08/真夜中の訪問者
闇の印が打ち上げられていた森を抜けると、一斉に魔法使いや魔女たちに取り囲まれた。
情報を知りたい者たち、また日刊預言者新聞の記者までいた。
無遠慮に写真を撮られ、は眉を顰める。
「――大丈夫です、怪我人も死人もいませんでした」
――私を除けば。
は言葉を慎重に選ぶ。
何かを言わなければ、ここを通してもらえそうにもないのだ。
は知り合いと目線が合った。
「リータ、耳が早いわね」
「あなたなら、的確な情報を教えて下さるでしょうね? 」
自動速記ペンを手に持つリータ・スキータは、に迫る。
「闇の印を打ち上げた者は逃亡しました。そして、死傷者は誰もいませんでした。
この会場ではただちに警備の動員人数を増やし、皆さんの安全を保障します」
「犯人を逃がした?」
「申し訳ありませんでした」
は深く頭を下げる。
その瞬間、目が眩むようなフラッシュがたかれた。
写真を撮る音がいくつも重なる。
はそれを確認してから素早く身を翻し、人の合間を縫うように移動する。
リータはそれを追おうとしたが、人がぎゅうぎゅうに集まっている中、それは難しかった。
途中で何度か捕まえられそうになるが、はそれすらうまく擦り抜ける。
はある所まで逃げたら、姿を晦ました。
責任を放棄したと同様で、明日の紙面でバッシングされるのは目に見えるが、これ以上絡まれては夜が明けてしまう。
その前に、そのこと以上に、するべきことがあった。
前に来たことのあるテントの前に、姿を現した。
ウィーズリー一家らのテントだ。
は声をかけながら、テントを控えめに開いた。
「こんばんは。ちょっとお話を……」
「? どうしてここに……」
アーサーはの訪問に驚きながらも、彼女をテントの中へ通した。
中ではこのテントにいる全員が、今回の出来事についての話し合いをしていたようだった。
「身体は大丈夫なのかい?」
「まあね。ちょっとだけ、ヒーラーに待ってもらってる」
心底心配そうなアーサーに簡単に嘘を吐き、は軽い微笑で応えた。
「ハリーとロンとハーマイオニーに話があってね」
は緩んだ表情を引き締めて、ハリーとロンとハーマイオニーのもとへ歩いた。
辿り着くと、その場で椅子が差し出されたので、はそこに座る。
このテントにいる全員が、の言葉に耳を立てる。
三人を見渡しながらは口を開く。
「覚えていること、どんな些細なことでも良いから、話してもらえないかしら。私は一体何をしていたの?」
「僕たちを守ってくれたんだ」
「守った?」
は足を組んだ。
腕を組んで、思考を巡らす。
「じゃあ、誰かは貴方たちに攻撃をしたってこと? その前後状況は何か見ていた?」
「が誰かと話をしていて、その後に急に僕らの方へ振り向いて、呪文を唱えて――」
「――倒れたの。でも、その時、私はが防御呪文を唱えているように見えたわ。
半円状のドームができて、自分だけに呪文を集中させているみたいに……そういう呪文の効果は本で読んだことがあるわ」
「それ以外に何か言えることは?」
「薄暗くて、よく見えなかったんだ……」
三人を見て、これ以上彼らに言えることはないように思う。
何か決定的なことが見えていたら、犯人は私が倒れた後に口封じに彼らに魔法をかけただろう。
「その人が男か女かは分からない? 話は断片的に聞こえていたのよね?」
「――闇の印を打ち上げる呪文の声と、違ったような――」
ハリーの言葉に、はそれを促すように彼の顔を見る。
「気のせいかもしれないけれど、違ったような気がするんだ」
「確かな情報じゃないのね」
「私もそう聞こえたわ。どちらかというと、女の声みたいだったわ」
女――。
は自分をこのような状態にさせることが出来る女を、ついこの前に見ていた。
彼女なら高度な魔法を容易く使用出来る。
彼女はハリーたちにまで及ぶ魔法を使い、私はそれを防ごうと、己の身体に魔法を集中させた。
そう考えるのが自然だ。
「また自信過剰かもしれないけど、私は大抵の魔法使いの行う魔法なら、自分の身体に集中させてかき消すなんてことはしないわ。
通常の手段で掌握出来るはずだもの」
「ヒーラーも、ここまでの呪文を見たことはない、って言っていたね」
アーサーの言葉に、は真剣な顔をして頷いた。
もう答えは見えていた。
は椅子から立ち上がる。
「ありがとう、三人とも」
「何か分かったの?」
「少しはね」
その「少し」をテントにいる全員が話して欲しそうにしていたが、はもう一度頭を下げてからテントを出た。
無遠慮だとは思ったが、は一つの結論を導き出し、そのことで頭が一杯だった。
それは、決して彼らに言うことは出来ない。
――が手を出していたんだ。
闇の印を打ち上げた誰かを、は手助けしたんだ。
それにしても、私に呪文をかけたのは彼女だが、闇の印を打ち上げたのは誰なのだろう?
その意図は何だったんだ?
それを割り出すには情報が足りなくて、は唇を噛んだ。
また好きなように扱われてしまった。
彼女の策略の上にのってしまったのだ。
すると、テントに向かって誰かが走って来るのが見えた。
誰だろう、とは目を凝らすと……。
「Ms.! あなたこんな所に!」
うまくまいたヒーラーが、怒りの形相でこっちにやって来る。
は苦笑いを作るが、これ以上彼に逆らう理由もないので、待ち構えることにする。
流石に身体が辛いのだ……全身の疲労感が酷い、今すぐ休みたい。
すると、のすぐ側で姿現しの音がした。
「――キング、来るのが遅過ぎよ」
「そうとはまだ分からない」
が訳が分からずに首を傾げると、ヒーラーが二人のもとへやって来た。
そしてもう逃がすものかとの手首を握る。
ヒーラーは、の側にいる黒人の闇祓いの方を見た。
「直ちに聖マンゴ魔法疾患障害病院へ行き、あらゆる記憶修正の施術を受けること」
ヒーラーですら、キングズリーを睨み付けた。
修正よりも、治療が大事だと言いたげだった。
キングズリーは飄々とその視線を受け流す。
「また、もしそれでも記憶が修正されないのならば、魔法省にて開心術の処置を受けること。
アメリア・ボーンズ魔法法執行部長、ルーファス・スクリムジョール闇祓い本部長からの命令だ。
私は彼らから命を受けてここに来た」
重くてだるい頭を持ち余しつつ、は思う。
――相変わらず、人使いが荒い。
*
杖を使い、家の鍵を容易く開ける。
家の敷居を跨ぎ、中へと足を進める。
しかし、玄関ホールを抜けようとした時に、一人の魔法使いが目の前に立ちはだかった。
「バーテミウス・クラウチ。・をうまく誘ってくれたことに、感謝する」
クラウチは、目の前にいる黒いフードを目深に被った魔法使い相手に杖を向けた。
しかし、彼女の言葉に引っかかりがあった。
彼女の声には、僅かにクラウチに対しての嘲笑が混じっていた。
「……どういう意味だ?」
「を本部から頑なに出そうとしなかったのは何故だ?
彼女の能力が、彼女が最も憎んでいる者の一人であろう男を察知するのを防ぐためだ」
真夜中だった。
外の明かりは全くなく、彼女の隣にいる小男の杖の灯りのみがこの場を照らしていた。
「私に協力してくれたお前に対し、私もお前に協力した。
記憶を消去すると共に、彼女の能力を使えなくしてやった。お前はそれに感謝しただろう?
勘の良いのことだから、それから茂みの中を探したかもしれないが、そうなってもお前はまたもうまくを操作してくれただろう。
茂みの中には、お前がに見つけて欲しくない者がいたからな」
「――お前は誰だ? 誰なんだ!」
「誰だと思う?」
そう言い、彼女はフードを脱いだ。
彼女の顔を見たクラウチの顔はショックにより蒼白になった。
はその反応を楽しそうに眺める。
「かつて我らを苦しめたバーテミウス・クラウチも、歳を取ったものだ。ただの爺さんになったか?
かつてあれほど潔癖さを誇っていたお前が、ここまで身を貶めているとはな。お前も私たちと同類だ」
クラウチの杖の先から発せられた魔法を、は軽く防御した。
「人のそのような心に、闇の帝王は取り入るのだ。
お前のお陰でうまくことは進んだ。これからも、うまく進むだろう。
熱心にバーサ・ジョーキンズを捜索しようとしているらしいが、もう遅い。感謝するよ、バーテミウス・クラウチ」
「――バーサ・ジョーキンズか――!」
クラウチは苦虫を噛み潰すように唸った。
急に顔を赤黒く変色させたクラウチへ、は明らかな嘲笑を送る。
「そうだったな。人の家へ訪問したのに、来訪の目的を言わないとは失礼だ」
言葉とは裏腹に、は顔に残酷な喜色を見せる。
「闇の帝王の忠実な召使いを引き取りに来た。――バーテミウス・クラウチSr.」
その言葉と共に、クラウチは魔法にかかる。
ワームテールに抱かれたヴォルデモートが、クラウチへ服従の呪文をかけたのだ。
はそれを一瞥し、家の中へ進んだ。
キッチンへ行き、うろうろと周りを歩き回る。
何か障害物を発見し、は一歩引き、空を掴んだ。
「バーテミウス・クラウチJr.」
透明マントの中から、床にうずくまっている青年が現れた。
トロリとした目でを見上げた――まだクラウチの服従の呪文が聞いているらしい。
「ワールドカップ競技場での約束通りに、迎えに来た」
クラウチJr.はパチパチと瞬きした。
じっとを見つめ、そして辺りを見回す。
すると、彼はを強い目で見上げながら、口元に笑みを作った。
2008/11/1
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