日刊預言者新聞を読む。
その年齢の割には大人びた、澄ました動作だった。
規則的に揺れる床。
寒々しい光景が窓を閉めている。
その船の斜面は、黒色だった。
02/黒い船に乗って
アラスター・ムーディ。
紙面でよく見る名前だった。
その名前を幽霊に問いかけたところ、幽霊は同僚であったと嬉しそうに言った。
そして、彼がよくできる奴だったと、また嬉々として話す。
この幽霊がこんなに嬉しそうにしているのは、それが初めてだった。
その後、ユリアは幽霊からたくさんの話を聞いた。
これからユリアが行く学校は、闇の魔術に染められているということ。
それにあまり心酔してはいけないということ。
その理由は、それがあまりに行き過ぎると、人間の道理に反する道を辿ることになるからだ、と幽霊は言った。
ユリアは参考程度にその話を聞いていた。
まだ未知のその世界について、そのようなことを言われても、ピンとこないのだ。
それから、幽霊が何度となく繰り返し言っていたのが、あまり闇の勢力と関わるようなことをするな、ということ。
両親が死喰い人である地点でそれは不可能だと思ったが、ユリアは頷いておいた。
そうしないと、早く彼らに加わってしまう可能性があり、人を殺さなければならない時が早く来る、と幽霊に脅されたからだ。
ユリアは、母から教わったことに忠実だった。
誰にも等しく振舞わなければならないこと。
差別をしてはならないこと。
だから、ユリアは幽霊の言っていたことを半分信じたと同時に、半分疑っていた。
魔力がないからと人を差別し、更にその人たちを殺しているだなんて。
人を殺す――。
そのことを考える度、ユリアの小さな胸はきゅっと痛んだ。
昔、すっかり忘れて籠の中に放っておいた小鳥が力なく倒れていた光景が、胸に広がる。
その時も母に戒められた。
ちゃんと世話をしなかった報いだと。
しかし、それ以上にユリアは、自分のせいでこの小鳥はこんなに冷たく固くなってしまったのだ、という思いが激しく胸に渦巻いていた。
私のせいで、柔らかく暖かかった身体がこんな抜け殻のようなものに変化してしまったのだと。
それを両親が――。
ユリアは嫌な考えを胸から振り払うように、ぎゅっと目を瞑った。
現実は残酷なものだった。
しかし同時に、生ぬるいものでもあった。
英国の魔女の幽霊により、その学校の別の見方を知っていたユリアは、その中にうまく溶け込むことが出来なかった。
ほとんどの生徒が死喰い人に関わる者、または、純血思想を支援している者だった。
また、その中でユリアは特別扱いをされていた。
父親の有名な家名と、その本人の魔力の程度からだ。
学校に入ってきた時点で、ユリアの魔力は上級生に匹敵していた。
コントロールは未熟であったが、その力の大きさはたちまち全生徒に知られるようになる。
それに増して、ヴォルデモート卿の裏づけがあるとすると……。
ユリアの周りには、光に蛾が集まるかのように、上級下級関係なく生徒が集まってきていた。
日本という土地から抜け、ありありと目の前に欧州での現実の出来事が広がった。
肌で触れ、実感するにつれ、ユリアは幽霊の言うことが一番的を得ていると考えるようになってきていた。
その思いは、時が過ぎる度にどんどん大きくなっていっていた。
何にしろ、目の前に現実にあるのが、死喰い人が今日何人マグルを殺したという新聞だったのだ。
それを見る度、ユリアはかつて幽霊と話したことを思い出し、気持ちが悪くなった。
あの幽霊は新聞に書かれていることの通りに、死喰い人に殺されたのだ。
殺す。
死ぬ。
そのようなことは、あまり身の回りで感じ取ることが出来なかった。
しかし、ただ、その行為のことをあまり知らないままに、それに嫌悪感を抱き始めていた。
――昔に殺してしまった小鳥の亡骸が、目に浮かぶ。
2009/1/21
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