私の命を引き換えてくれても構わないのに














どうしてこうなってしまったのか。

隣で死んだように眠っている女。
青白い顔に刻まれる目は黒い睫に縁取られ、淡い唇が微かに開いている。

どうしてこうなってしまったのだろう。
胸の奥から湧き出た感情が虚像を描き、あの人の姿が閉じた瞼の裏に現れる。
緑の目がじっとこちらを見ている。
……どうして、こうなったのだろう。


闇の帝王に会い、闇の印が濃くなってきた。
それにつれて、あの人の影は強く濃くなってくる。

あの人のためならば何を引き換えても良いとまで思ったあの日、そして今。
命を捨てたいと言った時のダンブルドアの目を、今でも忘れることが出来ない。
ダンブルドアの過去は全く知らない。
しかし、ダンブルドアと触れ合う度に、彼のこちらへ向ける視線が他のものと異なったものであると確信が強くなる。

何故か、ダンブルドアは、私の目にダンブルドア自身を見ているような気がするのだ。
他の者にあまり見せない鋭く厳しい目がこちらを見据える度、私は少し心をほぐされる。
そして、その度に確信するのだ。
その目の持つ意味を、こちらへの厳しい態度を、こちらを信用するダンブルドアの心持を。

これは単なる杞憂であると思う段階は、すでに過ぎ去った。
だから、私はあの校長への服従を誓おう。


髪の間に見える隣に寝る女が、かつてあの人を亡くした後に気鬱の中で寝た女たちと被る。
裏切りだ。
あの人のためならば、どんなことをもしようと誓い、誓いを遂行している最中なのに。
あの人の息子の姿を毎日のように見ているのに。

ふと目を開けると、祈るように組んでいた腕を、いつの間にか起きていた女は握っていた。
ぱっちりとした目がこっちを見ていて、表情はほんの少しだけ困ったように曇っていた。

女は腕を伸ばし、身体を抱かれる。
かつて捨てても良いと思った心臓と心臓が、皮膚を挟んで重なる。
引き換えても良いと思った命が、彼女に包まれる。

花のように微笑んでいた彼女だけが呼んでいた私の呼び名を囁く声が、耳に聞こえる。

しかし、私はもう、彼女と記憶の中にいる彼女――リリー――を重ね合わせることは出来ない。
皮膚越しの心臓が、近くて遠い。
彼女のまとう匂いが僅かな隙間に消える。

約束を果たさねばならない。
ダンブルドアに誓った、命を引き換えても構わないとさえ思った、懺悔の代償を。



























2009/5/4






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