英雄の名を傷つける行為
アルバス・ダンブルドアの姿を発見した。
彼の腕は、胸元を大きく開けた挑発的なドレスを着た女の腕に囚われており、女の濃く化粧を施した顔が甘ったるい表情を浮かべている。
すべすべとした肩と鎖骨が外にむき出しになっていて、その身体の細さをアピールしている。
ダンブルドアは、娼婦相手ににこやかに談笑しているように見えた。
「アルバス」
女とダンブルドアの間を割って入る。
ダンブルドアは、女に掴まれている腕を振り解こうともせず、気楽に挨拶した。
「やあ。こんなところでどうしたんだい?」
「同じ質問を君にしても良いかな?」
「通りがかったら、見ての通りだよ」
「なるほど」
アンジェラは、ダンブルドアの腕を頑なに離そうとしない女を見つめる。
女の方は、邪険な眼差しでこちらを見つめてくる。
それにしても、この女は、彼がかのダンブルドアだと知って、商売をしようとしているのだろうか?
これ見よがしに、腕で繋がった二人をまじまじと見つめる。
「――邪魔したかな?」
女の唇が「邪魔」と言う前に、続けて言葉を放とうとする。
が、ダンブルドアの方が早かった。
「いや。話し相手になってくれてありがとう。また、今度、時間が空いている時に訪ねるよ」
ダンブルドアはさり気なく腕を振り解き、礼儀を尽くした丁寧な口調で女に語った。
女はにこやかな笑みを作って応えた。
ダンブルドアと二人で道を歩きながら、きっと彼女は私のことを睨み付けでもしているだろう、とアンジェラは思う。
しかしそんなことよりも、ノクターン横丁の界隈から遠ざかるのに足は必死だった。
心なし、ダンブルドアの歩調も早かった。
恐ろしく長身の彼についていくのは、犬を散歩させているのとは全く異なる。
「少しは他人の目を気にしたらどうだ? 君が持っている肩書きが泣くぞ」
ノクターン横丁で娼婦に腕を掴まれていた彼を見た時から言いたかった言葉は、思っていたより鋭く発せられた。
賢者と呼び声高いダンブルドアは、困ったように頬をかいた。
「しかしね。男性の機能は女性とは違って……」
「だから、もっと健全な場所で行け、と言っているんだ」
ダンブルドアが、ノクターン横丁をうろついているのさえ、不自然な状況である。
彼だってそのような所に用事があることもあるだろうが、娼婦に腕を引っ張られているのはまずい。
ダンブルドアは黙りこくり、ダイアゴン横丁へと抜ける細道で足を止める。
ダイアゴン横丁のような賑やかな場所へ出る前に、何か話したいことでもあるのだろう。
察してアンジェラも足を止めた。
ダンブルドアは顔をしかめた。
「君には、私の性的嗜好が判断できていると思っていたんだけれど……」
「金髪の綺麗な男だろう?」
「なんだ。分かっているんじゃないか」
「まさか、君があのまま女に引き摺られていくとは思ってもいなかったよ」
まじまじと目の前のダンブルドアを眺めた。
まだまだ若い。
魔力が大きい魔法使いほど、長寿で、年老いるのも遅いという俗説があるが、彼はそれを体現しているように見えた。
キラキラとした青い目、長身、長い手足、満ち溢れる才能を魅力的だと捉える女性は存在するだろう。
「結構、君は生徒にはもててたんだよ、アルバス。
ある時、私が君と親しくしているからといって、どうしたら君に好かれるか相談されたこともあった。その中に金髪の男はいなかったな」
「それは残念だ」
本気で残念そうにダンブルドアは言う。
ダンブルドア先生素敵!、と騒いでいた女生徒たちは、彼のこの様子を見ても「素敵」だと言ってくれるのだろうか?
「……君に好かれる男に同情するよ」
「何故? 私は――」
「私は、金髪じゃなくって本当に良かった」
この魔法使いの手にかかれば、何が何でも本人の意思を無視してどうにかなってしまいそうな気がする。
本人の意思を尊重しているような振りをして、自分の考える方向へ導いていくのは、ダンブルドアの得意技の一つである。
アンジェラは、ダンブルドアに奇妙な目で見つめられているのに気づいた。
何だ、私がもしも金髪の男だったら、とシミュレーションでもされているのだろうか。
ダンブルドアはしばらくすると、溜息を吐いた。
「随分と長いシミュレーションだったな」
「やはり、君には性的魅力を感じない」
「私もだ。気が合うな」
感じられた方が困る、アンジェラはほっとした内心を抱える。
すると、目の前のダンブルドアが身を屈めるのが見え、何かこっち側にあるのかと視線を後ろに動かした時、唇が塞がれた。
飛び上がるほどに驚き、実際に身体は小さくビクリと震えた。
「やっぱり、君にはこれ以上のことをしたいとは思えない。女性だというのがネックか……」
暫し交わした唇を離し、ダンブルドアは感慨深げに言った。
「アルバス、君は気になったものは見境なく味見をしていくタイプか?」
まるで、ダッチワイフにでもなった気分だった。
深く深く溜息を吐き、少なくとも自分とは神経が異なるダンブルドアが気楽な表情をしているのを確認する。
「まさか、嫌いな人間にはしないよ。それで、君はどうだった?」
「別に、どうもこうも。でも、こんなこと、もうこれっきりでごめんだ」
「嫌だった?」
「そういう意味じゃない。唇は、本当に愛する人のために取っておくものだ。おいそれと投げやるものじゃない」
軽く触れる程度の挨拶は別として。
ダンブルドアは、それもそうだ、そういう考え方もあるかもしれない、と納得した。
そして、にこりと微笑む。
「じゃあ、ついでに君の性的嗜好も教えてくれないかな?」
向こうのことは知っているのに、こちらのことを話さないのはフェアじゃない。
「机に噛り付いている男より、多少無鉄砲でも、外を走り回っている男の方が好きだ」
「……私は、机に噛り付いている男の方に含まれるのか」
「君が私に性的魅力を覚えないのなら、丁度良いじゃないか」
2009/9/29
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