果たされる機会を失った約束だけが残された














あるマグルの家で、殺人事件が起こった。

殺人事件が起きたのは、リトル・ハングルトン村のリドルの館と呼ばれる場所だ。
館の当主のトム・リドル、そしてその両親の三人が、何者かによって殺された。
マグルの警察はその死因を突き止めることが出来ずに、何とか捜査を歯切れ良く見えるようまとめるのに必死だった。

一方魔法省は、その殺人が死の呪文によって行われたことを、簡単に見破った。
そして、殺人事件が起きた館の谷向こうに、前科を犯したことがあるマグル嫌いの魔法使いがいることを突き止めた。
その魔法使いの名前は、モーフィン・ゴーントという。
彼は、リドル一家の一人を襲った罪で、以前アズカバンへ投獄されていた。

モーフィンは、取調べを行う前に、犯人しか知らない詳細を躊躇いなく自慢げに供述して罪を認めた。
モーフィンの杖がリドル一家の殺害に使われたことも、すぐさま証明された。
詳細な自白により、アズカバンに投獄されることはもう決まっている。

ゴーント家――非常に古くから続いている家柄だ。
純血主義の生粋を歩んできた彼らは血が濃くなり過ぎて、情緒不安定と暴力の性を持つ家系として知られている。

何とも簡単に決着の着いた事件だ。
アンジェラは、新聞の語るこの事件をそう捉え、魔法界の旧家の行く末を哀れんだ。
友人のボブ・オグデンと夕食を共にする時までは。





「信じられんね!」


オグデンは持っていたフォークをテーブルに叩き付けた。
途端、フォークの先はあらぬ方向へ曲がる。
すぐさまアンジェラは杖を持ち出し、振った。
フォークの先は綺麗に同じ方向へ向いた。


「……先ほどの、リトル・ハングルトンの事件ですか? 素直な事件だったじゃないですか」

「君は、あのモーフィンという男を知らないからそう言うんだ」


アンジェラは、ステーキ・キドニー・パイを口に運んでいたフォークを止める。
口の中に入っているものを飲み込んでから、オグデンに問う。


「会われたことがあるんですか?」

「あの男が最初に罪を犯した時、彼に魔法省への召喚状を渡しに行ったのは誰だと思う? 私だ。
 随分と酷い目に会わされた……ナイフを振るわれ、呪いをめちゃくちゃに発射され、襲われたんだぞ」

「あなたともあろうお方がですか?」


フン、とオグデンは荒く鼻をならす。


「例え君でも、逃げざるを得ない状況だぞ。あの男は……あの男とその父親は、狂人以外の何者でもない。
 娘さんがこの上なく哀れだったよ」


アンジェラはナプキンで口元を拭き、ワインのグラスを手に持った。
血のように赤いワインを口に運びながら、血生臭い話をする。


「狂人が殺人事件を起こし、本当に気が狂ってしまう。珍しいことではないように思えますが」

「あの男が? まあ、半ば気は狂っていたさ。しかし、従順にアズカバンに投獄されるなど、私には考えられんね」

「何故ですか?」

「純血主義だ。あの一家の純血主義の程度は、マルフォイの比にもならん。
 彼なら、気が狂ったってこう言うだろう。汚れたマグルを殺して何が悪い、とな」


そういうものですか。
アンジェラは呟いた。

オグデンは、食事が終わるまで、この話題をし続けた。
いかにあの一家に酷い目に合わされたか、あの一家の純血主義がどれほどまで酷いものであったか、あの一家の生活がどうであったか。

そのような話題を頭に一杯詰め込まされ、アンジェラは帰宅した。
今朝の朝刊をもう一度広げる。
アンジェラ自身、何も気になっていなかったわけではない。

指先で字を辿る。
死亡者のマグルの所で、指は止まる。

――トム・リドル。

単なる偶然だろうか。
アンジェラは、オグデンが喋っていた一部の言葉を思い返す。

――彼らは、先祖がサラザール・スリザリンだと言っていたが――。

ゴーントの家系はスリザリンの血筋と繋がる、というのか。
この記事を読んでから、アンジェラの頭の中には絶えず、この前出会ったトム・リドルという少年の姿があった。
秘密の部屋事件を解決した、何とも言えぬ不気味なものを隠していた少年だ。


「スリザリン……か」


アルバスは、この記事に目を留めているのだろうか?
遠くにいる賢者のことを思い、アンジェラは考える。

これが単なる杞憂であることを証明するために、動いてみようと思う。
これは、アルバスのためにだけではなく、私のあの少年に対する疑惑を霧散するためにでもある。
あの魔法使いが監視を続けている少年に注目することに、意義がないとは思わない。















後日、オグデンに以前ゴーント一家と会った時の話を聞きに行った。
うまく話をはぐらかせつつ、真意を悟られないように話を訊き出すのは、アンジェラの得意とするところだった。
そして、約ニ十年前にゴーントが起こした事件の捜査資料と、先日の殺人事件の資料に目を通した。

その時点で確実に分かったことは、モーフィンの父親が「マールヴォロ」だったということだ。
マールヴォロ・ゴーント。
そのファーストネームは、とても耳に馴染んだ。

あの少年は、トム・マールヴォロ・リドルと名乗っていた。
偶然にしては出来すぎているのではないか。
アンジェラは、嫌な感覚を覚えずにいられなかった。

その後、アンジェラはアズカバンに送られる前のモーフィンと話をする機会を得ることが出来た。

拘置場で会ったモーフィンは、酷い有様だった。
髪も髭も伸びっ放しの姿で、目も口も分からない。
今、彼に魔法をかけて真っ当な姿にしてあげたく思ったが、それが許される状況ではなかった。
誰かどうにかしてやったら良いのに、アンジェラは思う。


「モーフィン・ゴーントさんですね。私は、アンジェラ・キャンベル。魔法省の闇祓いです」


格子を挟んだモーフィンは、動かない。
アンジェラは小さく笑みを顔に浮かべた。


「今回、私があなたを呼んだのは――」

「指輪をなくしたから、親父に殺される」


彼は、殺人の自白をしてから、この言葉しか言わないらしい。
そう話を聞いていたアンジェラは笑みを曇らせ、自分の言葉が彼の脳みそに届いていないだろうことを感じ取る。


「何の指輪ですか?」


モーフィンは答えない。
アンジェラは彼の表情を窺う。
オグデンが話していたモーフィンの性格を思い出す。


「サラザール・スリザリンの末裔でいらっしゃると聞きました」


まるでモーフィンのことを尊敬し妄信しているかのような、媚びへつらった言葉を送る。


「それは、スリザリンの指輪なのですか?」

「違う」


アンジェラは驚いた。
まさか、これだけで彼から言葉を引き出すことが出来るとは思わなかったのだ。
モーフィンの髭まみれの顔が動いた。


「スリザリンは金のロケットだ。指輪は――指輪は――」


髭にモーフィンの手が埋もれる。
うな垂れるような姿勢になったモーフィン相手、アンジェラはまた彼の意思が埋もれてしまうのを恐れた。


「他のホグワーツ創始者のものですか?」

「違う!」


モーフィンの意思は内から破れた。
彼は思い切り格子を殴りつけ、肉から血が滴り落ちた。
吼えるような大声が、モーフィンの喉から発せられた。


「グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー……スリザリンを裏切った者とそれを同じように並べるんじゃねえ!
 ペベレル家だ! これは、おめえよりずっと純血のペベレル家のものだ!」


――ペベレル家?
どこかで聞いたことがあるような名前だった。


「その指輪を、俺はなくしてしまった! 親父に殺される――」

「モーフィンさん、落ち着いて……」

「黙れ! 俺はおめえの言う事をきく筋合いはねえ!」


格子の隙間は広かった。
その隙間からモーフィンは腕を差し込み、手はアンジェラの首を捕まえた。
途端に首をしめられる。
アンジェラはモーフィンの指を掴み、それをあらぬ方向へ捻った。

モーフィンは痛みに喘ぎ、アンジェラの首から手を離す。
アンジェラは大きく息を吐き、今までの穏やかな仮面をかなぐり捨てた。
椅子から立ち上がり、腕を組む。


「君に、聞いておきたいことがある。リドル一家は君が殺したことに異論はないか?」

「俺が殺したと腐るほど言っただろうっ! いい気味だ。穢れた血は全て消え去るべきだ――」

「それはすまないね。じゃあ、何か、その事後事前に気になったことはあったかな?」

「ねえよ」


格子向こうに地面に転がっているモーフィン。
アンジェラは彼を見下ろす。


「いや、あったよ。君の大切な指輪がなくなった」


アンジェラは最後にモーフィンに言葉だけの礼を言い、部屋の外へ出た。
そして自己嫌悪に陥る。
結局何も分からなかった。
時間の無駄だった。
アルバスなら、もっとうまくやっただろうに。

大きく溜息を吐くと、そこに彼女の弟子がやって来る。
それも慌てた様子で、他の役人を連れて来ていた。


「アラスター? どうした――」


ムーディはアンジェラの首元を見て、表情を険しくした。
役人は先ほどアンジェラが入っていた部屋へ入る。
アンジェラは事態を理解する。
喧騒を感づかれていたらしい。


「申し訳ありません。彼を刺激してしまったみたいで……それと、格子の幅をもう少し狭くした方が良いです。彼の腕は格子の間に入ります」

「それで。首をしめられたわけですね」


アンジェラは、弟子の言葉を無視する。


「無理を言って彼と話をさせていただいたのに、本当に申し訳ないです」

「Ms.キャンベル? 聞いてますか?」


ムーディが嫌味ったらしく問う間にも、アンジェラはやって来る役人に状況を説明して謝罪していた。
アンジェラの首には、痛々しく手の平の跡が残っていた。
ムーディは頭を抱えた。





アンジェラは、オグデンとの件とモーフィンとのやり取りなど全て手紙にしたため、ダンブルドアへ送った。
出来ればリトル・ハングルトンの現場へ行きたいと思ったが、スケジュールがそれを許さなかった。

ダンブルドアは、思いの他、ペベレルという名前に食らいついた。
次にダンブルドアに会った時にそのことを尋ねると、彼は「死の秘宝」についてのとても面白い話を披露してくれた。
わざわざ吟遊詩人ビートルの物語を持ち出し、まるで生徒に教えるかのように、じっくりとそれを教えてくれた。

死の秘宝――ニワトコの杖、蘇りの石、透明マントは、ペベレル家の三兄弟に渡された、ということだ。
死の秘宝のマークこそが、グリンデンバルドの印の元のものであると知った時の爽快感は、何とも言えなかった。
どうしてグリンデンバルドはあの幾何学的な模様のマークを持っているのか、謎に思っていたのだ。


「では、モーフィンが呆けていたのでなければ、その指輪は……蘇りの石だったということか?」

「その可能性がないわけではない」


そう言った時のダンブルドアは、深く何かを考えているようだった。
その指輪を、モーフィンはなくしたと言っていた。


「君が言うには、今回殺害されたトム・リドルは、あのトムの父親で、マールヴォロはトムの母方の祖父だということか」

「その線が濃いと思う。確証はないが」


ダンブルドアは、トムがいる孤児院の院長の話を反芻した。
トムにホグワーツ入学許可証を届けに行った時に、聞いた話だ。


「それと、スリザリン由来のロケットについてだが、確かに私はそのような話を聞いたことがある」

「……本当にスリザリンの末裔なのか」


モーフィンの様子を思い出し、アンジェラは苦笑した。
サラザール・スリザリンは、このような結末を望んだのだろうか?
ダンブルドアは、痛々しく残るアンジェラの首の痣を見る。


「アンジー。世話をかけたね」

「私の不手際だ。気にしないでくれ。痣もその内治る。君は、そんなことより、トムのことに気をかけてくれ」

「分かった。――何とも、不可思議な事件だ」

「気味が悪い。トムの影が私の頭の中をちらついている」










*










その店では、普段あまり見かけることのないものばかりが陳列されていた。
辺りを見回しながらカウンターまで歩いて行き、そこにいた店主らしき人物に問う。


「トム・リドルという人はいますか?」


店主はじろりとアンジェラの姿を一瞥し、奥へそそくさと足を進めた。
数分後、そこから出てきた背の高い青年は、アンジェラの姿を見て一瞬後に機械的な微笑を見せた。


「Ms.キャンベル。このような所にどうして?」

「実を言うと、もうキャンベルではないんだよ。仕事上ではそのファミリーネームを使っているが。
 年甲斐もなくこの数年の間に結婚してね……だから、ファーストネームで呼んで欲しい」

「では、アンジー。ご結婚おめでとう御座います。あなたのご主人が羨ましいです」

「ありがとう、トム」


アンジェラは屈託なく微笑み、店を改めて見回した。
触れたいとは思わない、怪しげなものがたくさん置かれている。
それらは、どう見ても強い力を持つ闇の魔術に関する物品ばかりだった。


「アルバスから君がここに就職したと聞いた。どうしたんだ?
 魔法省で見かけないと思ったら……君なら引く手数多だったろうに」

「魔法省よりも、こちらでの仕事の方が強い興味を持てました。珍しい物品ばかりでしょう?」

「ああ。魔法省でも、一部の部署でしか扱わないだろうものばかりだ。君を雇った店主は幸せ者だな」


アンジェラは微笑んで、トムの目を見つめた。
トムも痩せた頬に笑みを浮かべる。


「君を訪ねてきたのには、少しだけ理由があるんだよ。
 もしかしたら君は知っているかもしれないが、君の両親について、少し聞き及ぶところがあってね。
 君は、君の両親のことについて、どれくらい知っている?」

「――父の名前と、母方の祖父の名前くらいです」


トムはアンジェラがトムから目を逸らしている隙に、わずかにアンジェラを睨む。


「君の父親は、トム・リドルというらしいね。アルバスからの入れ知恵だよ。
 そして、母方の祖父はマールヴォロというらしいね」


アンジェラは、マントの中から封筒を取り出した。
トムは封筒を受け取り、それを開け、中から書類を取り出す。
それを見た時、トムの表情はわずかに強張った。


「二年前のある事件の資料だ。君に渡すことについて、許可はとってあるから安心して欲しい。
 リトル・ハングルトンという村で、トム・リドルというマグルとその両親が、モーフィン・ゴーントという魔法使いに殺された。
 聞いたことはあるかな?」

「あまり、記憶には残っていません。預言者新聞は読んでいたつもりですが」

「そうだろうな。この事件は、あまり大きく取り上げられてはいなかった。
 犯人は捕まえられると、すぐさま殺害の自白をしたらしい。見て欲しいのは、ここだ」


アンジェラが指を差したのは、モーフィン・ゴーントの前科についての欄だった。


「以前、モーフィンは、父親のマールヴォロ・ゴーントと共に捕まえられている。
 それと、その時彼らを捕まえに行った友人から聞いた話では、その時にマールヴォロには娘がいたらしい。
 ――偶然だと思うか?」

「……ここまでの状況が重なれば、偶然とも思えません」

「君の家族について、この事件のあらましを見て、気にかかっていたんだ。もしかしたらそうではないかと思って。
 ――すまないね。君に良い話を持ってくることが出来なかった。
 むしろ、知らなかった方が良かった話かもしれない。いらないお節介だったかもしれないが、私は、はっきりさせておいた方が良いと思ったんだ」

「いいえ、感謝します。この資料は……」

「預かるか?」

「いただけるのならば、もらっておきます」

「君に持っていて欲しい」


トムは綺麗に書類を畳み、封筒に戻した。
アンジェラの目はそうするトムの姿をずっと捉えていて、彼のわずかな表情の変化さえ見抜こうとしているようだった。


「それと、調べたところ、ゴーント家はサラザール・スリザリンの血を引いていることが分かった。
 ゴーント家は、ずっとスリザリン由来の品を持ち続けていたらしい。今は、それがどこにいったか分からないが」


トムは、ぴくりと眉を上げた。


「君にもスリザリンの血が流れている。君はそれを、誇るべきだ」

「スリザリンを毛嫌いしている人は、世の中には存在しています。純血思想を信条としていたスリザリンは、ホグワーツから追われました。
 それに、あなたはそのような人々を捕まえる仕事に就いていると、僕は思っているのですが」

「違うよ、トム。私は闇の魔法使いを捕まえる仕事に就いている。思想はそこに関係ない」


けれど――。
アンジェラは、当然君も分かっているだろう、と言いたげな表情だった。


「純血思想の行き先の哀れさについては、分かっているつもりだ」

「……哀れ?」


カウンターの下で、トムの拳は強く握られた。
トムの腕が動いたのを見て、アンジェラはカウンターの下まで目を動かす。


「そうだ。血が濃くなると、障害や精神異常を引き起こす確率が増す」


トムの口は何かを言いたげに動いた。
その時、アンジェラは、トムの目が赤くきらめいて見えたような気がした。
アンジェラがトムに向けて笑みを見せると、トムは口をつぐんだ。
そして、トムは最初にアンジェラがやって来た時と、同じ笑みを見せた。


「でも私は、だからといって、スリザリンのことを貶める気にはなれないよ。
 スリザリンは、偉大なことを成し遂げた。ホグワーツの創設という、素晴らしい仕事だ。
 純血思想を持っていたとしても、やはり彼は偉大な魔法使いだった」


アンジェラは、店の外を見やった。
そこに不審な人影がないか、確かめる。


「いや、ちょっとこの辺りは治安が良くない。職業柄、敵を作りやすくてね」

「わざわざこんな所まで足を運んでいただいて、ありがとうございます」

「買い物のついでだよ。じゃあ、トム。また会おう」


アンジェラはトムの姿をじっと見つめた。
それこそ、出来の良い甥を見つめるかのような視線で。


「私は、君のことが気に入ってるんだ。君の友人たちと同様にね」


トムは、少し驚いた風にした。
そして頭を下げ、アンジェラを見送った。

アンジェラが店から出て行った後、顔を上げたトムは、その後姿を険しい表情で見つめた。
手にしていた資料が入った封筒を仕舞い込むと、また店の奥に戻って行く。

ダンブルドアの差し金か?















その後、一年も経たない間に、トム・リドルは魔法界から姿を消した。
トムがボージン・アンド・バークスを辞める前に、その顧客の魔女が亡くなっている。
へプジバ・スミスという魔女だ。

ヘプジバは、老屋敷しもべ妖精が猛毒を入れたココアを飲んで死んだ、とされている。
屋敷しもべ妖精はその時のあらましを細部まで朗々と語り、魔法省はしもべ妖精が犯人ではないと疑うことは一度もなかった。
そのまま捕らえられたしもべ妖精は、その後も罪を否認することはなかった。

ヘプジバの親族は、彼女の死後、彼女が所有していたスリザリンのロケットとハッフルパフのカップがなくなったことに気づいた。
ヘプジバの担当として彼女の家を頻繁に訪ねていたトムは、それが発覚した時にはもう行方が分からなくなっていた。
ヘプジバが死んだのは、トムが彼女の家を最後に訪ねた時から二日後だったという。

この事件には、リトル・ハングルトンの事件と類似点があった。
躊躇いなく細部まで自供をする犯人。
ホグワーツ創始者の縁の品。
そして、トム・リドルの影。


「……また会おう、って言ったのにな」


トムに最後にかけた言葉を、アンジェラは思い出す。
無論、向こうが会いたがっていなかったということは、分かっている。
あの時、お互いに腹の探り合いをしていたことも、分かっていた。


「どこに行ったんだ? トム」


スリザリンのロケットと、ハッフルパフのカップの紛失届けを眺める。
彼と話すのは、なかなか楽しかったのに。
もっと、彼のことをたくさん知りたかった。



























2009/5/9






close