夏の気配を帯びた和やかな風が吹き抜ける。
とある魔法使いの集落の共同墓地だった。
人の姿は、他になかった。
空は突き抜けるほどに真っ青で、木々は溶けるほどに緑色の葉を茂らせ、キラキラと光っていた。
終章/石の墓
彼の奥方の墓の場所をどうにか突き止めようとしたが、とうとうそれが見つかることはなかった。
アズカバンの囚人は、死亡するとアズカバンの周りの墓地へ、吸魂鬼によって埋められる。
一人一人の墓碑もなく、ただゴミを埋めるように埋葬されるのだ。
だから、バーテミウス・クラウチは、ただ一人で集落の共同墓地に埋められた。
彼の葬儀は、身内だけで小さく行われた。
たちが彼の墓を訪れたのは、葬儀の数週間後だった。
供えられている花もなく、ただ石の真新しい墓碑が建てられていた。
は、持ってきた花束を捧げた。
花言葉なんて、分からない。
ただ、花屋で墓に捧げるためのものを準備して欲しいと言って、こしらえたものだ。
それでも、花束は墓に鮮やかな色彩と香りを与えた。
は墓の前で腰を下ろし、目を瞑った。
――私は、貴方の疫病神でしかなかったわ――。
貴方の愛していた息子を捕らえ、貴方に政治的に失墜をさせてしまった。
そのせいで、貴方の奥方を殺してしまった。
つい前の貴方の必死の呼びかけにも、気づくことが出来なかった。
我ながら、最悪だと思う。
とんでもないかつての部下だ。
しかし、貴方は私を見限ることはなかった。
元々、貴方が私のことを雇ってくれたのだ。
魔法法執行部の部長であった彼が、私のことを闇祓いとして雇ってくれなければ、今の私はここにいない。
――それらに対して、私は貴方に少しでも何かをすることが出来たでしょうか?
最期の時、バーティは、自分はとんでもないことをしたと、口走っていたらしい。
錯乱した状態で、そのことだけを必死でハリーへ伝えたと聞いた。
ヴォルデモートの服従の呪文の支配から離れ、正気を失った状態で、ダンブルドアへ警告を与えにホグワーツまでやって来たのだ。
だから、せめて。
「果敢に戦った貴方の意思を引き継ぐわ、バーティ」
言った途端に、その言葉の重さに胸が苦しくなった。
とても私が担うには重過ぎるけれど。
は咄嗟に小声で付け足した。
ただ、目を瞑って祈った。
神なんているとは信じていないから、彼に犯した罪の深さを白状し、バーティの魂の平穏を願った。
そして、彼が愛した者たちの安らかな眠りを祈る……しかし、彼の息子については、は心の中で暗雲が立ち込めた。
は手を握り締める。
頭の中で、屋敷しもべ妖精の嘆いている姿が回る。
しもべ妖精の涙がの胸を濡らす。
こうして胸を揺らすだなんて、しもべ妖精のあの姿を見るまで、考えられないことだった。
バーティは、彼の息子を愛していた。
……は、ほんの僅かにだけ、クラウチJr.の安らかな眠りを祈った。
その後、胸の中に確かに沸き立つ確執を、何とか押し込めた。
最後に、かつての直属の上司の墓の前で、は深く頭を下げた。
頭を上げ、は墓に背を向けて歩き出す。
その先には、二人の闇祓いの姿があった。
「。もう良いの?」
「ええ」
トンクスは小さく首を傾げる。
「まだ大丈夫だよ?」
「大丈夫よ、トンクス。もうお別れは言ってきたから」
があまりにも長く墓の前で跪いていたので、他の者は先にその場を立ち去っていた。
「ずっと墓の前にいることは出来ないわ」
「では、行くか?」
「ええ」
三人の闇祓いは、一斉に姿を晦ませた。
キングズリーは最後に、再度小さく黙祷を捧げてから、姿を晦ませた。
そこには誰もいなくなった。
人が消えた墓に、蝶が寄って来た。
蝶は真新しい花束にとまり、蜜を吸い出した。
To be continued...
2009/3/23
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