長時間見続けてはいけません。














グリモールド・プレイス十二番地、キッチン。

はついに居た堪れなくなって、眉間に皺を寄せながら顔を上げる。


「ブラック、私を見ていて何か楽しい?」


手元には分厚い本がある。
人が少なそうなこの時間に、静かに読書に励もうとしていたのに。
こんなに長時間凝視されていたのでは、が機嫌を悪くしたのも当然だ。

しかし、ブラックはブラックで違う意見を持っているようだ。


「どうしてあんたは、目の前に人がいるのを無視してずっと読書すんだよ。何か声をかけるのが、礼儀ってもんだろ?」

「私に貴方に声をかけなければならない義務はないわ……集中して本を読んでいる時は、特にね」

「あんた、スネイプに対してもそんな態度なのか?」

「ええ」


屈託なく肯定の返事をされて、考える。
……。
彼らは、同じ部屋にいて黙々と違う作業を行っていた、と?

――確かにあのスネイプと、この彼女ならば、それも考えられなくもない。

は、また目の前で本に目を通し始めた。
ブラックは面白くなくて、手を伸ばす。


「ちょっと!」


ブラックがの持っていた本を閉じ、己の方へそれを引き寄せようとする。


「それ、セブから借りたやつなのに!」


ブラックは手を止めた。
その本を、気味悪いものを見るような目で見下ろす。
その隙には本を奪い返した。


「またお前は「セブ」か?」

「あら、貴方が彼の愛称を呼ぶなんてね」

「スニベリーもどうやってお前に取り入ったんだか……」


はブラックを睨み付ける。
しかし、ブラックはどっかりと椅子に座り、腕を組んで、偉そうな口調で述べる。


「此処は俺の屋敷だ。逢引茶屋ではない。あんたは、それを肯定することは出来ないだろう?」


はブラックを睨み付けたままだ。
ブラックは予想通りのを見て、唇の端で笑った。


「ウィーズリーの双子から聞いてね。俺の屋敷で、良いことをしてるらしいじゃないか。
 マッド=アイのいる屋敷でよくできるもんだ」

「私は、アラスターと同居していた時があったんだけど?」

「あのおっさん、裏で何やってんのか分からねえぞ」

「ブラック、そんな目で私を見るのをやめてくれる?
 それに、アラスターは節度はわきまえてるわ。それに加えて、私の身体は貧相で鑑賞に堪えないらしいわよ」


ブラックは大声で笑った。
は下品なその笑いを、冷たい目で見送る。


「スネイプはその貧相な身体で我慢してるって? かわいそうに」

「ええ、本当に」


すんなりと答えて、はまた本を捲ろうとする。
ブラックはまたそれを止める。


「で、スネイプの奴であんたは満足してるのか?」

「私にその質問に答える義務はないわ。それと、ブラック、安心して。
 このお屋敷では、私もちゃんと節度をわきまえることを約束するわ」

「じゃあ何処でやるって?」


は思い切り顔を顰めた。
ブラックはニヤニヤとを見ている。

は黙ってまた本に目を通し始める。
無視することに決定したらしい。
この男は子供か?


「なあ。教えてくれ。スネイプのどこが良いんだ?」

「「スネイプ」より自分の方が勝っている、と無条件に考えている貴方よりかは、あの人はまともよ」

「俺のことが嫌いなのか?」

「嫌いだ、って二年前にはっきり言ったわよね?」

「本当に?」


は息を吐いて目を上げる。
ブラックは、しょげた子犬のように目をきらめかせていた。
は眉を下げる。


「……ま、好きじゃない、って程度かな。
 でもそれよりも、貴方を見ていたらベラを思い出しちゃって」

「ベラ?」

「ベラトリックス・レストランジ」

「あの女と俺を同列に並べるのか!?」


ブラックは椅子から立ち上がり、に食ってかかった。
さっきまでしょげていた癖に、今はもう既に怒っている。
は目を細めて冷静に言う。


「ほら、こういう所とか、似てる。血の繋がりって不思議ね。妹のナルシッサ嬢には全然そんな所ないのに」

「前言を撤回しろ、!」

「嫌」

「あんたなあ……!」


冷静なに、ブラックの苛立ちは倍増する。
そしてまた読書に戻ろうとするの本を取り上げた。
は呆れる。


「事実は事実として認めないと。それに、他人のさり気ない一言でそこまで激昂するほど、貴方は子供なの?」

「……」


ブラックは黙って椅子に戻る。
は本を取り上げられたままなので、手持ち無沙汰にテーブルに肘をついて、頬を支える。
少し斜めになった視界で、ブラックを見る。


「で、私をじっと見ていた理由は?」

「……女だと思って」

「え?」


は目を瞬く。
そしてその意味を飲み込んでから、眉を下げて言う。


「かわいそうに。溜まっているのね。外へと自由に出れたら、発散することも出来るでしょうに」

「哀れんでくれるのか?」

「ええ」

「それなら――」


ブラックのその言葉は、の刺すような視線で留められた。


「貴方がマッド=アイの目を持っていなくて、本当に良かったわ」



























2008/8/26






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