初体験














「最近、ノクターン横丁界隈で婦女暴行殺人事件が多発しているのは、皆知っていると思う。
 本来ならば、これは闇祓いの管轄ではない。
 しかし、今回、三人目の被害者の女性からある証言が得られたので、こうして闇祓いに担当が移った。
 彼女が言うには、犯人の腕には、闇の印が刻まれていたらしい」


この事件に選ばれた数名の闇祓いがスクリムジョールの声に耳を傾けていたが、一人憮然とした顔をしている闇祓いがいた。
その中の闇祓いの内で唯一の女性、だ。


「調査書にある通り、一人目、二人目は既に死亡している。
 三人目の女性は、運良く魔法警察部隊のパトロール部隊がその場に出くわし、今に至る。
 殺人の方法を見る限り、犯人はとても残忍であり、かつ、その女性の証言では磔の呪いにかけられたと――


が、ぴんと手を上げていた。
スクリムジョールに促され、は調査書の三人目の被害者の女性の写真を見ながら、言った。


「その女性は特に魔力が強いとも、特別な教育を受けたともこの調査書には書かれていません。
 なのに、磔の呪いを受けたという事を飄々と言えるものでしょうか?
 並みの魔法使いがこの呪文を受け、正常な精神状態を保っていられるとは思えません」

「そうは言うが、
 今は彼女の証言を信じるしかない。
 それを確かめる方法は様々あるが、今の彼女にそれを行う事は出来ない」

「しかし、貴方もそう思うでしょう、ルーファス」

「それは認めるが、今は――」

「それを認めるのならば、錯乱した彼女が発した闇の印についての言葉も、疑って掛かるべきです」

「…それの議論は後にしよう。今は伝達を続ける」


スクリムジョールは仕切り直した。


「女性の証言では、錯乱した状態でいる彼女の証言では、磔の呪いをかけられたと言う。
 禁呪を執行していないにしても、勿論、もし執行していたとすれば、益々大きな罪であるが――被害者の写真を見ての通り、猟奇的とも言える危険な犯人だ。
 だから――


または、ぴんと手を上げていた。
は調査書の死亡した二人の女性の、原型の留めない遺体の写真をじっと見ながら、言った。


「これは魔法ではありません、ナイフによる傷です。
 魔法警察部隊の鑑識による記述でも、そう書かれています。
 見た所、魔法が高度に使われているような様子もありません。
 だとすると、これは本当に我々が担当すべき事件なのでしょうか?
 物理的な攻撃が大きいとすれば、これは魔法警察部隊が担当すべきではないでしょうか?」

「…それの議論は後にしよう、


またスクリムジョールは仕切り直した。


「今回我々は囮を使った作戦でいく。
 犯人が狙う女性の像は目星がついている。
 だから、それに沿った女性をその界隈で歩かせる事が、一番容易く、確実性のある方法だ。
 だから――

「別に女性でなくても良いのではないでしょうか?
 寧ろ、危険性を考えたら、その格好をした男性の方が――」

「儂に女装をしろと? ――すまん、スクリムジョール、続けてくれ」


ムーディはの口を塞いだ。
彼にしては珍しく、スクリムジョールに謝ってから、椅子に座り直す。
は暴れていた。
しかし、ムーディは容易くそれを押さえ込む。

スクリムジョールは視界の端でそれをちらりと捉えてから、何事もなかったかのような口調で続けた。


「だから、今回その役に一番適しているのは、だと私は思う。
 、引き受けてくれるか?」

「嫌です!!」


はムーディの腕を振り払った。
そして激しい口調で、捲くし立てた。


「私は闇祓いです! 囮になって、男を引っ掛けるような事は私のするべき事じゃありません!」

、状況を考えて欲しい」

「私はただただ闇の魔法使いを追っていれば良いんですよ、なのに…!」


こんな、周りを男で固め、自分しか適任者がいないようにして!
――まあそれ以前に、この闇祓い本部に、研修生を除いて二十代の女性はしかいないのだが。

スクリムジョールは困った。

それに傍目から見ても、腕が立ち、確実に自分の身を守り、犯人を捕まえてくれるであろうが一番の適任者なのだ。 
魔法警察部隊から囮を選ぶにしても、皆、に劣るのは目に明らかだったし、引き受けてくれる人がいるか分からない。
かなりの危険が付き纏ってくる上に安全性も確かではないのだから、それが当然なのだ。

周りの闇祓いも皆顔を見合わせ、困り果てていた。
そしてちらりちらりと、彼女の師匠へ助け舟を求めるように、視線を遣っていた。

彼女の師匠は今まで傍観していたが、もう我慢に耐え兼ねた。
彼女の心中は察してはいるが、それはムーディにとってはどうでも良い事だ。
腕を組んで飄々と述べる。


「やれ、
 自分が適任だというのは、自覚しているんだろう?」

「アラスターまで…!」

「この中に二十代の女になれるような奴がいるか?」


は辺りを見た。
…確かにいないのは、分かる。
でもそれに気付いていたから、最初からあんなに反抗していたのだ。


「自らやるしかないのが分かっていたから、口煩くしていたのは分かっている。
 しかし、見苦しいぞ」


は最後の一言に思い切り眉を寄せた。
それは彼女にとっては、聞き捨てならない言葉だった。

それに最初から自分の心中なんて、察せられていたのだ。
は仏頂面になり、じっと自分の拳を見つめた。


「――良いわ、良いけど…」


了解の言葉が出て、周りは喜んだ。
しかし…


「皆知っているように、私は今まで、散々、あの辺りは歩いて来たわ。
 それも真っ暗な時間帯に一人でね。
 なのに、今だかつて、私はそういう意味で「襲われた」事がないわ」

「…それは、多分、闇祓いであるの顔を周りが知っているから…」

「真っ暗な中、それも後姿で顔が見える?」


黙った。
は、こんな自分が男を自分に襲わせる事なんか出来る訳がない、とでも言いたげな顔をしていた。
しかしムーディだけはどっかりと構えていた。















「スカート短っ!」

「これで短いって言っちゃぁ、…」

「スカートは膝上十センチまで! それ以上ははしたないわよ」

「そんなお母さんみたいな…」


魔法警察部隊から派遣された魔女は、相手に苦笑した。
はしたないって…と思いながら、スカートを姿見の前で眉を寄せて、物珍しそうに振るを見る。

そしてそう言えば彼女、普段は長いローブがズボン姿しか見た事がないなあ、と思い出す。

は色を変えた髪、くるりんと巻かれた髪を興味深げに片手に触っていた。
今のの髪は思い切って金髪だ。
そして目の色を青色に変えたら、まるで別人のようになる。

一見、初対面の可愛らしい女性の出来上がりだった。


「こんなに短いスカート、足の傷が見える…」

「タイツ履いているから大丈夫よ」


確かに彼女は全身に古傷を持っていたから、服を合わすのが大変だった。
しかし今はもうそれを諦め、全身の傷は魔法で一時的に隠してしまっていた。
それでも多少の跡は残っているかもしれないが、気にならない程度だ。


「それに、歩き難い」

「しかしこれを履いて貰った方が、犯人に遭遇し易いと推測出来るのだ」


いつの間にかスクリムジョールが其処にいた。
は条件反射で睨み付けるように、彼を見た。
綺麗に上がった睫毛が目を縁取っている。


「何かあった時、逃げれないじゃないですか」

「姿眩ましをしたらどうだ」

「そうよ、それにこれ位のヒール、まさか履けないなんて…」


のリクエストに合わせ、どれ程高さを妥協したか。
魔女は溜息を吐いて、今まで履いては捨てられた地面に転がっている靴達を見た。

は機嫌が悪そうに、ぐらぐらとその場に立っていた。
ピンヒールなんて生まれてこの方、初めて履いた。

其処にずっといてその様子を見ていたキングズリーが、耐え兼ねたように呟く。


「…、化粧が濃くないか?」

「キング、そうよね」

「あらそうですか」

「だって私、髪の毛と目の色変えたら絶対正体を見破られないし、此処まで顔を塗りたくる必要はない、ってこれ言うの何回目?」

「それは事実だ。私も前にこの目で見たし、今だってほぼ別人に見える」

「あら、じゃあ前にも変装はなさった事あるんじゃないですか」


は機嫌が悪そうだ。


「仕事上あるわよ。でもね、男に襲われろ、なんていうのは初めてだっていう事」

「…それはそれは」


魔女はに鏡台の前を薦め、化粧を直し始めた。
は自分の顔を見て、まるで水商売じゃないか、と最初にこれを見て思った事と同じ事を思った。

丁度それが終わった頃にムーディが其処に現れ、普段見せない足を出し、ほど良い加減で着飾ったを見て、こう言った。


「見た目と立ち方が合っていないぞ」


は腰に手を当てて、とても偉そうに立っていた。
は恨みを含んだ目でムーディを半ば睨み付けた。


「その時に調整するわ」

「今だかつて男に襲われた事のないお前が、それが出来ると思うか?」


は益々睨み付けた。
ムーディはその視線に、フンと笑いを漏らした。















モデル歩きというのか、足跡を一直線上にするように歩く。
尻を振れ等と言われたので、内心せせら笑いながら、それに従う。
腕をそんなに振ることなく、小股で、後ろから見ても大人しそうに見えるように。

どうやら私の普段の歩き方は男前過ぎるらしい。
歩き難さと面倒臭い歩き方に眉を寄せながら、はダイアゴン横丁に程近いノクターン横丁の通りを歩いていた。

月の光がぼうっと辺りを照らしている。
は夜目が効くので、それで十分だ。

ヒールが床畳に当たり、カツンカツンと音を立て、それ以外には野良猫の走り回る音しか物音はなかった。
ダイアゴン横丁に近いから、この辺りをその横丁の人間がうっかり歩いてしまって、今回の事件が起きてしまったらしい。
しかしこれじゃあ襲ってくれ、とでも言っているようではないか。

被害者の女性達の迂闊さを思いながら、は演技を続ける。

ふいに後ろに人の気配がした。
というか、前からその気配は追っていたのだが。

隣に狭い路地があるのを目で確認する。
其処に引き込むつもりだろう。


「お嬢さん」


はそれを聞いて、まず逃げる格好をする。
無論その様な気は毛頭ない。
思い通り、その人は腕を掴んで、引き止めてくれた。


「お嬢さん」


はゆっくりと、傍から見たら恐る恐るというような格好でその男を見上げた。
怯えた表情を作る。

背の高さも身体も、普通、中肉中背と言ったところか。
歳もまだ若そうである。

黒いローブをすっぽり被った男だ。
その辺りにいても別におかしくはない。
一見して変わった所がないのには意表を付かれるが、目だけが異様に輝いていた。


「こんな所にいたら危ないよ。
 最近そういう事件が頻発しているらしいからね」


恐らく犯人だろう。

スクリムジョールから、決定的な事を起こすまで待て、と耳にたこが出来るほど言われていた。
肩を掴まれ、そのままぐいぐいと引っ張られる。
多少可愛らしく手足で抵抗はしてみるが、それは全く効果を成さない。

そのまま路地に引き込まれるのに、殆どと言って良いほど抵抗はしなかった。
ただ、靴が脱げ掛けるのが少し気になった。

声は上げる必要はないし、そんなに際立って抵抗する必要もない。
大人しい、何かあったら腰が抜けてしまうような女性を演じる。
これが一番面倒臭くないからだ。


生ゴミの腐敗臭のしている路地裏だった。
普段ゴミの収集所なのだろうか。
月の明かりが建物の切り目から、一筋差していた。

汚い地面に遠慮なく叩き付けられる。
は冷静に男と周りを観察しながらも、少し抵抗する素振りを見せ、顔を恐怖の表情へと張り替えた。

そんなに大層な魔法を使う魔法使いではなさそうだ。
見た所、禁呪なんて高等なものを絶対使えない。
男は女を目の前に袖を捲り上げてご馳走…言って良いのだろうか、とにかくそれを頂く準備をしているので、運良くその裸の左腕を見れた。

これは単なる蛇の趣味の悪い刺青だ。
…闇の印を見た事がない者が見たら、これをそうだと言うのかもしれないが、生憎それは散々見てきた。

ほら、間違いじゃないか。
は内心皮肉った。


男はそうしている間もじっと、の顔を見ていた。


「四人目にして、中々可愛らしい娘だ」


え。
待て、そんな事、久々に言われた…

が意表を付かれた途端に、男の手が前の服を破り去った…ってちょっと。
は、闇祓いへ映像が届いているネックレスに付いた魔法機器を、巧く映像が撮れる様に、胸を上げて角度を変えた。
これで良し。

自分の身体に自信はないので止めて欲しいが、相手はどんな身体でも良さそうな様子なので、まあ良いか。
遠慮なく乱暴に肌に手が沿わされる。

――いや、もうこれで証拠は撮れたし、こんなに大人しくしている必要はないのでは?

はその事実にはたと気付いた。
そして杖を一本ずつ括り付けている両手首に、意識をやる。
…不味い、もろに押さえ込まれてる、二本とも。

この男、腕力は相当のもので、全く手首が動かない。
杖を取れないじゃないか。


「…っ…!?」


首に噛み付かれた。
動脈に程近い所に歯が強く当てられ、演技でなくは身を捩る。
動脈は止めて、動脈は。

キスマークでも付けられるかのように、ピリピリとした刺激が其処を走った。

そしては、この男がローブの下は全裸である事に気付いた。
男の主張しているものが足に当たっている。

は背筋に冷たいものが走り、胃袋に氷が落ちたような感覚がした。

すると次に、男の顔が目の前に来たかと思うと、物凄く近い所で目線がぴたりと合った。
白みがかった瞳が目の前に現れ、は目を瞑った。

唇を貪り食われる。
柔らかいものが唇の間を通って、口内に入り込んだ。


「っ――! ぅっ…!」


沢山の事が一度に起きて、脳がオーバーフローを起こしてちょっとした混乱状態に陥る。
本気で抵抗するが、力で押さえ込まれる。

止めて! 嫌!
脳がそう告げるが、男は止める素振りを見せないし、は腕を振り払う事は出来ない。
寧ろその思いを口に出す事も出来ない。

酸欠も重なり、頭に血が上って頬に紅が差し、呼吸が荒くなる。

そんな中、冷静な一つの思いが過ぎった。

待って、待って。
今まで好きな男以外、唇を奪われた事は、なかったのに――

この男――


「やめ……ろっ!!」


はヒールの尖っている部分で、男の主張している部分を思い切り蹴り上げた。

男は声を上げる事も出来ず、ただただ痛みに蹲っていた。

は自由になった身体で立ち上がり、唾を地面に吐き捨てて、唇を拭った。
手は杖を男に向け、仁王立ちをしていた。

男は目の前の足のラインを辿り、見上げた。


「こんの…雄犬! 発情期かっ!! この――!」


は杖を振り被った。
正確に言うと、振り被ろうとした。


「そんな風に短いスカートで足を開くんじゃない。はしたない」


肩を掴まれ、は恐ろしく怒った形相のまま振り向いた。
ムーディは、顔が真っ赤で潤んだ瞳でいる彼女を見た。


「アラスター…」

「そしてこの男を殺すな」


ムーディは、少し息を荒げていた。
走って来たのかもしれない。
は表情が少し柔らかくなったが、未だに目は殺意に満ちていた。


「しかし、あと一発お見舞いしてやれ」


は思い切り振り被り、ヒールを使った見事な蹴りを、男の急所に食い込ませた。
ムーディは気を失ったその男をほんの少しだけ同情したが、冷たい一瞥を落した。

ムーディはマントを脱ぎ、息を荒げて立っているの肩に掛ける。
しかしは動きを見せないので、ムーディが見かねて言う。


「前を隠せ、前を」


はそれで気付いて、マントを身体に巻き付けた。
そうするとあとの闇祓い達、魔法警察部隊の魔法使いが路地にどかどかと入り込んで来た。





多くの魔法使いが自分に礼を述べていくので、はそれに笑顔で答えた。
しかしそれも一段落し、は身体を壁に凭れさせていた。


「機嫌が悪そうだな」

「私が今機嫌が良かったら、私は危ない人だわ」


はじっとムーディの目を見た。
その通りだった。
ムーディは真っ向に来るの目に溜息で答え、もその視線を外した。


「首、跡が残っている」


は無言で杖を取り出し、其処に当てた。
跡がすっきりとなくなる。
は観念したように、空を見つめた。


「…私が悪い。もっと迅速に行動してたら良かった。
 油断してたらずるずる引きづられて――」

「しかし確実な証拠が撮れたし、お前の働きに感謝している者も多いぞ」

「それを思いっ切り、他の人に見られたのも嫌だ――けど、それはどうしようもないっていうのは分かってるから良いわ。
 あー、やっぱりもう少し早く引き上げても良かったわよね?」

「此処まで身体を張ってくれるとは、確かに思ってもみなかった。
 確かにもう少し早く行動に出ても良かったが…それが故意ではなかった、というのがお前の気に触っている訳だ」

「…そう。むしゃくしゃする。…理由ははっきり一つに絞れないけど」


はそう言って、ムーディのマントを身体に巻き付け直す。
ムーディはの隣の壁に凭れた。


「ぶっちゃけ――好きでもない男に唇奪われたのが、一番腹が立っているのかも」

「随分と女々しい」

「自分でも驚いてる」

「しかし、前にルシウス・マルフォイに…」

「あ」


忘れてた。
いや、って言うか、初めてが好きじゃない男だったじゃないか。
は拍子抜けして、肩をがっくり落とした。
マントを巻き付ける気がなくなったのだろうか、マントがだらりと地面に落ちて行くので、ムーディは慌ててそれを繋ぎ止めた。


「とにかく、まあ…今回を良い勉強にして、次回からは頑張ります」

「…またやる気があるのか?」

「だって、私が、適任なんでしょ?」


は良い顔をしていなかった。
不承不承の顔だけれど、義務には逆らえない、といった風情だ。


「――よく頑張った」


ムーディはの肩を叩き、うら若い彼女を改めて見た。

まだ言いたい事が沢山あるようだったが、それを堪えているようだった。
それを言う事がきっと、見苦しい事だと分かっているし、仕事だから仕方がないし、大人らしくないと思っているのだろう。
傍らで見て痛々しかった。

そして目を瞬くと、金髪碧眼の一人の女性が其処にいて、それは見慣れたの姿ではなかった。
冷静な目でおぼろげな月を見上げていた。


「戻って着替えろ。どうも別人がいるようで、気が落ち着かん」

「あら、そんなに私綺麗なの?」

「言うほど綺麗じゃないだろう。あえて言うなら――可愛い、か」


は目を見開いた。
この師匠から出る筈のない言葉が耳に届き、耳を疑う。
は驚くが、同時に吹き出し、笑い始めた。

ムーディは気まずそうに其処に立っていた。


「そうね、そうね、貴方までがそう言うなら、酷く襲われても仕方ないわ」


巧くあの彼女も自分を仕立ててくれたものだ、と感心する。

そして調子に乗っては隣のムーディの元へ歩み寄り、頬に軽く口付けた。
あんな知らない変態男より、こっちの方が良い。


「なら嫌じゃないでしょ。じゃあね!」


そう言っては手をひらひらと振り、姿を眩ませた。

ぽつんと残ったムーディは何ともいえない感情を持っていた。
確かにそこまで嫌だとは言えない、嫌だとは言えないが、これで一体どう思えば良いのか。
がいつものようならばあっさり対応したに違いないが、今は金髪碧眼で外見が別人だ。

手持ち無沙汰な感情を持て余し、仏頂面でいると、魔法の目がくるりと回った。

眉を顰めて、穏便ならざる気配を感じ取って、即座にそっちを振り向いた。
其処には…


「…キングズリー……羨ましいか?」


彼に似合わず冗談を言ってみた。
キングズリーは息を吐き、ムーディに歩を進めた。


「アラスター、何をしているんですか。少し嬉しかったとか?」

「冗談言うな」


ムーディは苦々しく言い捨てた。
キングズリーは自分ならば少しは嬉しかっただろう、と思いながら、足を止めた。


、一見は元気そうで良かったですね」

「そうだな」

「あの映像を見ていて、慌ててあなたが立ち上がって行った時には、どうなる事やらと思っていたら」

「――それをには言うな…」

「分かってますよ」


キングズリーは意地悪く笑っていた。

ムーディはマントのない肩を落とし、息を吐いた。
もっと巧くやるだろう、と思っていたら、あの様だ。
手を出さずにはいられなかった。


「確かに、可愛かったですね。
 皆あの映像もあって、女だったんだ、って思い出してましたよ」

「大丈夫だ、がいつも通りに戻ればそんな事は消え失せる」

「そうですね。でもそれにしても、可愛かったですね」

「…お前、さっきの会話を全て――」


ムーディはキングズリーの目で全てを悟った。


「…ああ、そうだな」

「良かった、私もそう思っていた所だから」


キングズリーは満足げに笑った。
ムーディはその言葉の含みに眉をピクリと上げた…

いつの間にか月は地平線に沈みかけていた。



























2007/7/22






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