口に含んではいけません。
ガサガサと紙袋をあさる。
その中からフィッシュ・アンド・チップスの包み紙を取り出し、開けるとそれに齧り付こうとした。
しかし、口は空振りした。
は怪訝な顔で自分の手を見る。
そのフィッシュ・アンド・チップスを掴んでいる手は、もう一つの手によって掴まれている。
「な……何ですか?」
「無防備だな」
「はい?」
ムーディの声に、は間抜けな返事をする。
全く訳が分からない。
それより、この空腹に悲鳴を上げる腹を、一刻も早く手で掴んでいるファーストフードで満たしたかった。
「食べ物に毒を盛るのは、闇の魔法使いの常套手段だ」
「……はい?」
これはさっきマグルの道で適当に買ってきただけなのに。
闇の魔法使いの手が加わっているはずがない。
袋をぎゅっと手で握って、ここまで戻ってきた。
「どのような状況でも、最低限の安全確認はしろ」
「……はい」
解ぜぬ状況ではあったが、は素直に返事をした。
ここで逆らっても何も得はしない。
ただ単に、この状況のみに限らず、師匠は私にこのことを注意したかっただけなのだと思う。
ムーディの家に居候させてもらってから数週間、はこの生活に馴染み切っていた。
師匠の性分ももう理解はしていたし、それを理解していれば、どのように彼へ対応すれば良いのかは容易く分かった。
いつものようにはキッチンへ向かう。
顔を洗い、ローブに着替えて、足取りは軽い。
キッチンのテーブルの上には、二人分の朝食が用意されていた。
ムーディはいなかった。
は辺りを見回すが彼の姿を発見出来なかったので、は椅子へと座る。
以前のフィッシュ・アンド・チップスを巡っての事件があってから、この人がどうしてまめまめしく料理を作るのかが分かった。
意外な性分だと思ったが、そう考えたら納得いく。
自分で作るものしか安心は出来ないらしい。
はティーポットからカップに紅茶を注ぐ。
湯気の立っている紅い液体を喉に流し、フォークを手に取る。
――こうしていると本当に役立たずの居候だなあ、と思いつつ、ベーコンエッグへフォークを刺した。
白身を刺して口へ運ぼうとした時、は違和感を感じた。
「?」
は千切れた白身を眉根を寄せて凝視する。
あれ?
は白身へ鼻を寄せる。
つんと鼻につく香り。
「……」
あの師匠は――。
はキッチンへやって来たムーディを、軽く睨み付けた。
「私を昏睡させる気ですか?」
「わしの言葉を忘れてはいなかったようだな」
少し満足げなムーディは、そのままの向かいの椅子へ座る。
は理不尽な状況に少し言葉を荒げる。
「トリカブトの毒ですね」
「そうだ」
「もう一度訊きます。私を昏睡させる気だったんですか?」
「お前の言う「能力」とやらによれば、強い毒の方が判別出来るのだろう? 簡単な問題にしてやっただけだ」
能力――確かに、私も今それによってこれを認識した。
フォークに刺さっている白身の欠片を見て、は眉を顰めた。
ムーディはトーストに齧り付いた。
「……確かに、簡単な問題でした」
ムーディは齧り付いたまま、へと目を上げる。
は立ち上がり、ベーコンエッグの皿とそれを刺したフォークを持ち、シンクへ向かう。
「今度は難しくお願いします」
生意気なことを言うに、ムーディは笑みで応えた。
「良いだろう」
それ以来、は口に運ぶもの全てに敏感になった。
特に、他の場で出されたほとんどのものには、念入りに毒薬や呪詛がかけられていないか確かめるようになった。
奇妙な習性を持ってしまったは、ムーディの思惑に容易くはまったのだ。
2008/11/3
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