西洋で異形の能力を持った者が集団を形成したと同様、東洋でも異形の能力を持った者は集団を形成していた。
西洋では杖を用いてその力を制御する。
しかし、東洋ではそうではない。
能力を持つ者たちは、地域によってその能力の扱い方が異なっていた。
それも、東洋の端、日本ではそれは特異な形で発展していた。
その形態は時間に従って変化していっていた。
異形の能力を持つ者たちの機関が出来たのははるか昔、平安時代だ。
その時、ちまたには陰陽寮の存在とは別に、民間で影で巫覡として動く者たちが存在していた。
しかし、明治時代に陰陽道が弾圧され始めてから、両勢力は歴史の表舞台から姿を消した。
それは、西洋でキリスト教が魔女を弾圧し、彼らが姿を潜めたのと同様だった。
そして近年。
異形の能力を持たない者たちが西洋の風を受け、それに染まったのと同様、彼らもやっと西洋化の風を受け始めていた。
外国の魔法省から幾度となく呼びかけを受けていたのだ。
両勢力は過去のいさかいを水に流し、力を合わせて日本魔法省という組織を形成した。
序章/西洋と東洋の混血児
その女は、陰陽寮の家の血を引いていた。
引いていたといっても、それから千年も経っているので、その派は激しく分化している。
女が家督を務める家は、仙家といった。
女の目は欧州にあった。
欧州から色々なものが入り込んでくる今、一番の新しいものは欧州にある、と。
そこで一際彼女の目を惹き付けたのは、ヴォルデモート卿と名乗る魔法使いだった。
彼の掲げる純血思想は、彼女の思想ととても似ていた。
いたく感銘を受けた女は、英国へ赴き、ヴォルデモート卿と対面する。
ヴォルデモート卿もこの風変わりな女を気に入ったようで、女は英国に入り浸り、その地域での魔法を訓練し始めるようになった。
元々陰陽道の術も達者だった彼女は、すぐに杖を用いた魔法を会得した。
そこで彼女は運命の人に巡り合う。
ふとした拍子に巡り合った純血の英国人だった。
二人は周りの反対を振り切り、婚姻を交わした。
その男が三男だったことが幸いし、不承不承にも彼の家は男が女の家の養子になることを事実上認めていた。
夫婦は一人の子を産んだ。
母と同じ黒髪と黒い目をした、女の子だ。
その顔には日本よりも英国の色が多く浮かんでおり、可愛らしい顔をした赤子だった。
ユリアと名付けられたその赤子は、広い屋敷の中でのびのびと育っていった。
ジャリジャリと小石を踏み、まだ歩くのも覚束ない幼児は嬉々として庭をよたよたと歩いていた。
足元には下駄を履いている。
母は、それを床机に座りながら見守っている。
ふいにユリアは短い足を曲げ、地面の砂利を掴んだ。
そのまま歩いて行って、手の平を庭の際に生えていた木に向かって勢いよく開き、砂利を木に投げつけた。
「こら!」
母は床机から下り、ユリアの元へ歩いて行く。
ただの幼児の戯れだと思った。
しかしその途中、目の前に広がった光景に目を見開いた。
今の季節は肌寒い秋だった。
そうであるのに、目の前の桜の木についている花が一斉に咲き始めたのだ。
目の前に桜色が広がる。
花びらがはらりと目の前に落ちた。
ユリアは地面に座り、手を叩いて、それを楽しそうに眺めていた。
……そういえば、この前、花咲爺の絵本を読んであげたっけ。
母はユリアを抱き上げる。
そして一緒に満開の桜を眺めた。
「随分と粋な子ね。……初めて能力を見せるのが、こんな形だなんて」
「ママ?」
舌足らずに少ない語彙の中で喋る我が子の頭を、母は撫でた。
「きっと、いい魔法使いになるわ。ユリア」
もっとも、自分と彼の娘が魔力を持たないわけがない。
優秀な魔法使いになる素質がこの子にはある。
母は、帰ってきた夫がこの桜を見て何と言うのか、楽しみで堪らなかった。
2009/1/21
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