最初の日、二つの黒いマントの影がグリンゴッツ銀行ロンドン支店の大理石のホールにふいに現れて、二人揃って何か身分証明書のようなものを見せる。
または何かの書類だ。
其処に一人の風格ある壮年らしき小鬼が、短い足をせこせこと動かし駆け足で其処へやって来る。
するとそそくさと其処にいた二人の魔法使いと小鬼は、トロッコへ乗る通路へと急いだ。
すると二人の魔法使いのそれの早い事、小鬼がどうしてもそれに間に合わない。
なので長身の魔法使いの方は一言断ってから片脇にひょいとその小鬼を担いだ。
ある夏の二日
ギュンギュン…キィッ…
恐ろしい音を立てて、此処のグリンゴッツの最も奥だと言われるその場所でトロッコはその最高速度で激しく駆け抜ける。
地下渓谷の上を通り抜ける度に空気は冷え冷えとする。
先頭にはその細いクルリとした髭を生やした小鬼がいて、その二人と低く会話していた。
その到達地では既に小鬼が大勢セコセコと働いていて、その表情はどれも緊迫している。
二人の魔法使いもそれ同様緊迫した表情でトロッコを降りようとしたが…
「――キング、大丈夫?」
「…大丈夫だ。、先に行け」
黒人の片耳に金色の輪のピアスをした魔法使い――キングズリー・シャックボルトは、物凄い揺れのトロッコに乗ったに関わらず全く平気な、黒髪黒い瞳の女性――に言った。
しかしその声はいつも通りに深く、人を落ち着かせるものがある。
トロッコの最高速度、これには慣れたグリンゴッツの小鬼でさえも気分を悪くする事があるらしい。
はどうも動きの鈍いキングズリーに対し苦笑して、マントを翻して七一三番金庫へ向かう。
其処は元々鍵のない、小鬼の指先で開く筈の金庫なのに、既に開いていた。
周りの小鬼達がを見て指を差す。
「七月三十一日、グリンゴッツ侵入で宜しいですね?」
「そうです。そして今の所、荒らされた可能性があると確信出来る金庫は此処だけです。
しかし此処は、侵入前にもう中に物は一切なくなっておりましたので――今の所、被害は確認出来ていません。
これから全ての金庫を調べてみないと何とも言えませんが」
「…もし、犯人がこの金庫を狙っていたとすれば、恐らく被害は此処だけでしょう。
ただの金銭目的でない筈ですから。
――では支配人、失礼ですが少し金庫から離れて頂きますか?」
支配人らしい小鬼は頷き指示を出す、彼女の事は知っていたから。
は金庫の真正面に来て、そう言いながら、ネックレスを外していた。
小鬼を遠ざけるのは余計な気配をなくす為だ。
一瞬耳にキンとくるような雑音感が来て眉を顰めるも、数度瞬きしてなんとかその魔力を満遍なく身体に浸透させる。
我ながら、この自分の魔力は凄いと思う。
なんせ今までずっとネックレスで制御している魔力を、それを外して放てば、日常生活を普通に過ごせなくなるから。
目を瞑って金庫へ入る。
やはり特徴的な魔力はなかった、闇の魔術の痕跡だって殆どない――何も魔力的証拠はないかもしれない。
極めて普通の自然の状態なのだけれど…全体的に空気の魔力の濃度が薄いような感覚がする。
これは身に覚えがある。
が目を開くと、キングズリーが入って来る。
「もう少ししたら、省から魔法警察部隊が来るらしい。
特殊部隊も多少来るようだ」
「そう。でもこれ闇祓いの領域だわ」
「闇祓いの連中は――またそいつらと一緒に来るだろう。
…それにしても此処は妙だ。
何の痕跡も何の変化もない。うむ、これは前に見に覚えがある感じだ」
キングズリーは周りを見渡し、前の金庫の状態の写真と比べながら言う。
「多分――魔力測定やら何やらやったって、特に何も出て来ないと思うわ」
「の感覚は間違った事はないからな」
キングズリーは低く唸るように言う。
ネックレスを付けているは小さくクスリと笑った。
「ええ、「こんなに巧く」こんな事を遣り遂げた例、此処数年見た事がない」
「詳しく言えば十年前以来だ。
まさしくヴォルデモート全盛期の様子を思い出させるようだ」
「ダークマークはないけど」
「…本当に、ダンブルドアの視野は物凄いものだ。
お陰で「アレ」が盗み出されなかった――」
「ヴォルデモートが「アレ」を狙っていたのなら、彼は力を失ってしまって動きを満足に取れない、という説が一番に有力になるわ」
でも私自身「アレ」の存在を知ったのは、つい数時間前だ。
ダンブルドアと懇意にしている師匠のお陰、と言っても良いのかもしれない。
傍から見ればチンプンカンプンかもしれない会話、そして誰もが恐れる「例のあの人」を普通に言っている彼ら。
やはりこの二人は特異なものだろう。
はまわりをグルリと見渡し、何か異変はないかしゃがんで見ている。
勿論靴底には既に魔法を掛けている。
「…証拠、ないでしょうね」
「このままではまともな報告書が書けないな」
二人の闇祓いは眉を寄せてひたすら杖を使って魔法を使ったり、周りを見渡したりしてテキパキと作業を押し進めていく。
そのまま言葉を掛け合っていく。
「闇の魔法使いか…闇の中の闇でしょうね。
やはりヴォルデモートが誰かを遣わしたのかしら?」
「死喰い人の新参者として考えるなら、遣わされた魔法使い…此処まで出来る魔法使いは希少だ――…それでヴォルデモートの隠れていそうな所へ行った者がそうだ。
それかまたは前からの熱心な死喰い人か……」
「…どっちにしろ相当やり手だわ」
「いや、そうとも限らないかもしれない」
「どうして?」
「ヴォルデモートが誰かの身体に寄生している、というパターンがまず考えられる。
実体を持っていないのだろう、そんな主人を守る為にはその方法が一番良い。他の闇祓いも、結構そう言っている者は多いがね」
「――そういえば過去そんな事件あったわね…」
何年前だろう。
その魔法使いは魔力はそこそこなものを持っていた。
しかし結局…自らのその身と媒体となるその宿主自身をも滅ぼしてしまったらしいが。
恐らくこの事件はヴォルデモートの不老不死についての研究の一端だったのだろう、と今は考えられている。
ヴォルデモートの命令でした事だと。
…多分キングはそれを直に目で見ていた、と思う。
ぶっちゃけグロい。
しかしそうして寄生していたのならば、やはりその魔法使い自身もヴォルデモートの指示を直接に聞けるし、その力が上がる事は目に見える。
しかし…寄生…植物…キノコ並みだ、ヴォルデモート…
「一番力を失ったヴォルデモートが頼るのは、確かにその方法かも――って報告書に書いとく?」
「あまり刺激的にならないように書いておけば良い。
そうではないと、普通に没にされるからな」
キキーッ!
「あ、次の魔法省の役人来た?」
しかし中々入って来ない。
詳しい調査をそういう機器を使ってする事は分かっているので、はふいと外を見てみた。
其処には。
「あ、アリア」
見覚えのある女性。
魔法警察部隊副隊長が繰り出したか、と思う。
「――…あんたね!どうして小鬼達に…トロッコのスピード下げるよう…言わないの……!?」
口を押さえて、黒いコートを金色の金具で止めた、金色の髪を肩まで伸ばしたその女性は一人に取ってかかった。
「…え?」
「いえ、この方が普通にされてましたので、別に格段下げる必要もないかと…それに急用ですので…」
支配人がを指差して言う。
「…あんた人間……っ!?キングだって、何でそんな普通に――!」
「…不味かったでしょうか?」
「闇祓いと普通の魔法使いの私達を同列にしないで下さいっ!
役人が皆倒れてちゃ、早急に出来る事も出来ないじゃないっ……」
それでう、と口元を押さえる。
その後ろには数々の功績を挙げている技能に優れた魔法使いたちが、皆口を押さえて顔を真っ青にしていた。
とキングズリーは顔を見合わせ、キングズリーの方だけが苦笑した。
*
また最初の日とは離れた、次の日。
「結局やっぱり何も分からなかったわね」
「「賢者の石」が盗られなかっただけ、良いとしようか」
「…賢者の石かぁ…ダンブルドア校長が守るのなら、絶対大丈夫でしょうね。
ニコラス・フラメルも安心でしょ。
――あ、それでさ、私達が来る以前にはあの――ハリー・ポッターと共に…ルビウス・ハグリッドっていうホグワーツの鍵の番人?、半巨人の人がそれを取りに来たんだって」
「半巨人か、珍しい」
「私は別に悪いイメージないわよ。
…ボーバトンのマダム・マクシームしかイメージにないし」
「なるほど、ダンブルドアらしい。
そういう者に大切な物を取りに行かせるとは…」
「非難する?」
「いや、とんでもない」
「うん。
それと闇の魔法使いや何やらで今浮き立っているけど、今年ハリー・ポッターがホグワーツ入学だって」
がニ、と微笑む。
「もうそんなに経ったか?」
「みたい。平和な時が続いたわねー」
「ならそろそろ、闇の勢力が出てきても良い頃だな」
「暗いなー、キング」
「…どうしてだ?闇祓いとしては当然だろう」
「そりゃそうなんだけどさ、そんな事言われなくても分かってるわよ。
それにやっぱ真面目過ぎるわキング。
今から根詰めてたら、これから精が続かないわよ、ね?」
が椅子に深く腰掛け直す。
キングズリーもそれで一瞬眉を顰めたが、納得したように顎に手を当てた。
「私もそろそろだな、と思ったら当然頑張るわよ」
キングズリーはそれにうむ、と今度は頷く。
「だから今日どっかに美味しいもの食べに行こっか?」
「…どうしてそうなるのだね」
「え、奢ってくれる?」
「だからどうして――」
「久々に上に上がって、マグルの店でも行ってみる?」
「――良いだろう」
はニッコリ微笑んで、立った。
時間外労働はもう沢山だ、と。
キングズリーは不承不承した顔から、すぐに普通の顔に戻していた。
「なら、今度の警察部隊からの調査協力依頼の件、お前に任せる」
「えっ…な、何で仕事の事を条件に…」
「どうやら結構な闇の魔術を使う犯人のようで、それに女性の囮が欲しいらしい」
「…囮になれって?」
「並みの女性の魔法使いでは身の安全が保障されないので、やはり闇魔法のプロに頼みたい、という事だが如何かな?」
「…囮って…何か嫌なのよね…」
「命令というニュアンスを含ませても良いかな?」
がそれで表情を険しくして、ぎゅっと手を握って握りこぶしを作る。
「――――絶対…そう、三年位以内には立場逆転させてやるから…っ…!」
「出来るものなら」
微笑みながら飄々とキングズリーは答えて、カツカツと歩き出す。
しかし内心は――は実力にかけてだけは自分を超えているかも――とも思っていたが。
ふいに二人の服装が変わる。
マグルの服装だ、は黒いパンツにラフな白いシャツ、キングズリーも同じようなものだ。
これが今の内だけだ、とは分かっているから。
「ハリー・ポッターか…一回位会ってみたいかも。
可愛いでしょうね」
「魔法界にいればその内会えるだろう」
「あ――でも、あんまり会いたくないかも」
「何故?」
「…あの子が私と会うって事は、あの子が闇祓いと接触しなくちゃならない時と場合にいるって事よね。
――元々ハリー・ポッター、普通に暮らせるとは思えないじゃない。
でも出来るだけ幸せに生きて欲しいのよね…闇祓いなんかと接触しないような生活?」
キングズリーも低く微笑んだ。
「その通りだ」
「ね」
二人は暖炉を使わずに、エスカレーターでマグルの居住地へと上がって行った。
初、キングさん。
しかし口調が教授になるのが止まらない…絶対偽者だ!
ドリームかは定かではありませんが、この人は結構好きです。
ヒロインとは兄と妹みたいな関係で。
キングさんの方が、親世代より二、三歳年上でお願いします。
2005/11/14
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