っていることに、間違いはないのだから。


そのことに比べたら、この複雑に絡まった二人の間の思いのわだかまりは、あまりにも小さくて見えなくなるのだ。
心の底にほんの小さく堆積しているだけで、心の表面にはもう表れて来ないのだ。
忘れ去られてしまうほどの小さな埃となって、どこかへ飛んで行きそうになるのだ。

むしろ、飛んで行ったら良いのに。

しかしそのことは心の核と関係しているので、お互いに飛ばすことは出来ない。
時々ふと心の表面に現れて、さっきのような言葉をへ吐かせるのだ。

これが大きくなった時、きっと私達は相反する道を取るのだろう。

それがいつになるのかは、きっと誰も分からない。



























2008/8/13






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