人気のない所で行ってください。














日が暮れたクリスマス・イヴのホグズミード。

しんしんと雪が降る中、恋人達は手を取り愛を育む。
街路の暗がりにはひっそりと恋人達がたたずみ、控えめに肌を触れ合う。
そして耳に囁くのだ。


「特別警戒実施中です。申し訳ないのですが――」


は苦味を帯びた微笑を顔に浮かばせ、こっちを見開いた目で見る恋人達に言う。
の杖の灯りがその場の三人の顔を浮き上がらせる。


「後十数秒で吸魂鬼が此処にやって来るので、場所を変えられた方が……」


その声で、恋人達は急いでその場から離れる。
女性が雪で足を滑らすのを男性が支えた。
最後に、女性はの方を露骨に睨み付ける。

は頭をかく。
全く本位ではない。
むしろ、親切心からなのに。

は寒さを訴える首にマフラーを巻き直し、後ろを振り返る。
後ろにはわらわらと吸魂鬼がいる。
が合図をすると、吸魂鬼はの後に続いてぞろぞろと歩き出した。















「こんばんは。申し訳ありませんが……」

「特別警戒中だろう? 早く入れよ」


は後ろの吸魂鬼達に合図し、バーの中へ入る。
が引き連れている吸魂鬼達は、バーの中をぐるりと回る。
元々其処に客はいなかった。

ただ、顎ひげを生やした老齢のバーテンがじっとを見ている。
はその視線に気付いているのか気付いていないのか、飄々と吸魂鬼を指揮する。
吸魂鬼が粗方バーの中を見回り、が最後に声をかけてバーを出ようとする時。

目の前にバタービールの瓶が差し出された。


「クリスマスにご苦労。餞別だ」


は目の前に差し出された瓶に、目を見開く。
バーテンはと吸魂鬼をチラリと見て少し呆れた口調で言う。


「吸魂鬼とクリスマス・イヴを過ごす女へ」

「有り難う御座います。Mr.ダンブルドア」

「それじゃあ、向こうの偉いさんの校長みたいじゃないか。アバーフォースで良い」


はにっこりと微笑を浮かべる。


「有り難う、アバーフォース」


そして慇懃に自己紹介を始め、吸魂鬼をバーから出そうとしないを、アバーフォースは追い払う。
気が利かない女だと思い、ドアをばたんと閉めて一人呟く。


「マッド=アイの弟子のだろ」















ホッグズ・ベッドを出て、はホグズミードを回る。
また何度も忍んでいる恋人達を発見し、は嫌になる。
人目を避けているのだろうが、それを発見せねばならない自分の仕事に悲しくなる。

最後の巡回は、三本の箒だ。

やはり吸魂鬼とずっと一緒にいるからなのだろうか、寒さが身に染みてきた。
はマントを身に巻きつけ、マフラーを締め直す。
白い息がふわりと空気に立ち上る。


「こんばんは――」

ね。早くやっちゃって頂戴」

「はい。いつもごめんなさい」


は吸魂鬼と一緒に三本の箒へ入る。
クリスマスツリーの灯りが吸魂鬼のせいなのか、鈍くなったように見える。
パーティをしていたらしい魔法使いの集団は、一団となり明様に吸魂鬼を避ける。

その様子を見た後、は三本の箒の奥へ目を向ける。
其処には……。
は其処へスタスタと歩み寄った。


「大臣? 私用ですか?」

「私用だよ、


親しそうにマダム・ロスメルタと話し込んでいた魔法大臣、コーネリウス・ファッジ。
は目だけで周りを見渡す。


「別に、貴方の私的なところに踏み込もうとは思いませんが、週刊誌のネタになるような行動をする時はもう少し人目をはばかったらどうです?」

、今日はクリスマス・イヴだ。そんな無粋なことをする人は――」

「いるから、私がこうやって目を光らせているんです」


は此処にはパーティを純粋に楽しんでいる人しかいないことを確認して、息を吐く。
無防備な大臣だ。
多少の変装はしているようだが、それもうまいとは言えない。


?」

「はい?」


マダムの呼びかけに、は首を傾げる。


「大臣と話し込みたいのは分かるけど、早く吸魂鬼を私の店の外へ出してもらえないかしら?」


その声には、とげとげとしたものが多量に含まれていた。















吸魂鬼を所定の位置へ戻し、は一人で三本の箒へ戻って来る。
わいわいとパーティが開かれている所を抜けて、奥へ足を進める。
変わらずに大臣とマダムが親しげに話し込んでいる。

は、その隣に座った。

隣にいる大臣とマダムは、酒で大分出来上がっているように見えた。
の目の前にドンとバタービールの瓶が置かれる。


「寒かっただろう? 私の奢りだ」

「ありがとう、コーネリウス」


寒さで身体は未だ動きにくく、かじかんでいる。
ゆっくりと瓶を掴んで、喉にバタービールを流し込む。
ほっこりと身体が温まる。

すると、今度は目の前に赤い艶々とした苺の乗ったショートケーキが差し出された。


「向こうの皆さんからだって」


はパーティが開かれていた方向を窺う。
其処にいた魔法使い達が、へ向かって手を振った。
酔っている彼らに、も少し手を振り返す。


「有名人ね、

「そんな……」


は目の前のケーキをじっと見つめた。
不穏な気配がないことを確認し、少し匂いを嗅ぐ。


「もう、慎重なんだから」

「ほら、

「あ、いえ、そんな……」


フォークに刺されたケーキを、大臣が差し出す。
無理やり口にケーキを入れられた。
はフォークを受け取り、甘いクリームを舌で溶かす。
バタービールだけが入っている胃の上に、ケーキが乗る。

スポンジを飲み込んで、は呟く。


「……ちょっと洋酒が……」

「ほら、

「コーネリウス、私を故意に酔わそうとしているんじゃ……」


と言いながら、はフォークを受け取る。
そしてじっとケーキを見つめる。
パクリと口にケーキを放り込んだ。

ちょっと酔いたい気分でもあったし、久々に食べたケーキが美味しかったのだ。

そうすると、またバタービールが口元に持って来られる。


「ケーキとバタービールはちょっと、個人的には……」

「固いことを言わない」


は眉を寄せながらも、バタービールを飲む。
甘いものが甘いもので溶かされ、舌が気持ち悪くてまた眉を寄せる。
しかし、それと同時に顔が熱を持って、頭が少しぼうっとする。


、これ位のアルコールならひどく酔いはしないでしょ?」

「……マダム、計算していたの?」

「だって、いつも吸魂鬼を引き連れて真面目に仕事をしているに、今日くらいは酔って欲しいと思って」

「……そう」


そう言って、またはバタービールを口に含む。
瓶をトン、とカウンターに置いて肘をカウンターに着く。


「私、ただ仕事をしてるだけなのに、邪魔者みたいに睨まれるなんて、やってられないわ」

「どういう意味だい?」

「日没後に、クリスマスだからって浮かれている恋人達に注意を促して……私は何も悪いことはしてないのに。
 むしろ親切心から場所を変えるようにって言ってるのにさ、あんな対応はないわよ。
 誰もかれも浮かれて調子に乗って……」

「恋人達にやきもち?」

「やきもちなんか妬いてない!」


そうは言って、深く溜息を吐いた。
目はじっとカウンターを見つめる。


「ろくなことがないわ。
 この前だって、スネイプと特別な関係になってるとか、誤解されていたじゃない。
 そりゃあ仲良くはしてるけど、そんな風に誤解されるとか、心外だわ。
 もー、嫌、この頃やってられない……」


アルコールが入って一気に愚痴るに、大臣は肩をポンポンと叩く。
またはバタービールを喉に流す。
バタービールが酒代わりになるなんて、安い女だ。


「終わりには、コーネリウスまでマダムと親しげに……」


大臣は苦笑する。
そうすると、店内に明るい曲が流れ出した。
今まで流れていたものよりリズミカルで、大臣が店内へ目を向けると、店の真ん中にはダンスをするスペースが作られていた。

大臣はマダムの姿を探す。
すると、もう彼女は違う人とダンスを踊る風に手を取っていた。
大臣は顔を曇らせる。
もいつの間にか店内の変わりように気付いていたようで、視線は真ん中のダンスホールに注がれている。

黒ずくめの服を着て、頬が微かに赤らんでいる
表情は、気のせいかいつもより緩んでいる。
大臣は手を差し伸べる。


「こんなおじさん相手だが、踊ってくれるかね?」

「私も若いとは言えないわ。それに、こんな格好で、マダム・ロスメルタまでの繋ぎになるかは分からないけれど――」


心の中を見透かされている大臣は、の手を取る。


「――それを貴方が了承してくれるのなら、喜んで」



























2008/8/30






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