無理に動かしてはいけません。














目の前にいた死喰い人が崩れ落ちたのを確かめ、は息を吐き、すぐさまその場に崩れ落ちた。
先ほどから嫌な冷や汗を全身にかいていた。
ある拍子に、足首がおかしな方向に曲がり、その時から痛みを感じていたのだ。
かといって、その場に座り込むことも出来ず、先ほどまで死喰い人と杖を交わしていた。

熱を持った足首。
は靴を脱ぎ、外傷を確かめる。
肌の色にも骨格にも変化はないように見えた。


? どうか――」


キングズリーが急いでやって来て、の裸の足首を見た。


「動かしたら痛くって」

「……動かさずに病院へ行った方が良い」


どうやらこのような知識をあまりキングズリーは持ってはいないようで、の足首を見るなりそう言った。
は足首を見た。
動かさなかったら別に痛くはない。

その場にムーディがやって来る。
ムーディはとキングズリーを見て、その場の状態に気づいたようだった。
の前で屈み、足首を眺める。


「キングズリー、どのような魔法をかけたら良いか分かるか?」

「それが分かったら、さっさと呪文をかけてますよ」


ムーディは唸る。
そしてじっと足首を見つめてから、おもむろにそれを掴んで、ひねった。


「!?」


声にならない声では叫んだ。
キングズリーは途端にムーディの手を掴み、それを止めた。


「無理に動かしたって、治りませんよ」

「そういうものか」


涙目になっているの前で、二人は至って冷静に言葉を交わしていた。
良いから、早く病院に連れて行ってくれ――。















足首を固定されてベッドの上で動けない
その前で、先輩の闇祓い二人は何やら声を交わしている。
すると、ムーディはふとへ視線を向けた。


「……二日間ずっとこのままらしい。さまがないな」


図星をつかれ、は惨めな気持ちになった。
むっとすると同時、胸の中で情けないような気持ちに襲われる。


「彼女にしては上出来ですよ。他に怪我がないなんて。
 彼女がここにきて、どれほどしか経っていないと思っているんですか」

「それがどうした? 足首なぞ、自分で何かにけつまずいてひねったとしか考えられん。死喰い人の存在は関係なかろう」


すかさずフォローしてくれるキングズリー、だがムーディはまた痛いところを突いてくる。
その間も、嫌味にへちらりと視線をよこした。
はその僅かな視線を受け取ってしまった。

チクチクとした嫌味を胸に溜め込み、とうとうそれは爆発する。


「……そうですよ、私の不手際です。二日間私はここでじっとしていますから、魔法省にすぐ戻られたらどうですか?」

「そうだな。足手まといもいなくなったことだ。キングズリー、行くぞ」

「足手まといって……! この前、ちょっとは役に立ったって褒めてくれたじゃないですか!」

「今の己の状況を省みることを知らんのか」


ベッドから下りたかった。
しかし、それは不可能だ。
は既にこの状況をいやになるほどに再確認し、この身に感じ取っていた。

動かせない足首がプルプルと震えていた。
ムーディはそれに嘲笑うかのような視線を残し、その場から立ち去る。
ぎゅっと握った手の平の中で、爪が皮膚に刺さった。

キングズリーはに、ムーディの行動について謝っているような視線を残し、病室から立ち去る。
は眉を寄せて顔を赤くさせ、ムーディの態度への怒りと、この状況を甘んじて享受しなければならない状況のジレンマを感じているようだった。















「かわいらしいな」


病室を出たムーディの第一声に、キングズリーは驚く。
ムーディはまた続けて言う。


「リードに繋がれた子犬が、ギャンギャンと吠えているようだ」


それをかわいらしいと感じるのは、少し倒錯しているかもしれない。
ムーディはそう言いながら、満足げで少し恐ろしい笑みを見せていた。

キングズリーは思う。
アラスター・ムーディはそのような嗜好の持ち主だったのか。
普段のについても、子犬がキャンキャンと吠えているかのように、彼は捉えているのだろうか……。

しかし、そのような問いをするには、ムーディの今の表情は話しかけやすさに欠けていた。



























2009/1/13






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