火気には近づけないで下さい。 後編














また次の日が来ても、身体に変化はなかった。
ぼんやりとした頭で目を覚ますと、身体がセブルスに抱き込まれていることに気付いた。


「あ……ちょっと……」


押しても、彼は動かない。
いつもならば容易く押し返すことが出来るのに。
がっちりと抱え込まれ、は途方に暮れた。

父子の関係ととるのならばまだ良いが、これでは少し危ない趣味の人になる、セブルス。

服はいつの間にかパジャマへと変わっていて、着替えさせてくれたのに違いないと思った。
目の前には大人の男の、途方もない大きさの身体がある。
しかし、ここで大声を上げて起こすのも悪いと思って、頭を巡らせていると。

またぎゅっと身体を抱き締められる。
これでは、まるで抱き枕状態だ。


「わ……私は、抱き枕じゃないって、セブ」


その言葉が耳に届いているのか届いていないのか、セブルスはの首筋に顔を埋めた。


「いっ……ちょ、やめて。この身体ではやめて」


無意識なのか意識があるのか。
しかし、はそれをやめさせる手段を持たない。
まあ、魔法を使えば良いのかもしれないけれども。

は心を決めて、セブルスの耳に口を近付ける。


「セブルス!」


セブルスは飛び起きた。
驚いた目でを見る。
は、ほっとした顔で息を吐いていた。


「ごめんなさい。寝惚けてたのかもしれないけど、急に抱き込まれちゃって……」

「それのどこが悪い?」

「どこが悪いって……この身体でそれは、まずいでしょ」


セブルスは不機嫌そうに時計を見た。
もう起床時刻だったので、セブルスはもそもそとベッドから出始める。
低血圧なのか。

腹いせなのか、わしわしと頭を撫でられ、もむっとしてセブルスを見上げる。
しかし、確かに悪いことをしたような気がしてきて、頭から血は下りてくる。

もう三日目か――。















「心配していることがあるの」

「何だ?」


セブルスの私室で、は重い本を机に置きながら読んでいた。


「吸魂鬼と、ブラックのこと。この身体になってから、全然対処をしてないわ」

「その身体で吸魂鬼と相対する気か?」

「それは――流石に、ちょっと無理だと思ってる」


が苦笑いし、セブルスは安堵したようだった。
相変わらずはハッフルパフの制服を着ている。
何だかんだと言いながら、多少気に入っているのかもしれない。


「だから、今夜、禁じられた森の周りだけ、回ってみようと思うの」

「……危険度は低いだろうが」

「うん。だから、回ることだけしたいの。セブ、許してくれる?」

「仕方がないな」


は随分、この身体に慣れてきているらしい。
魔法の技術も見た所、普段とそれほど見劣りはしない。

は嬉しそうに微笑んだ。
それを見て、セブルスは不安感を募らす。
その顔は、まるで幼い子供だったからだ。















杖を持ち、禁じられた森の周りを回る。
冷たい空気が肌を刺す。
真っ暗な中、何度か何かに蹴つまずききそうになるが、何とかこけることなくパトロールを続けていた。

筋肉が思ったように動いてくれないのだ。
幼少期の細い身体を恨めしく思う。
この三日間で、胃袋もおかしいほど小さく、疲れやすい身体を嫌というほど思い知っていた。

しかしそう思いながらも、感覚は絶えず辺りを探っている。
月の光が薄暗く森を照らしている。


「おい!」

「ハグリッド?」

「お前さん、そこで何してる!?」


――またか!


「ハグリッド、私よ! よ!」

?」


ハグリッドはざくざくと道を歩き、のもとへとやって来る。
そしてまじまじとの足の先から頭のてっぺんまで、凝視する。


「どうしてそんな身体でこんな所に来た? 危ないだろうが」

「この頃パトロールをしてなかったから――」

「送ってやる。付いて来い」

「ハグリッド! 私にも仕事が……」

「そんな身体で、何が仕事だ。こんな細っこい腕をして」


腕を握られ、城の方へ連れて行かれそうになる。
は必死で引き摺られまいとしたが、ハグリッドの力に適うはずがない。
足はずるずると引き摺られて行く。


「お願いよ。どんな身体になったって、仕事をしなきゃ、私がここにいる役目が果たせないの……」

「何かあったらどうするつもりだ? ええ?」

「魔法は十分使えるわ。だから、ハグリッド。どうか私を城に戻さないで」

「その願いは聞くことが出来ねえ」

「ハグリッド、お願いよ!」


ハグリッドはへ振り返った。
は、小さな身体で、物騒な目をしていた。
その目をじっとハグリッドへ見据えている。

ハグリッドは、一瞬小さな子供の身体に、のいつもの姿が被った。
しかし、もう一度瞬きをすると、そこにはただの子供しかいない。
彼女は懇願の目をしていた。


「……は、俺より遥かに腕の立つ大人の魔法使いだったな」


ハグリッドは頬をかき、の腕を放す。


「仕方ねえ。一緒に付いて行ってやる。どこへでも行けば良い」


の目が驚いて、輝いた。
ありがとう、というは子供の姿そのものだった。















足元に、ネコがいた。
そのネコはいつもより大きな姿だった。
はちょっと嬉しくなって、屈んで、その柔らかな身体を撫でた。


「夜中に出歩いている生徒は誰だ!?」

「あ、フィルチさん。こんばんは」


生徒はにっこりとホグワーツの管理人に挨拶をした。
フィルチは毒気を抜かれる。


「ミセス・ノリス、毛並みがとても綺麗ですね。気持ち良い……」


生徒はミセス・ノリスを抱き上げ、フィルチへ渡す。
フィルチはおずおずとそれを受け取った。


「校内の見回り、お疲れ様です。それじゃあお休みなさい」


百点の笑顔で、生徒はそう述べてスタスタと廊下を歩いて行った。
ミャア、とミセス・ノリスが鳴いた。















「ただいま〜」


妙にご機嫌でが帰ってきて、セブルスは不審に思う。
はマフラーをとり、マントを脱いでハンガーへかけた。

鼻歌を歌いながら、風呂へ行こうとする。


「待て」

「ん?」

「成分の解析が出来た」


はセブルスの方へ、足の向ける先を変えた。
セブルスが差し出す結果を見て、の顔色が変わっていく。


「……まずくない?」

「まずいな」

「解毒剤の生成に、ポリジュース並みに時間がかかるんじゃないの?」

「そうだろうな」


一瞬での表情は曇り、スタスタとソファーに歩いて行ったかと思えば、そのままそこに沈む。
眉を寄せ、何かを激しく考えているようだ。


「――ハナハッカを、フロバーワームの粘液で濃くして――」

「それも考えたが、結局かかる時間は変わらなかった」


計算式が出され、はそれに目を通す。
間違いがあって欲しいと願ったが、それは完璧だった。

失意のの頬に、小さくキスが落とされる。
はふとセブルスの方へ視線を上げる。
元気付けようとしてくれているのだろうか。

首元に顔が埋められ、はくすくすと笑う。
しかし、そう笑っていたのもつかの間、なかなかそこから退かないセブルスを見て、は表情を変える。

冗談なら早く離して。
明らかにキスマークをつけられたような鈍痛がして、は顔色を変えた。


「ちょっと……冗談でしょ……!?」


押し返そうにも、やはり力が足りない。
腕の筋肉が悲鳴を上げるが、セブルスが動く気配はない。

そのまま、唇にキスが移る。
はそれから逃れることが出来ず、何回りも大きな身体にされるがまま、受け入れるしかない。

自分の身体のことを考えると、の背筋に悪寒が走った。


「セブ……何考えてっ……」


簡単に手首が掴まれ、ソファーの上で体勢が変えられる。
膨らみも何もない制服の胸元が肌蹴られる。


「そういう趣味があったの!?」

「ない」

「じゃあ、どうして……」

「嫌か?」

「嫌に決まってるじゃない!」


押し問答で、ローブの端から鳥の足のように細い足が露になっていた。
ピンク色の汚れのない唇に、また似つかわしくない口付けが降る。
長い髪が床に辿り着いている。

セブルスは、子供の温かい体温を感じる。
唇を離されたは、子供の顔に、子供の表情はしていなかった。
大きな目が軽く潤んでいる。


「目を潤ませるなんて、珍しい」

「生理反応でっ……駄目、セブルス」

「まんざらでもないのだろう? こういうのは嫌いか?」

「嫌いよ! セブ、身体の構造上無理、絶対に無理」


手足をジタバタさせて逃れようとするを、セブルスは簡単に押さえ込むことが出来る。
新しい感覚だった。
今までは、散々苦労していたというのに。


「身体の構造上、無理になるところまでなら良いのか」

「こんな身体を脱がせたって、何にもないのに! 恥ずかし過ぎる……」


目に涙を浮かばせて必死で反論する
セブルスは、そんなを見て、身体を退かそうと思って動こうと思った。
流石に無茶なことをしようとしているのかもしれない。

と、その時。


「あ――」


セブルスは、成分解析の結果の紙を見た。
該当する成分を指差す。


「恐らく、これだな。薬効が切れたようだ」


は身体を起こし、まじまじと身体を見つめた。
懐かしいこの感覚。
腕には、確かに古傷が刻まれていた。
さっきまで、何もない滑らかな腕だったのだ。


「戻った――」

「これなら、何もないとは言えないだろう?」

「セブルス」


声も、大人のそれに変化している。
セブルスの身体の大きさも、いつもの見慣れたもので。
の身体から力が抜けた。


「……予測していたんなら、教えてよ」

「下手にぬか喜びさせるのもまずいだろう。確かなことではなかったのだから」

「それはそうだけど……」


は、びくりと何かに気付いて、もう一度自分の身体を見下ろした。
服の丈が足りない。
サイズが合ってない。

古傷の刻まれている足が、惜しげもなく外に晒されている。
また、流石に胸元が苦しかった。
サイズの合わない服は、身体のラインにぴったりと張り付いている。

無謀にも裾を伸ばして足を隠そうとする手を、セブルスに止められた。
二人の視線が噛み合った。



























2008/11/3






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