杖が無ければ何も出来ない無力な羊














珍しく、彼女は夜が明けても目を覚まさなかった。
彼女はいつも早起きだった。
シーツに包まれてすやすやと眠っているを見て、起こすのははばかれたが、セブルスはベッドに腰を下ろして彼女の肩に手をかける。
するとその手は掴まれた。

わけが分からないままに、背中がベッドに当たり、目の前には寝巻きを着ているが乗りかかっている。
そして首元には、紛うことなき杖の先の感覚が。
目前のの瞳孔は開き切っていた。


「……?」


瞬きをすると、瞳孔はきゅっと縮まった。
セブルスの手を掴んでいた手は驚いたようにそこから離れ、杖も同時にセブルスから離れる。


?」


今度は、セブルスは明らかに怒気を含んだ口調で言う。
はすぐさまセブルスの上から退き、セブルスから視線を逸らした。


「ご、ごめんなさい……」

「お前がどんな時でも頑なに杖を身体から離そうとしないのは、このためなのだな」


嫌味ったらしい言葉は、の胸に音を立てて突き刺さった。
少し頬を染めて狼狽しているの手には、未だ杖が握られている。
セブルスはの側に近寄り、視線をこっちに向けるようへ手を振る。


「確認しよう。ここはホグワーツだ。ダンブルドアの庇護下だ」

「分かってる。分かってるわ。でも、咄嗟にそんなことを判断することができなくって……」


自分の手に握られている杖をじっと見て、それをベッドの上に下ろす。


「――今度から、身包みを全て剥いでやろうか」

「……」


低い声で唸ったセブルスの言葉を、は眉根を寄せてしらりと無視した。
セブルスは嫌味ったらしく唇の端を上げる。


「全く。杖だけは取らないで欲しい、その願いをずっと叶えてきてやって結末がこれとは……」

「だって、杖がなかったら何かあった時に困るじゃない」

「ずっと身に付けておく必要はない」

「貴方はそうかもしれないけどね」


も嫌味ったらしい口調でそう言って、ベッドから立ち上がった。
セブルスに背を向けて寝巻きのボタンを外して脱ぎ捨てると、背中の皮膚に刻まれている古傷が外に晒される。
アンダーシャツを着込むところまでくると、はまだ寝巻きを下に着たまま、まるで苛立っているかのように足で床をトントンと叩いた。

くるりと振り返ったの表情は曇っていた。


「……ごめんなさい。言い過ぎた」


セブルスは、ベッドに座ったまま足を組んでいる。
腕を組んだ彼は、ハリーを相手にしている時のように嫌味ったらしいことこの上ない。


「心からそう思っているか?」

「さっきの言葉に関しては」


セブルスに非がないことは理解している。
こちらの性癖に問題があるだけのことだ。


「しかし、これからもその装備を脱ぐつもりはないのか?」

「ええ」


セブルスは、が風呂に入る時以外は杖をその身から離さないのを知っていた。
相当の重症である。
だからといって、無理やり身包み全てを剥ごうとしても、猛烈に拒否をされるのは分かっていた。
下手に魔力のある女を相手にすると、こういうところで扱い難いのが難点だ。


「妥協しよう。とりあえず杖を外し、側に置いておくというのはどうだ?」

「……外してほしいのは、二度と今日みたいなことになりたくないから?」

「それだけだと思うか?」


セブルスは片眉を上げ、は口篭った。
「それだけではないこと」は、感付いている。
そりゃあ、彼は、寝室で無骨な杖なんかこの身から外して欲しいと思っているだろう。
最近ではが何も言わなくても、彼は杖はそのままにしておいてくれるけれど。


「――努力する」

「努力とは?」

「……分かったわ。好きにして」


まるで拗ねたかのようにそう言って、は着替えの続きを始め出した。
くるりとセブルスへ振り返る。


「私が杖を外して人と向かい会うのは、貴方だけよ」

「それは光栄だ」

「信頼、してるわよ」


ゆっくりとそう言い、はセブルスから目線を外した。

それはある意味、忠告か。
セブルスは思う。
彼女の信頼に足る人物である自信は、あまりなかった。



























2009/9/29






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