ぶったり、叩いたりしてはいけません。














客人は、とても、珍しかった。
控え目に叩かれた扉。

外で扉を叩いた人は、なかなか返事が来ないことにいささか不信感を抱いたらしく、少しの間ガタガタと扉を動かした後。


「フィルチさーん。いらっしゃいますか?」


この声は、誰のものだったか。
それにぐるりと思案を巡らせる。
その間も、扉はガタガタと鳴り続けていた。

しばらく経つと痺れを切らしたらしく、外の人物はまた声を上げる。


「いらっしゃいますよね? このまま開けて下さらないのなら、実力行使で開けさせていただきますよ。校長先生からお届け物です」


実力行使――すなわち、魔法だ。
フィルチはちっと舌を鳴らし、扉を開けに行く。
開けたそこに立っていたのは、少し不満げな様子の魔女だった。


「いらっしゃるのなら、どうしてすぐに開けて下さらないんですか?」

「この頃耳が遠くなってね」

「そうなんですか?」


魔女はずかずかと事務所の中へ入ってくる。
物珍しそうに事務所の様子を眺め、ピカピカに磨かれている鎖や手かせにじっと視線を寄せた。
フィルチは明様に眉を寄せ、苦々しく言う。


「校長先生から届け物があるのなら、中まで入る必要はないだろう?」

「ええ。でもちょっと……気になったものがあって」


魔女は鎖を指差す。


「ご趣味ですか?」


この魔女、闇祓いのエリートであり、何の因果かこの学校の先生の立場に収まっている。
実際の歳の割にはえらく無邪気に、魔女は首を傾げていた。


「……趣味だと答えたら?」

「そうなんですか」


魔女は一人納得したように、はい、とフィルチに届け物を渡し、テクテクと事務所から出て行く。
フィルチは思わず焦ってその後姿に声をかける。


「いや、いや、もう少し疑問を抱くとかだな……」

「じゃあ、何のための鎖なんですか?」


魔女はくるりと振り返った。


「規則を破った生徒に、罰則として――」

「ああ、ご趣味なんですね。やっぱり」

「罰則だ!」


魔女は少し眉を寄せて、フィルチへ向き直った。
マントの下で腕を組み、フィルチを見上げる。
真っ黒な目をじっとフィルチへ見据えた。


「ダンブルドア校長は、そんな罰則の方法をお許しになってはいないですよね。
 なのに、現時点で利用価値のない鎖や手かせをあんな風に、さも大事そうに保管しているだなんて、趣味としか私は捉えることが出来ません」


そう言ってから、魔女は少し表情を崩した。


「まあ、別に私は批判する気はないですよ。世の中には、もっと異常な趣味嗜好を持っている方が、たくさんいらっしゃいますから」


魔女はそう言って、小さくお辞儀をしてから事務所を出て行った。
フィルチはポカンとしてそれを見送る。
嵐のような女だった。

そして、小さく唸る。
何となく、ダンブルドアがこの魔女を雇ったわけが分かった気がした。
ダンブルドアとこの魔女――確か、――は、微かに同じ匂いがするのだ。



























2009/1/13






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