魔法で解決出来ない問題
「失礼します」
は書類を携え、魔法法執行部の部長の部屋の扉を開いた。
バーテミウス・クラウチはその椅子に座っていて、仕事をしている。
窓は真っ暗だった。
クラウチの机の前まで行くと、そこに新聞が折り畳まれているのを見た。
一面の記事がの目に入る。
そこには、クラウチの息子の逮捕と共に、彼が執行部長の地位から下ることが書かれてあった。
「そこに置いておいてくれ」
「はい」
は書類を封筒のまま、新聞の横に置いた。
クラウチと会話をするのは、がクラウチJr.を捕まえてから、初めてだった。
クラウチJr.の裁判はもう終了し、彼はアズカバンへ送られた。
裁判には、も傍聴席で参加していた。
クラウチは、彼の息子を裁いた。
がクラウチJr.を捕まえたことにより、彼は魔法省の傍流へ追いやられる。
「クラウチさん。私は、私の仕事を遂行しました」
「それも、見事な手並みだった」
クラウチはいつの間にか、羽ペンを走らせる手を止めていた。
そして、以上にとても落ち着いた目で、を見ている。
「私個人として、君に賞賛を送りたいほどだ。死喰い人を単独で捕まえた君の所業は、見事だった」
「ありがとうございます」
クラウチは羽ペンを手から離した。
彼の出世を押し止めた闇祓いを、クラウチはまじまじと眺めた。
ふてぶてしい面構えをした、小柄な魔女だ。
「最初に君に会った時には、まさかここまで君がやってくれようとは思いもしなかった」
賛辞に素直に礼を言うべきか、謙遜すべきか、これを彼の皮肉として受け取るべきか分からず、は黙った。
不意にクラウチは笑い出した。
は驚き、また唇を開けるも、やはり何も言葉は沸いてこない。
クラウチの小さな笑い声だけが、この部屋に響いている。
「いや、困らせてすまない。君の顔がとても面白かったものだから……」
「面白い!?」
「気を遣ってくれているのだろう? 申し訳ない」
バーテミウス・クラウチからこのように謝られるなんて。
はとても痒い気持ちになった。
「最初の言葉に嘘はない。君は、君自身の仕事をやり遂げた。私は君を恨んでいないから、安心して欲しい」
「……はい」
クラウチは、が自分の息子によってロングボトム夫妻が聖マンゴ行きになったことに憤怒していたことを、知っていた。
彼女はその感情から、今回の死喰い人の単独逮捕を成功させたと聞く。
彼女の表情には、苦いものがまだ見えていた。
「――申し訳なかった」
クラウチの言葉に、は表情を固まらせた。
しかし、一時後。
「貴方に謝っていただく理由はありません」
とても冷静な「大人」の顔で、は言った。
息子とそう年齢も変わらないだろうは、仮面を張り付けたように平静な顔をしている。
「そうだったな」
クラウチは思い出したかのようにそう言う。
「ムーディに礼を述べなければいけないな。彼とはなかなか性格が合わなかったが、君を育て上げてくれた。
それに、彼はとてもよく働いてくれた。ここから立ち去る前の、最後の仕事だ」
「きっと、彼も喜んでくれると思いますよ」
と言いつつも、の頭では、それを気味悪そうにあしらうムーディの姿が描かれていた。
外は真っ暗だった。
業務終了時間は既に過ぎていたことを思い出し、は長話をしている暇がなかったことを思い出す。
小さく頭を下げ、そのまま立ち去ろうとする。
その扉を開け、外に出る前に、はもう一度クラウチへ振り返った。
「クラウチさん。私は、ずっとこの仕事を続けていこうと思っています」
「そうか。君はきっと大きな力になるだろう。頑張ってくれ」
「はい。だから、また、もし魔法省で見かけることがあったら、声をかけて下さいますか?」
は真っ直ぐにクラウチを見つめている。
クラウチは再び持っていた羽ペンを下ろし、若いへ微笑みを送った。
「考えておこう」
「ありがとうございます」
は嬉しそうにしながら慇懃に頭を下げ、扉を閉めて行った。
クラウチは息を吐き、再度羽ペンを持ち上げ、書類へと向かった。
ふと目をやった先には先ほどの新聞の一面があって、そこには険しい顔をしたの姿があった。
随分な変わり様だな。
クラウチは先ほどのの表情を思い出し、その紙面を開く。
辛らつな言葉が書かれている紙面の中、の姿だけがとても浮いて見えた。
2009/5/9
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