03/闇の中に














何故か、幽霊はずっと日本の家にいた。
一年が終わって最初に帰ってきた時、そこに変わらず幽霊がいるのに、ユリアは仰天した。

しかしそれは毎度の変わらないこととなり、ユリアは三年が終わって帰って来た時の第一声は。


「考えられない。あんなこと言うなんて!」

「どんなことだ?」

「毎度の純血思想は別に良いとして、あの教授、まるで闇の魔術に恋してるみたいに真っ黒も真っ黒な気持ち悪いほどの闇の魔術のことを話すのよ?」


そして、ぽつりと、自分ではそんな魔法使えないくせに、と言った。


「……君は、使えるのか?」

「あの人よりかは未来があると思う」


そして目線を下に落としてから、目線を強く上げた。
まっすぐに幽霊の目を捉える。


「――ねえ、私、闇の魔術の素質があるみたい」

「それはそうだろう。父親と母親を見てみろ」

「違うの。それが、他と比べて半端がないくらい素質があるみたいなの」

「そうか」


表情を変えない幽霊に、ユリアは少し顔を歪ませる。
何か反応をしてくれたって良いのに。


「……それでね。ずっと前、貴方が言った言葉を思い出したの」


ユリアは言い難そうに言葉を濁らせた。


「大切なのは……選択だって」

「よくそんな言葉をずっと覚えていたな」

「うん。だって、その言葉を……信じていたいから」

「信じていたい? 信じていられなくなるだろう未来が見えているのか?」


ユリアは頷いた。
先ほどの自信たっぷりの様子が嘘のようだった。

幽霊は息を吐き、顎を撫でた。


「闇に惹かれているのか?」

「惹かれては……ないと、思う」

「それでは大丈夫だ」

「本当に?」

「ああ」

「本当なの?」


懇願するようなユリアの顔に、幽霊は溜息を吐く。
どうやら、素質のある自分が恐ろしいらしい。
このまま、闇の魔法に取り込まれてしまい、人へ死の呪文を唱える存在になるのが、怖いらしい。


「正しい選択をすれば、大丈夫だ」

「……私には、正しいも間違っているも分かんない」

「さっき己で選択をしていたじゃないか。闇に入り込むのが怖いんだろう?」

「でも――」


ユリアは言葉を切った。
そして、思いを振り払うかのように、幽霊へ言う。


「貴方は、私を闇の勢力へ加わらせないために、ここに来たのよね?」

「……いきなり、なんだ」

「だから、私は貴方に示されるままにしたら良いのよね?」


幽霊は、頼るものがなくなったらしいユリアを目前に見た。
ただ一つ、信じられるものが、この儚い霊体だという……なんと危なかしいことだろう。

確かに、ユリアが言っていることは、幽霊にとって有り難いことだった。
しかし、それは単に洗脳と呼ぶ。
目の前には、小さな身体をしている少女がいるのだ。


「それでは、ヴォルデモートから逃れることは出来ないな」


幽霊は続ける。


「そんな考えでは、何も出来ない。少し頭を冷やしてきた方が良い」

「……うん」


――死喰い人に誰よりも染まっている身体が怖い。
ただ、その思いを幽霊に吐き出したかった自分がここにいる。
浅ましい。

幽霊は己の素質と葛藤しているユリアを見下ろした。
彼女はまだまだ、若い。


「大丈夫だ。恐らく、まだ、時間はある。私が以前言った言葉は……」

「忘れてない」


即答と同時、強い瞳が幽霊に向けられた。


「私は――死喰い人にはならない――」


ユリアは、自分に言い聞かせるように言った。


「人を殺したくはないから」


幽霊は、何も言いはしなかった。















その後、ブラック家の長男が家を出て行ったという噂を聞いた。
とても羨ましかった。
闇に重く覆われたここから出て、自由の中に生きたいとさえ思った。

しかし現実は、それには敵わない。
上級生になると、両親から腕に闇の印をつけないかと言われた。
それまでも、両親がたまに見せる闇の勢力との関わりを見てきたが、そこで明白にその関わりが露呈された。

途端に、ユリアの胸に親を欺いているという罪悪感が満ちた。
しかし、ユリアは即座に闇の印をつけられることを拒否した。
まだ学生の身分だからと。
両親も、まだユリアにこれは早いと思っていたらしく、満足げに頷いていた。

また、その数年の間にルシウス・マルフォイという男とも無理やりに許婚にされてしまった。
母は、そうして家の勢力を大きくしようとしているらしい。


目の前に、大きな両親との確執が広がっていた。
それはユリアの胸をとても苦しくさせた。
しかし、その時、胸に広がるのは、あの部屋に住み込んでいる幽霊の存在と、人を殺したくはないという思いだった。



























2009/1/21






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