First contact with Harry Potter
ハリー・ポッターは、フルーパウダーの誤作動により、ボージン・アンド・バークスの店内のキャビネット棚の中に姿を隠していた。
キャビネット棚から、ずっとドラコやルシウス・マルフォイ、そして・という女性のことを覗き見していたのだ。
その三人が店から立ち去るのを確認し、ハリーはキャビネット棚から滑り降りて、店の外へ出た。
壊してしまった眼鏡を押さえて、ハリーは辺りを見回す。
此処は何処だろう?
闇の魔術に関するものしか売っていなさそうな店が軒を連ね、不気味なものばかりが店頭に陳列されている。
うさんくさい横丁だ。
みすぼらしい身なりの魔法使いがじっとこっちを見ているのに気付いて、ハリーはザワッとして其処を離れる。
彼らはこっちを見て、何かを低く囁き合っていた。
ハリーは此処から出たい一心で、道を歩き続ける。
すると、古ぼけた気の看板が、通りの名前を教えてくれた。
――夜の闇横丁――。
聞いたこともない場所だ。
ハリーは落ち着け、と自分に言い聞かせながら、どうしたら良いのか考えた。
「坊や、迷子になったんじゃなかろうね?」
耳元で声がして、ハリーは飛び上がった。
老婆は人間の生爪のようなものを積んだ盆を持っていて、ハリーを横目で見ながら黄色い歯を剥き出した。
ハリーは後ずさりする。
「いえ、大丈夫です。ただ――」
「ただ、連れとはぐれてしまってね。お気遣い有り難う」
聞き覚えのある声だった。
ハリーはその声を発した人物に目線を上げると、彼女は自分の肩を掴んだ。
微笑みながら、何気なく自分の肩を引き寄せる。
さっき、ボージン・アンド・バークスで見た全身真っ黒の女性だ。
老婆はその女性を見て少し目を見開ける。
「……・かね。彼はあんたの連れか?」
「ええ」
何気ない口調で嘘を吐く。
ハリーはまじまじとその女性を見た。
彼女は、此処にいる魔法使い達とは雰囲気が違った。
まず、身なりがみすぼらしくないし、まとう雰囲気がもっと活力に満ちたものだ。
「そうか、それならいいんだが……」
老婆は慇懃に頭を下げるの前から、そそくさと消えた。
はハリーへ目線を下げる。
「じゃあ、行きましょうか」
ハリーはに導かれるがまま、歩き出した。
目の前の知らない女性に付いて行くのも安全なことだとは言えないけれど、少なくともさっきいた人達よりかは、まともな人に見える。
しかし連れて来られた場所が行き止まりで、人目に全くつかない所だったから、ハリーは身構えた。
はそんなハリーを見て、小さく微笑む。
危機意識が十分あるようで結構。
はハリーの警戒心を解くため、マントをまさぐった。
そして身分証明書を開き、ハリーの目の前に差し出す。
「私は、魔法省に勤めているの。・よ、って呼んで。
今貴方は確かアーサーの所に泊まっていたわね、ハリー・ポッター?」
「知っているんですか?」
「ええ、アーサーとは友人よ。それと、貴方の容姿は有名だし……勝手に額の傷を確認させてもらったわ」
ハリーは警戒を解いたようで、マントの中から手を抜いた。
中で杖をぎゅっと握っていたらしい。
ハリーはじっと差し出された身分証明書を見た。
「闇祓い?」
「そう、闇の魔法使い捕獲人、ってところね」
次にハリーが話す前に、は杖を振った。
するとハリーの服についていた煤が消え、眼鏡が綺麗に直る。
「ボージン・アンド・バークスで、キャビネット棚の中にいたでしょ?
誰かがその中でおどおどしているみたいだったから、店の外で待ち構えていたんだけど……。
それがハリー・ポッターだったなんて、思いもよらなかったわ」
そうして微笑むは、ハリーの目に綺麗に見えた。
この不穏な気配のする場所と対比して、なんとも不可知な雰囲気を醸し出している。
「じゃ、ひとまずは信用してくれた?」
「はい」
「それなら、ダイアゴン横丁まで送るわ。手を離さないでね」
の差し出された手を、ハリーは握った。
その白い手に古傷らしきものがあるのがチラリと見えた。
はハリーの手を引き、くねくねとした細い路地を迷うことなく歩く。
時には、杖で壁を叩き、其処に出来た通路を通った。
時には、はハリーの手をもっと強く握った。
早足で歩くに、ハリーはそれに合わせて付いて行く。
「どうして此処に来ちゃったの?」
「フルーパウダーで失敗して……」
「ああ、あれね。あれって難しいのよねぇ」
そう言った時、まばらに見えていた人影の一つ二つが、に対してお辞儀した。
もそれに気付いて、軽く手を上げて対応する。
さっきまでのことと含めて、この人は一体――。
「……今の人達は?」
「ちょっと昔に関わり合いがあってね」
「……闇祓いですよね?」
「ええ」
そう言う横顔は、前をじっと見つめていた。
平然とした顔をしている。
しかし、その時に、ハリーは深いフードの下で、を惜しげなく睨み付けている人影を道端に見て、ぞっとした。
この人は、様々な視線をその身に帯びていた。
するといきなりは立ち止まる。
そして肩を落とした。
「出来るだけ、人目のない道を進んできたつもりだけど……。
事故とはいえ、貴方があそこにいるのを出来るだけ見られたくないからね」
「どうしてですか?」
「「ハリー・ポッター」がいるべき場所じゃないのよ、ノクターンは。
いえ、むしろ、真っ当な魔法使いはあまりあそこへは行かないわ」
ハリーはじっとを見つめる。
「あなたは真っ当な魔法使いじゃないんですか?」
は思いもよらなかった質問をされて、答えに詰まった。
若い純真な目が自分をじっと見つめている。
「随分あそこのことを知っていたじゃないですか?
それに、マルフォイのお父さんとだって親しそうだったし……。
闇祓い、って何ですか? あなたは――」
「ハリー……」
簡単に答えられない質問をしてくれる。
は顔を少々歪ませて言う。
「それを説明するには、もう時間がないわ」
が向けた視線の先を見ると、それが見慣れたダイアゴン横丁であることに、ハリーは驚いた。
今になって、やっと賑やかな声が此処にまで届き始めているようだ。
「ハリー、もう二度とあそこへ行っちゃ駄目よ。これだけは約束して」
「分かりました。あ、待って……」
すぐに立ち去ろうとするに対し、ハリーは声を上げる。
は再度振り向いた。
「大丈夫。またいつか会えるわよ、その時に色々話しましょ。貴方は早くアーサーかモリーを探して、安心させてあげて」
は、ハリーの小さな頭を優しく撫でた。
しかしハリーは不満げにを見上げている。
は苦笑しながら溜息を吐く。
「ハリー、私は貴方に会えてちょっと嬉しかったわ。
貴方のことは伝説みたいにしか聞いたことがなかったから……そして、その「ハリー・ポッター」が貴方で、ちょっと安心した」
ハリーはを見上げると、は微笑んだ。
そしてそのまま、の姿はノクターンの暗い闇へ消えて行く。
「ハリー!」
ハリーが顔を上げると、其処には栗色の髪をなびかせてやってくるハーマイオニーの姿があった。
グリンゴッツの白い階段を駆け下りてくる。
ハリーはハーマイオニーと話をした後、ふと後ろを振り返る。
其処には、もうの黒い影の欠片もなかった。
2008/8/19
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