ホグワーツに戻り、私室の扉を開いた。
そこにはいつもと変わらない光景が広がるはずだった。

しかし、そこには、一年前に見慣れていた光景が広がっていた。














19/汚れなき悪意














そこには、我が物顔でソファーに腰掛けているがいた。
一年前のその光景と、今の光景が被った。


「……セブ」


は立ち上がって、セブルスの元へ歩みを進める。
顔に感情は見えなかった。
ゆっくりと歩いて、セブルスの目の前に立った。

はセブルスに抱きついた。
彼女からこんな風に抱きついてくるのは珍しかった。
腕でぎゅっとセブルスのマントごと胴を抱き、顔をセブルスの胸に埋めた。

セブルスは、その背に腕を回す。
じっとはセブルスに抱きつき、やっとのことで顔を離す。


「落ち着いたか?」

「ええ。ありがとう」


は小さく微笑を見せた。
ムーディとクラウチJr.に関し、はひどく感情を揺り動かしていた。

はセブルスの身体から腕を解かずに、もう一度口を開く。


「闇の匂いがする」


的確な言葉に、セブルスは苦笑を見せた。
を騙し通すことはできないらしい。


「……行って来たの?」

「ああ」

「召集に遅れて、大丈夫だったのね」


の腕にも闇の印があった。
何も言わずともわきまえている
何もかもを見透かしているかのような目が、セブルスの目を捉えていた。


「ダンブルドアも酷なことを貴方に……」

「それが我輩の役割だ」


はまだ何か言いたげだったが、口を閉じてセブルスから離れた。

彼は、何らかの方法でヴォルデモートを納得させた。
今までダンブルドアの動向を見守っていた、ダンブルドアをスパイしていた、などと言って。
己が忠実な死喰い人であると、ヴォルデモートに納得させたのだ。

もやもやとした思いが胸に広がるが、はそれを胸に仕舞った。

セブルスは、の手を握っていた。
はその手を見る。


「あの方は、生贄にまんまと逃げられたと怒っておられた……お前とポッターについてだ」

「ごめんなさい。貴方がヴォルデモートを説得しにくい状況を作ってしまっていて」

「お前があの死喰い人の輪から逃げられたことに比べれば、何てことはない」


セブルスはの擦り切れた手に、杖を当てた。


「あれは、単にとても運が良かっただけよ。マグルの武器を運良く持っていたり……」

「運が良くとも、逃げ切れるのはお前しかいないだろう」


セブルスは、のとても心配そうな顔を見た。
こんな顔をしてくれるのは、彼女しかいない。


「セブ。……本当に大丈夫なの?」

「心配には値しない」

「貴方が優れた魔法使いであることは知ってるわ。……でも……」


の複雑に翳った頬に、セブルスは触れた。
そしての手首を掴む。
この感じは……。


「……セブルス?」


彼の目は、じっとこちらを見つめていた。
直感的にぞくりと背が震えた。
暗いトンネルのような目が、一心にこちらに向けられていた。


「何……」


頬に唇が触れる。
は驚いてセブルスを見上げる。
思わず抵抗しようとするが、手首を縫い止められる。
背中に手を回される。

視線が真っ向にかち合う。
お互いに心を閉じることも、開くこともしなかった。

以前によくしたように、唇が重なり合おうとする。
は頬を染めて、顔を背けた。


「……どうした?」

「急にこんなこと……耐性がなくって」

「一年も経っていないのに、初心に舞い戻っている」


はますます目元を染めた。
ちらりとセブルスを見上げる。
は目を瞑って、顔を上げた。

扉にノックが響いた。

は目を開いて、扉の方に視線を向ける。
セブルスは渋々との身体を離し、扉を開けに行く。


はここにいますか?」


開けた先には、マクゴナガル先生が立っていた。


「はい。何でしょうか?」

「ダンブルドア先生がお呼びです」


は唾を飲み込んだ。


「分かりました。今すぐ行きます」


セブルスの横を通り、マクゴナガル先生の横を通って、廊下へ出る。
扉は閉められた。
マクゴナガル先生はを先導し、校長室へ歩いて行く。


「あなたはきっとここにいると、校長先生がおっしゃられたんです」

「ご名答ですね」


は苦笑した。
目の前を行くマクゴナガル先生の表情は、見えない。


セブルスは、が出て行った扉を見つめている。
――彼女は、訊こうとしなかった。
セブルスは顔をしかめ、自らの左腕を見つめた。

……いつまでもこうしていられるのだろうか。
こうしていられる、と今は信じていたい。

しかし、確かに変革が起こったのだ。
もう去年から事態が変化している。
闇の帝王のこちらを見透かす赤い目を、今も鮮明に思い描くことができる。

そして、ダンブルドアの表面上穏やかな青い目と、あの人の緑色の目……。
セブルスは思い出してはいけないものを思い出したかのように、胸を握り締めた。










*










マクゴナガル先生に連れられ、校長室の前へ着いた。
マクゴナガル先生が合言葉を唱え、目の前に校長室へ繋がる螺旋階段が現れる。
小さく会釈をして、そこを上っていく。

見慣れた扉を、開いた。
不死鳥の鮮明な赤い姿が、ダンブルドアの隣の止まり木に見えた。





は足を進め、ダンブルドアの前にある椅子に促されるままに腰掛けた。


「君の身に起こったことを、教えてくれるかね?」

「記憶をご所望ですか?」

「いや……君の言葉で良い」


は、この自分の身に起こったことを、一年前のことから洗いざらい話した。
罠にかけられて円陣の中に放り込まれたこと、ヴォルデモートから死喰い人に入らないかと勧誘されたこと、何とか死喰い人から逃げおおせたこと。
そして、クラウチJr.と対面したこと。

その間中、質問をしない時は、ダンブルドアは思いに耽っているように動きはしなかった。
そして、話が終わった時、ダンブルドアはまずこう言った。


「……すまなかった。アラスターが偽者だったことに、わしは一年も気づかなかった」


彼がこのように誠意を尽くし謝っているのを、は初めて見た。
どうして初めて見たのだろう?
そうだ、彼が、人に誠意を尽くして謝らなければならない場面を見たことがないからだ。


「それは、アラスター自身に謝ってください。私に謝られても困ります」

「本当に申し訳なかった」

「貴方の心は受け取りました。だから、もうそれ以上、頭を下げないでください」


まさか、ダンブルドアに頭を下げられるなんて、夢にも思っていなかった。
その行為によって先ほどのことを思い出し、またの胸はチクチクと痛み始めてしまう。
は気丈を振舞った。

頭を上げたダンブルドアは、とても年老いて見えた。
疲れ果てた年寄りの姿に、はこの賢者の年齢を思い出した。


「それと、君に確認しておきたいことがあるのじゃ。セブルスについてのことじゃが」

「彼は、ヴォルデモートの元から無事に戻って来ましたよ」


ダンブルドアは、それに小さく頷いた。
そして、じっとの目を見た。
それは、開心術をする時のものと似ていて、は咄嗟に身体を強張らせた。


「君は、セブルスのことを愛しているのじゃね?」


は、ダンブルドアのその様子からのこの質問を意外に思ったが、素直にゆっくりと言葉を吐く。


「……はい」

「それでは、彼のことを、何があっても信じてくれるかね?」


一瞬、はダンブルドアの言葉を疑った。
それがあまりにも奇妙な質問だったからだ。
ダンブルドアは、何故かこちらに懇願するような目を見せていた。
聞き間違いではないらしい。

は胸を凍らせたその質問を、真正面から見据えた。
じっと自分の心を省みて、よく考えた。


「それは、出来ません」


ダンブルドアは失望したような表情をした。


「何故じゃ?」

「もし彼がアラスターを殺したとしたら、私は彼を信じることは出来ません」


は毅然として振舞う。
ダンブルドアは、の全身を余す所なく見据えていた。
何とか、彼女を解きたいようだった。


「愛しておるのじゃろう? ならば……」

「愛しているから信じるなんて、そんなこと、私には出来ません。私は――」


は無意識に膝の上の手を握った。


「ある一面で、彼をとても信じています。それこそ、アラスターを殺したとしても、彼を信じ続けるくらいに。
 でもある一面では、私は彼を信じることはとても出来ません」


ゆっくりと胸の中を整理する。
ダンブルドアが何を望んでいるのか……少しだけ、予想出来るけれど。


「彼は、とても誠実で、律儀で、信念を何があっても貫く人です。それこそ、目的へ狡猾に向かっていきます。
 だから、私は彼をとても信頼しています。それは、校長、貴方も分かっているはずです」


ダンブルドアは小さく会釈した。


「ダンブルドア校長――貴方はどうして、セブルスを信頼しているのですか?」


言葉は静かに部屋に広がった。
真摯なの言葉に、ダンブルドアは出来るだけ真摯に応えた。


「その答えは、君が既に述べている」

「違います。私は……私は、彼が死喰い人ではない、と断言出来ません」


は身を乗り出した。
爪が刺さるまで手の平を握って、目の前のダンブルドアに縋るように述べた。


「どうして、貴方は彼を信じているのですか? 過去、死喰い人に反旗を翻した彼を、どうして信じたのですか?
 どうして、現在ヴォルデモートの元から帰って来た彼が、完全に死喰い人ではないと言い切れるのですか?
 ――私は、ある一面、彼のその部分を信じることが出来ません。
 彼なら、死喰い人に忠義を示しているのなら、彼はそれを変えることはしない……律儀な人だもの。
 反対に、校長、貴方に忠義を示しているのなら、彼は絶対に死喰い人じゃない」


のギラギラとした瞳に対し、ダンブルドアは目を細めて見せた。


「君は……それを信じることが出来ずに、彼を愛しているのかね?」

「セブルスもそのことは分かっています」


ダンブルドアは驚いたようだった。
彼の口元が、何か小さく動いた。


「一年前からそうでした。彼と関係を持ち始めた時から。
 ……私は、闇祓いなんです。死喰い人相手に、簡単に心を開くことなど出来ません」

「しかし、君たちは――」

「想い合っていることに間違いはありません」


の頭の中で、先ほどの光景が蘇った。
闇の匂いをまとうセブルスは、私に訊いて欲しそうだった。
私が胸に仕舞ったことを。
仕舞いざるを得なかったことを。

胸がチクリと痛んだ。

目の前のダンブルドアは、心底驚いた表情をしていた。
彼は、私たちが心から愛し合っていると信じていたのだろうか。


「校長――応えてください」

「そういうことは、本人から聞くものじゃ」


は、不満そう、むしろ、苛立った表情をしていた。


「わしが話したと知れれば、わしがセブルスに怒られてしまう」

「それでは……それは、彼自身についてのことなんですか?」


ダンブルドアは返事をしなかったが、どこか彼はそれを肯定しているようにには見えた。
ダンブルドアはそれ以上何も話しはしなかった。

は、何とかその答えのみで心を落ち着けようとする。
この質問をするには、時期尚早過ぎたのかもしれない。


「わしの質問にも応えてもらおうかのう、

「……」


は眉を寄せた。
ダンブルドアから視線を逸らす。


「……私は、彼を信じることは出来ません」


ダンブルドアに落胆が見えた。


「でも、私は、彼がもし死喰い人であったとしても、彼のことを嫌うことはしません。
 いえ、嫌うことが出来ないと思います」


小さく唇に笑みを浮かべる。
ダンブルドアは、このような答えを欲していたのだと、は思っていた。


「彼が死喰い人であったとしたら、むしろ私はそれに納得してしまうと思います。
 周りの人々は彼を見損なったと嫌うでしょうが……私は、彼の良い所を見過ぎています。
 何があったとしても、私はもう本心から彼を嫌うことは出来ません。彼のことを知り過ぎました」

「不思議な答えじゃの」

「我ながら、そう思います」


ダンブルドアは嬉しそうに苦笑していた。
やはり、彼はこのような答えを望んでいたのだ。


「それは、もし、君が彼に杖を向けなければならなくなっても、変わることはないかね?」

「――ええ。きっと……。無論、杖を振るのに妥協はしませんが」


不思議な関係性だと、ダンブルドアは思った。
ダンブルドア自身があまり体験したことのない友情と言うのか、愛情と言うべきなのか……。
しかし、とりあえずダンブルドアは安堵した。


「校長、貴方はセブルスに、周りの人々から信頼を失わせるようなことをさせるおつもりですか?」

「その答えは保留させてもらっても良いかね」

「……はい」


は肩を下ろした。
すなわち、その答えはイエスである。
……この目の前の魔法使いは何を企んでいるんだ?

ダンブルドアは、の鋭い指摘に安堵が一瞬消し飛んでしまった。
また安堵が手の内に戻ってきたことを確認し、ダンブルドアはもう一度安堵の溜息を吐いた。





「それでは、本題に移ろう。不死鳥の騎士団というものを、君は知っておるかね?」

「はい。かつて、フランクやアリス、アラスターが入っていましたよね」

「話は聞かされておったのか?」

「いいえ」


は昔を懐かしむように、苦笑した。


「フランクとアリスは、うまく度々省からいなくなることを隠していました。
 しかし、アラスターは……そのことを私に隠す努力をしていなかったようです。
 さすがに気づきますよ。貴方との交友関係、そして、度々姿を消す師匠……フランクとアリス。判断する材料は多くありました。
 姿を消すアラスターのお陰で、私にどれだけの報告書が課せられたか」

「それはそれは……すまなかったのう」

「いいえ」


ダンブルドアは決定的な一言を述べる。


。わしは、騎士団に君を勧誘したい」


は緩んでいた表情を引き締めた。
そして、眉を僅かに寄せる。
口は、ゆっくりと言葉を選んで動き出した。


「貴方は、私のことを信用しておられるんですか?」


その言葉には、疑心と暗鬼、恐れがたっぷりと含まれていた。
ダンブルドアは急に目つきを険しくしたを見て、唇に指を当てた。


「昔の話じゃ。十五年ほど前、アラスターが急にわしの元に訪れて来た。
 そして、腕に闇の印をつけた娘が闇祓いの門を叩いてきたのだが、その者をどうするべきかと相談を持ちかけてきた」

「それは……」

「その娘には見込みがあり、伸びしろも大層あるように見えた。だから、アラスターはどうするべきか決めあぐねたのじゃ。
 そうでなければ、彼は容赦なくその者を裁判にかけたじゃろう。結果は、君の知っているところじゃ」


目を見開けているに、ダンブルドアは微笑みかけた。


「わしは、その時から君のことを信じておるよ」

「……貴方が私の命運を握っていたとは知らず、失礼なことを今まで数多く……」

「失礼なこと? 思い当たらんな」


口は何かを言いたくて動くが、言うべき言葉が思いつかない。


「わしは、その娘を信じて良かったと思っておる。現に、立派な姿をわしの目の前に見せている」


は、こそばゆい気持ちに襲われた。
ダンブルドアの目がこそばくて、仕方がない。


「私は、貴方がたを裏切るかもしれません」

「ほう」


ダンブルドアは、の言葉と正反対に軽く言葉を放った。


「私は……分からないんです。どうして、リーマスやブラックがあれほどまでに、命を賭して戦えるのか」

「君だって、今まで同じことをし続けてきたじゃろう」

「私情があるからです。私は、個人的な感情としてヴォルデモートが憎い。
 しかし、彼ら、そして貴方は、そのような私情を持ち合わせてはいないでしょう? 世の中のためだと思って、戦っているのでしょう?」


彼らの間にいてずっと感じていたジレンマ。
闇祓いとして過ごしてきた間にずっと感じていたジレンマが、口をついて出てくる。


「より大きな善のために」


ダンブルドアは、咄嗟に身体をびくりと反応させた。
懐かしい言葉、昨今聞くことのなかった言葉が、の口から発された。
しかし、はダンブルドアのそのような様子を気にかけていない様子だった。
自分のことで、精一杯なのだ。


「グリンデンバルドの言葉です。彼は彼なりの善を求めました。
 自分が悪人だと思っている悪人は、物語の中にしかいません」


は続けて言葉を紡ぐが、ダンブルドアの心は先ほどの言葉の余韻で小さく震えていた。


「私は、彼らの「善」を否定する材料を持ち合わせていません。
 何が「善」か何が「悪」なのか、感覚が麻痺してしまっている私には、判別出来ないんです。
 それを判別するには……私は小さ過ぎて、世界は翳り過ぎています。
 ――そういう私を、貴方は愚かだとおっしゃるのでしょう?」

「そうだとは言わん。君は、少しだけ未熟かもしれないだけじゃ」


は小さく苦笑した。
そして、自分の膝を見つめてから、顔をダンブルドアの方へ上げた。
顔は、何かを決心しているかのように凛々しかった。


「私は、貴方が分かりません。かつて、ヴォルデモートは貴方の生徒でした。
 貴方はヴォルデモートを絶対的な「悪」だと言い張りますが、そうだとすれば貴方にも大きな罪がある。
 しかし、貴方は「善」を振りかざして、何もかもを行使しようとする」

「……だからこそ、ホグワーツの校長は、死後も肖像画としてここに残るのじゃ。
 生徒の行く末をいつまでも見守れるようにの。君の言い分はもっともじゃ」

「では、何故――?」

「わしは、そのようなことができるほど、できた人間ではないのじゃ」


は眉を上げた。
この校長は、逃げている。
ぎゅっと拳を握り、また思いのほどを彼に伝える。


「私は、かつて、人を殺すことを「悪」だと思っていました。しかし、貴方たちも、私も、どれほどの人を殺したでしょう。
 貴方たち、私たちの「善」は虚構のものだとしか捉えることが出来ません。だから私は……」

「裏切るかもしれない、と」

「芯のない人間は、揺り動かされれば落ちるのが目に見えます」

。君は、ヴォルデモートの思想に賛意があるのかね?」

「賛意も反対も、私には……分かりません。神でもない限り、それが間違っているかどうかなんて、正統に判断できません」


は、ダンブルドアをじっと見た。


「完全な悪とは、何ですか?」

「君は、どうして闇祓いをずっと続けて来たのじゃ?」

「アラスターを裏切ることは、何があっても出来ないからです。彼には、返しきれないほどの恩があるんです」

「では、わしは君を大手を広げて騎士団に勧誘したいと思う」


どうして、そう言いたげな顔をしている
ダンブルドアは、何もかも分かっているような笑みを見せた。


「アラスターが騎士団に所属している限り、君は我々を裏切ることは出来ないじゃろう?」


は無言で固まった。
そして、次に、プッと吹き出す。
クスクス笑いが止まらなくなる。


「……校長、スリザリンの才能も貴方にあると思いますよ」

「そんなことをわしに言うのは、君たち師弟だけじゃ」


ということは、ムーディもダンブルドアに同じ言葉を言ったことがあるらしい。
ダンブルドアは白髪の髭をすいている。
表情は、いたって和やかだ。


「古狸だの、鬼畜だの、そんなことをわしに言うのは君たちしかおらんだろう」

「いいえ。ルーファス・スクリムジョールもそんなことを言ってましたよ」

「なるほど。闇祓いとわしは相性が悪いらしい」

「闇祓いは、変人奇人の集まりだと有名ですから」


けろりと言い放つ
何とか笑いを収めたところで、は再確認する。


「そんなに簡単に人のことを信じても大丈夫なんですか?」

「おお。それも、昔アラスターに同じことを言われたことがある。
 簡単に人を信じるのが、わしの悪い癖じゃと。だから、彼はわしの元から離れることができんらしい」

「どうしてですか?」

「お人よしのわしの代わりに、彼はやって来る人々を疑い続けるらしい」


は、また吹き出した。
あの人は人を疑い過ぎる。
は笑い続ける口を押さえ、何とか平静を取り繕う。


「……分かりました。不死鳥の騎士団に入ります」

「喜ばしいことじゃ。では、他にも魔法省でこちらに来てもらえるような人がいないか、調査してもらえるかね?
 闇祓いだとなお良いのじゃが……」

「ああ、二人、いますよ。貴方もよくご存知だと思う人が」


は首を傾げた。


「私が無茶をして解雇された場合の、保険ですか?」

「……若い時のアラスターと君の影が被って仕方がないのじゃが、もう歳かのう」

「きっとそうだと思いますよ」


はにっこりと微笑んで、席を立った。
もうこれで用事は終わったと判断した。
は現実を見据えた。


「校長。魔法省に連絡をしていただけますか?」

「何と連絡すれば良いのかね?」

「バーティの遺体の捜索部隊を派遣して欲しい、と」


そう言ったの顔には、笑みの欠片も消えうせていた。
凛々しく引き締まった顔だった。


「私は、これから探しに行きます」


小さく一礼して、校長室から出て行った。
ダンブルドアはの後姿を見送り、物思いに耽るように机に肘をついた。
独り言を呟いた。


「君の門下は一筋縄ではいかないな、アンジー」

「アンジー? 誰だ、それは?」

「フィニアス。彼の師匠の師匠じゃ」


フィニアス・ナイジェラスはにやにやとした笑みを見せながら、のいなくなった部屋を見ている。


「それにしても、久々に刺激的で面白い会話を聞かせてもらった。あの子はどこの誰だ?」

「純血の血筋じゃ」

「どうりで。君をあのように批判する者は珍しい……ぬるま湯に浸った会話を聞くのにはもう飽きていた」


ダンブルドアは、羊皮紙と羽ペンを取り出した。
の先ほどの依頼をしたためながら、さて、魔法省は彼女をどのように扱うのかと思いを巡らせる。
魔法省にとっても、彼女は扱いにくい駒になることは明白だった。

――アンジー、久々に君のことを思い出したよ。

の姿に被るのは、かつての盟友の姿だった。



























2009/3/21(タイトルはALI PROJECTより)






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