13/不和と再会














はもともとその会議には呼ばれてはいなかったが、ホグワーツに滞在していたから、という理由で途中から急に呼ばれた。
何事かと思って会議の内容を聞けば、三校対抗試合の試合内容についての会議らしい。
英国魔法省の意見をこれで固めるらしい。

会議室へ入ると、クラウチが議長席に座っており、パーシーが隣で書記を務めていた。
アメリアがこっちへ来いとジェスチャーをしたので、はそそくさと魔法法執行部長の隣へ座った。


「英国が開催場所になるということから、我が国の特徴をアピールするような課題を行う、ということに異存はないですな?」


クラウチの言葉に、各部の部長は、各々それに賛意を唱える。
はクラウチを見た。
彼は、前よりかはいくらか顔色が良くなってはいたが、相変わらず真っ白な顔をしていた。


「それに増して、久々の三大魔法学校対抗試合に相応しい競技課題にすることが求まれる。
 やはり対抗試合の伝統としては、魔法動物を用いた競技が最もポピュラーですね。
 そして、英国の色を出すとすると――アクロマンチュラはどうですかな?」

「あなたは過去と同じ惨劇を引き起こすおつもりですか?」


魔法生物規制管理部長の言葉に、アメリアが突っ込んだ。


「そして、同時に、過去のおびただしい死者を生んだ惨劇を繰り返さないよう、綿密な計画を練ることが必要です」


クラウチが付け足した。
五百年振りのこの試合を、何とか成功させねばならない。
このために、何年も各国の魔法省とコンタクトを取り続けたのだ。

アメリアが、小さくへウインクした。
は、何となくどうして自分が呼ばれたのかが分かったような気がした。


「それでは、是非ともウェールズ・グリーン普通種かヘブリデス・ブラック種を。イギリス原産ですよ」

「ドラゴンを競技に使うのは、良いアイデアだと思うな。楽しそうだ」


バグマンがウキウキした様子で述べる。
クラウチも、この案には賛意を持っているようだ。
隣のパーシーが、凄まじい早さで羽ペンを動かしている。


「他の意見はありませんか?」

「レシフォールドはどうでしょう? 名試合になると思いますよ」

「私も、それに太刀打ち出来るかどうか分かりませんね。随分スリリングな試合になるでしょう」

がそう言うんじゃあ、みんな生徒は死んじゃうよ」


バグマンがのほほんと言う。
魔法生物規制部長は、急いで次の言葉を放つ。


「では、では、スフィンクスはどうです? スフィンクスの謎かけは?」

「あの爺さん、余程死ぬ前に世界各国の「幻の生物」を目に収めておきたいらしい」


の耳元で、アメリアが囁いた。
は苦笑でそれに答える。

周りを見渡すと、魔法ゲーム・スポーツ部と魔法生物規制管理部長以外の各部の部長はげんなりした様子だった。
神秘部の部長だけが不在だった。


「ホグワーツで競技を行う上で、ホグワーツの恵まれた地形を利用するのは鉄則だと思いますが、どうでしょう?」


の凛とした言葉に、各部の部長は眠気から覚めたかのように背を伸ばした。
そして、そうだそうだと口々に唱え始める。


「そうした方が、競技に参加させる魔法動物の幅も広がると思いますよ。ホグワーツには湖もあります」


魔法生物規制管理部長は、嬉しそうに微笑んだ。
は辺りを見回して、言葉を放つ。


「それに加えて、現在の生徒たちの魔法のレベル、死傷者を少なくして競技を遂行する方法について。
 去年一年教鞭をとっていた身として、私の知っている限りの知識をお伝えしたいと思います」





会議が終わった後、アメリアはへ感謝の言葉を言ってから、立ち去った。
魔法生物規制管理部長もへニコニコとお礼を述べた。
は、彼をないがしろにしなかったのだ。


「きっと、この試合はおもしろくなるぞ!」

「ルード。貴方も、ちゃんと仕事してね。バーティの疲れた様子を見た?
 この試合は、ワールドカップに続いて二つの部が主として企画しているんだから……」

「分かってるよ」


分かっているのかどうか、疑わしいと思った。
バグマンの気楽な性格が、このことを真剣に受け止めてくれるのはいつになるだろうか。

はふいに振り返った。
バグマンはが視線に留めた者を見て、顔色が蒼白になった。


「あ……」


バグマンは、廊下を走って逃げ出した。
が呆気に取られていると、その場にいた者が独り言を呟く。


「あの人は――」

「彼に、何か?」


目線の下にいる子鬼へ、は尋ねた。
子鬼はを見上げ、苦々しげに言葉を吐く。


「ルード・バグマンは、私の貸した金を返さない。……あなた方魔法使いは、何もかも口だけですね」


グリンゴッツの子鬼らしい。
はまさに、子鬼が魔法使いへ反感を高める様子を目の当たりにし、困った。
子鬼は、ブツブツと魔法省や魔法使いに対しての不平不満を口ずさみながら、立ち去った。

――私にはどうすることも出来ないな。


「バーティ。お疲れ様。体調はどう?」

「以前よりかは良くなった」


端的に述べたクラウチは、パーシーに先へ部へ戻るよう指示した。
パーシーは駆け足で二人のもとから去って行く。

クラウチは、カバンから書類を探りながら、何気なく声をかける。


「ムーディと喧嘩をしたらしいな」

「……ええ」


クラウチはそれ以上のことを言わないが、は何となくクラウチが言いたいことを感じ取った。
クラウチはある書類をへ差し出した。


「――日本魔法省?」


受け取った書類には、そこへの移動についての詳細が書かれていた。


「近年、やっと日本魔法省が国際的に立場を露にした。
 彼らは、西洋の文化と魔法も組織に取り入れたいと願っているらしい。
 ……もっとも、そうしないと国際的な交流は不可能なほどに、その国は独特過ぎる独自の文化と組織を形成している」

「それに、どうして私が?」

「西洋の技術の研修の指導と、人事交流の一環だと思ってもらって良い。
 各国が日本へそのような人材を送り込んでいる……英国だけに特別なことではない」


警察組織、特に特殊部隊の研修と監督、諸々。
書類には多種多様な内容が書かれていた。
これを全てこなすことが出来る気はしないが……。

クラウチの思惑は何となくは分かっている。
私の前歴からいくと、なかなか私は国際的にも立場があるらしい。
以前、ワールドカップの時にアメリアが言っていたように、私を選ぶと体面が良いのだ。

そして、さらに、ホグワーツから帰ってきて仕事上中途半端な立場にいることも、その理由に含まれている。


「乗り気はあるか?」

「問答無用で行け、と言われたら、逆らいはしないけど……」


書類からチラリと顔を上げる。


「少し、英国から離れて頭を冷やしてみたらどうだ?」

「……アラスターとのことね」


なんて図星を突いてくるのだろう。
の胸は、心は、それを確かに望んでいた。
しかし、大きな理性がそれを押し止めていたのだ。


「三校対抗試合については、がいなくとも無事遂行出来る。第三の課題の前まで向こうへ行くのは、どうだろう?」


甘い誘い。
は、以前のムーディとの言い争いを思い出し、口は思いの他はっきりとこう言った。


「分かった、行くわ」


クラウチは僅かに微笑んだ。
そして、後で詳細を送ると言ってから、に背を向けて、廊下を歩いて行く。

は心の中で、あまりにすぐに結論を出したこの選択で本当に良かったのかと自問自答した。
しかし、心はまもなく感情的な答えを述べ、選択を肯定した。

ムーディと喧嘩をしてから、胸にはどこかぽっかりと穴が開いていたようだった。
少し、今までにないほどに、自棄になっていたのだ。










*










漏れ鍋。
セブルス・スネイプは、ある待ち人をしていた。

彼は日の当たる窓際の席に座り、軽い飲み物と本を相手にしていた。
本に軽くしおりを挟み、時計に目を向ける。
約束の時間だ。

その時、漏れ鍋のマグルの道へ通じる扉が開いた。
そこから、全身を真っ黒のパンツスーツに包み、黒いサングラスをかけた女性が中へ入って来る。

その場にいた魔法使いたちやその他の生物の一部は、その女性を見て唖然とする。
明らかにその場に浮いている。
その女性は、間違いなくセブルスの方へと向かっている。


「――サングラスはいらないだろう?」

「……出かける前に、トンクスに差し出されて。そんな格好しているならこれだろう、って。
 安心して、マグルの道ではかけてなかったから」


ならば、かける必要なんかないじゃないか。
セブルスはそう言いたかったが、はサングラスを外して胸ポケットへ収め、にこりと微笑む。
微笑みに、その言葉が留められてしまう。


「……トンクス? 七変化のニンファドーラ・トンクスか?」

「ああ、教え子なのね」


は上機嫌でセブルスの前の椅子に腰掛けた。


「元気? 夏バテしてない?」

「お前は元気過ぎる」


最近のについての新聞報道のことも含んでか、セブルスは溜息を吐いた。
は店員にアイスティーを頼んだ。
そして上着を脱ぎ始める。


「そうかしら? いつものことなんだけど……」


上着を畳んで椅子の背にかけ、白いカッターシャツの姿になったは、運ばれてきたアイスティーを口に運ぶ。
登場から今までのの行動を見て、セブルスは胸を撫で下ろした。
倒れていたり記憶を無理に探られたなどという物騒な新聞報道も、には堪えていないらしい。


「さっきまで、マグルの土地で仕事だったの」

「この頃、ワールドカップの事件以来、闇祓いは多忙だそうだな」

「でも、まあ、これ位はそれほど多忙の内にも入らないわね」


流石の風格と言ったところか。
さり気なく述べられた言葉に、セブルスは小さく感嘆する。


「単刀直入に言ったら、私がわざわざここに貴方を呼んだのには、一つ理由があるの。
 九月の中旬から、日本魔法省に移動することになって」

「……随分と急だな」

「ええ。何か、国際関係も色々大変らしくって。白羽の矢が立てられた感じ。第三の課題までには戻って来る予定なんだけど」


表面に感情をあまり表さないセブルスに、は首を傾げる。


「だから、これっきり来年まで会えないと思うの。ふくろうだって飛ばせないと思うし……ごめんね?」

「魔法省は、お前を対抗試合中は不必要だと判断したのか?」

「そうみたい。まあ、ホグワーツにはアラスターも呼ばれたし……」


セブルスは、その名前に過剰に反応した。
も、内心その名前を口に出すのは複雑だった。
セブルスは、言葉を持て余し気味にゆっくりと述べる。


「あー……師匠には、何か、言ったのか?」

「うん……まあ……そうだけど……」


二人とも口ごもる。
そうなる必要もないのに、気まずい雰囲気が流れる。
空気が重い。

の様子で、セブルスは察した。


「――あ、アラスターのこと、ホグワーツでよろしく頼むわ」

「我輩に丸投げか?」

「だって……」


その後に見せた、の本当に困ったような苦笑を見て、セブルスはが本気でこの件に骨を折っていることに気付いた。
まあ、それもそうなるだろう、という内心の声が響く。

相手はあの「アラスター・ムーディ」なのだ。
簡単にそのことを了承するはずがない。

セブルスは、これ以上ここでその問答を続けても無駄だと思う。
それに、もあの様子だと、これまでに出来る限りのことをしてきたのだろう。
己だけ何もしない、というのも道理にそぐわない。

それは理性で分かってはいるが……。
ああ、やはり、これ以上この件を話しても無駄だ。


「……分かった。何とかしよう。それで、調査の方は進んでいるのか?」

「校長から聞いたのね」

「ワールドカップの騒動から綿々と続く連鎖についてだ。が出現したのか否か、確たる証拠はないのだな」

「ええ。でも、闇の帝王が動き始めたのは、間違いのない真実だわ」


はセブルスの左腕を見た。
そして、自らの左腕も。


「「蛇のエキス」以外、証拠と呼べるものは何もないわ。
 調査は何も進んでない……まあ、そんなに簡単に調査が進むような相手だったら、ダンブルドアは苦戦しないでしょう」

「「闇祓い」が弱気なものだ」

「……でも、それが事実でしょう?」


は息を吐く。


「それと、ルーファス・スクリムジョールが言ってた。
 そんなことをずーっと考えてるより、実際に目の前で起こってることに対処した方が良いって」

「目の前で起こっていることとは、どのようなことだ?」

「ワールドカップの騒動とか。起きたものから、着々と順々に詳細に調査していくこと」

「なるほど。一理あるが、その考え方は、回り道が多くはないか」

「私もそう思う。見通しがつかないのに、がむしゃらにことを行っていたって、効率が悪いと思うけれど……」


今日、初めて真剣にはじっとセブルスと目に見据えた。


「今は、そうするしかないと思うわ。今まで再興の予防措置が最重要だったし、今もそうよ。
 それに、もう飛躍して調査すべきものは調査し尽くしたもの」


セブルスも、の目を見る。
何一つ内心が変わらないがそこにいる。
は氷の音を立たせながら、アイスティーをまた口に運ぶ。

グラスをテーブルの上に置く時に、何気ない口調で言う。


「ハリーのこと、お願いね。今までみたいに、今学期も。闇の帝王は、手駒も増えたことだし、何かを企んでいるかもしれないわ」

「ダンブルドアは絶対に闇の帝王は何かを企んでいる、と断言していたぞ」

「ええ。間違いのないことは、ホグワーツ城に今までになく人の出入りが多くなることだわ。だから……」


嘆願の言葉。
の言葉に、セブルスは溜息を吐く。


「ならば、外国へなど行かなければ良いものを。それに、お前がそのことを言うべきなのは、我輩だけではないはずだ」


は一瞬むっとした表情を見せたが、すぐに逆立てた眉を落とす。
示唆された人のことを思うと、は胸の何処かがビクリと跳ねて、チクリと痛む。
唇を噛む。


「意地悪言わないで。私も、何もしていないわけじゃないし、するべきことは最大限にやってるわ」


セブルスの頭の中を、連日の新聞報道が過ぎる。
何者かに記憶を抹殺され、聖マンゴで無理やり記憶の修正をされ、開心術を施され――。


「――分かった。専心しよう」

「ありがとう」


満足げなの笑みに、セブルスはほっとする。
きっと、彼女が今日したかったことの過半数を占めるのは、この確認だったのだろう。
そんなことをせずとも、その答えは既に決まっているのに。


「それで、今日我輩を呼び出した目的はこれだけで終わりか?」

「ええ」


冗談じゃない。
セブルスのその内心の言葉を聞いたかのように、はくすくすと笑い出した。
その思いが、顔に出ていたのかもしれない。


「冗談よ。明日はやっと休みが取れたの」


は、上着の中から鍵を取り出した。


「漏れ鍋に部屋も取ってあるわ」

「……それは、普通男がするべきことだな」

「じゃあ、セブは何で今日部屋を取らなかったの?」

「お前がそうすると睨んでだ」

「あら、じゃあ丁度良いじゃない」


は立ち上がり、上着を着つつ言う。
悪戯っぽい笑みを浮かべながら、セブルスを横目で見やる。


「浮気してないか、確かめてみる?」


セブルスも立ち上がり、を見つつ言う。


「お前も確かめるか?」

「そうさせてもらおうかしら」


セブルスはテーブルの上にある鍵を手に取る。
そして、マグルのかっちりした服装で歩き始めるの後を追った。
あまり高くない黒いピカピカのハイヒールが、規則正しく音を立てていた。










*










9月1日。

早朝、いつもより早くが出勤した時に、その騒動は既に省の中で波打っていた。
闇祓い本部の前に行くと、そこには顔を顰めて数人の魔法使いと話し合っているスクリムジョールがいた。
スクリムジョールはの姿を認めると、こっちに来るよう目配せする。

そこにいる魔法使いの中には多少顔を見知っている者がいた。
魔法不適正使用取締局の局員だ。

すると、またその場に息せき切ってやって来る人がいた。
の肩をポンと叩いたのは、エイモス・ディゴリーだった。


「何かあったの?」

「君の師匠が一騒動起こしてね」


はあはあと息を荒げながら、ディゴリーは胸を押さえる。
何とか息を落ち着かせようとしている。


「君は、ムーディにゴミバケツにだれかれ構わず攻撃する魔法をかけないよう、指南していなかったのか?」

「――ゴミバケツが何ですって?」


うんざりした口調のスクリムジョールに、は言葉を反復して返した。


「マッド=アイの家に、誰かが侵入したらしい。そして、ゴミバケツが侵入者を迎え撃ったらしい」

「それで?」

「慶察が辿り着いた時にも、ゴミバケツが一個吹っ飛び続けていた」


は至って平静だった。
表情を変えず、淡々と言う。


「「警察」ですね。問題は、師匠が誰かが侵入したと思った時に、何か不適切な魔法を使っていないのか――」

「あの人のことだ。所構わず呪いを放っただろう」

「それで……本人に怪我は?」


思ってもなかった返答に、ディゴリーは一瞬言いよどむ。
しかし、その意図を解すると。


「それは大丈夫だ。ピンピンしているよ」

「そうですか」


ディゴリーには、一瞬のほっとした表情が見えた気がした。
しかし次の瞬間にはまたも無表情な顔に戻っていて、目の錯覚だったのかと思う。


「ムーディは、今日からホグワーツだ。何とか軽い罪にせねばならない」

「不適正取締局に目を付けられたら、罪は軽くはならないでしょうね」


スクリムジョールは、人目をはばからず嘆息を吐いた。
面倒な男だ、と言いたそうだった。
はその場の不適正取締局の局員を一瞥してから、マントの下で腕を組んだ。

じっと考え、ぽつりと呟く。


「――アーサーに連絡を取れますか?」


ディゴリーは、その一言で、の言いたい意味を理解した。
飛ぶように暖炉へ向かって行く。

マグル製品不正使用取締局にかかれば、重い罪にはなるまい。

スクリムジョールにこの件の報告をしていた局員たちも、その言葉で各々立ち去って行く。


「ムーディの家には行かないのか?」

「……意地悪」


嫌味ったらしいスクリムジョールの言葉に、はスクリムジョールを睨み付けた。
近日師弟が喧嘩をしたことは周知だった。
スクリムジョールは鼻で笑った。


「心配なのだろう? 師匠の尻拭いとは、弟子として大変だな」

「――あんな人のこと、知らないわ」


むっとした表情で本部の中へ消えて行く
スクリムジョールは、らしくない言葉を吐いたに、違和感を抱く。
こんな風にムーディのことを言うを見るのは、初めてだった。

信奉しているのと同様に、彼のことを慕っているのだと思っていたのに。

師匠とこれから半年以上会えなくなるのに、真っ直ぐに本部の中へ消えて行くの後姿を、見送った。



























2009/1/26






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