ガコンッ


老人が後ろに倒れ、後頭部で床を叩いて転がり事切れた。














序章/闇の帝王と闇の女帝














「ワームテール、片付けろ」


醜い赤子は冷たい声を吐いた。
ワームテールは、その声を告げた者から早く逃れたいように、老人の亡骸へ向かう。

ヴォルデモートは先ほど死の呪文を唱えた杖を片付け、暖炉マットで寝そべっている雌蛇――ナギニ――へ目を向け、そのまま目線を暗い窓へ向ける。





呼ばれた女性は、さっきまでの喧騒に全く興味がなさそうに外を見ていた。
しかし、名前を呼ばれ、目を少し細くして足をヴォルデモートの方へ向ける。


「卿、ワームテールに始末のつけ方を教えなくてはいけないのでは?
 私は、ワームテールが単身で今までまともなことをした覚えは少ない」

「なるほど。お前の言う通りだ。ワームテール――」


赤子は急に猫を撫でるような声色をする。
ワームテールは身体を跳ねさせ、恐れに満ちた目で自分の主人を見つめた。


「――俺様は、お前に始末のつけ方を教えねばいけないか?」

「いいえ、ご主人様……私自身で全て行うことが出来ます」


そう言い、ワームテールは急いで死体を引き摺って部屋を出て行く。
はそれを腕を組んで見つめ、後から私が確かめておこう、と呟く。
下手なことをされてアルバス・ダンブルドアの注意を引くのはご免被りたい。


「あいつの今までにおける功績は、バーサ・ジョーキンズを連れて来たことくらいだ」

「もっともだ」


は、自分の身体より幾分も小さいヴォルデモートを見下ろす。
の目は、ヴォルデモートが何十年も前のハンサムな姿でいるのを見ているようだった。
目には、醜い姿を見下ろしていることから来る嫌悪も、恐れも、何もない。

彼女の目の前には、優等生のトム・リドルがいる。

白い細長い三叉の蛇が、まるでナギニとじゃれているかのように絡み合っている。
がそこに手を伸ばすと、三叉の蛇がするすると彼女の腕に絡みついた。
そして、いとおしそうにその滑々とした蛇の肌を撫でる。


「守備は大体において整っている、卿」


ヴォルデモート相手に、敬語を使わない死喰い人は彼女だけだ。
彼女は豊かなブロンドをかき上げる。


「クィディッチ・ワールドカップ、そして、の師匠――」

「そうだ。後の問題は、その女だ」


ヴォルデモートがそう言うと、の顔に残忍な喜色が溢れた。
がヴォルデモートの方へ向き直ると、目が暖炉の光で青く光る。


「あの女は、なまじ腕が良く、勘が利く――俺様も彼女の魔力の素養においては認めている。
 しかし、、お前は操作出来るな?」

「勿論だ。彼女を操るのは容易い。それに、一年ほどこの地から引き離す計画はもう立ててある」


ヴォルデモートは満足げに頷いた。
三叉の蛇はふいに、シャーッとナギニに歯を剥いて威嚇した。
ナギニは王者の貫禄を見せるように、小さな対象に向かい、小さく威嚇する。

三叉の蛇は怯えての首にスルスルと巻きつく。


「私の立てた計画が信用出来ないのならば、お前へ計画のお目通りを願うが?」

「結構だ。俺様が手放しで信用しているのは、お前しかいない」

「それは身に余る光栄」


はおどけてローブの端を持ち上げて頭を下げた。
ヴォルデモートはそれに声を上げて笑う。


「しかし、闇の帝王は、その計画の危険分子と会いたいのだろう?」


の赤い唇が円弧を描いた。


「いや、むしろ、興味対象にある、と言った方が適切か?」

「闇祓い相手に、か?」

「半分の闇の印を持った闇祓い、だ。そして、闇の帝王が認めるほどに、彼女には魔法の「素質」がある」


は小さく己の拳を握った。


「闇魔法の「素質」が――」


ヴォルデモートはの言葉を、簡単に肯定した。


「確かに、殺すには惜しい存在だ。あの女は、今の状態では宝の持ち腐れだ。
 どうにか、宝の部分だけを得ることは出来ないものだろうか……そう思わないか、?」

「では、あの女を懐柔する気はもうないと?」

「あの女はムーディに毒され切っている。
 お前は、つい前までを観察していたのだろう?
 その時に、が死喰い人となるような可能性を、少しでも見たと言うのか?」


は記憶を探るように眉間に皺を寄せた。
そして、呟く。


「私は見てはいないが、間者からの情報では、彼女は死喰い人になることを恐れているらしい。
 恐れている、ということは――」

「――可能性がある、ということか」


ヴォルデモートは赤い瞳を細めた。



























2008/9/13






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