終章/半分の闇の印
目の前に、日本とは異なった風情の町並みがある。
ここは英国だった。
ユリアは胸を押さえる。
今まであのヴォルデモートが目の前にいたのだ。
それに、大陸を越える姿晦ましは初めてで、成功したのさえ奇跡的だった。
しかしその分、体力も魔力も消費されたようだった。
辺りには、みすぼらしい蔦の絡まった小さな建物が並んでいる。
ユリアは、その道を人目をはばかることなく走っていた。
マグルの道に、マントが広がる。
――ヴォルデモートが追ってくるかもしれないのだ。
ユリアは突然左腕に走った刺激に、足を止めた。
咄嗟に左腕を捲り上げる。
半分だけの闇の印がそこにあった。
半分の闇の印は、もう半分を欲しがっているかのようにうねっていた。
蛇の身体は途中で途切れ、髑髏には歯が欠け、頭蓋骨の半分が存在していなかった。
周りの皮膚は爛れている。
ユリアは自分の腕に施された刺青に、目を見開く。
分かっていたはずなのに、その存在の不気味さに胸がよじれた。
これが私の腕にずっと刻み込まれるだなんて……。
半分の闇の印は、もう半分を望み、熱を放っていた。
ユリアはそこを手で掴みながら、また駆け出す。
感傷に耽っている場合ではないのだ。
ユリアは足を速めた。
周りの光景が、速く通り過ぎていく。
ブーツの立てる音だけが響いている。
ある所まで来ると、ユリアは足を止めた。
そして右手で杖を持ち、左手で髪を束ねた。
杖を髪に当て、勢いよく横へ動かした。
黒くて長い髪の束が、ユリアの左手に残った。
切り離された髪は、ユリアの肩の上で風に流され軽く舞う。
肩に届くか届かないかの短髪だった。
ユリアが左手を空に上げると、その束は消滅した。
マントの中から紐を取り出し、短くなった髪をくくった。
まとまらない髪の毛が頬に落ちてくる。
生まれて初めての感覚であったが、ユリアは急いでまた足を進め始める。
赤い、みすぼらしい電話ボックスが目の前に現れた。
ボックスのガラスは所々がなくなり、壁面は落書きだらけだった。
ユリアは迷うことなくその中に入った。
目の前の電話機の受話器を取り、ダイヤルを回す。
あそこへ行くための道順も手順も完全に頭に入れていたのだ。
四回ほどダイヤルを回し、受話器を耳に当てた。
すぐに言葉が聞こえてくる。
「魔法省へようこそ。お名前とご用件をおっしゃって下さい」
ユリアは目を伏せ、深く息を吸った。
落ち着いた目をじっと見据えた。
「闇祓いの試験を受けに来ました。・です」
「ありがとうございます」
ボックスが揺れたかと思うと、地面がせり上がってきた。
英国魔法省は地下にある。
完全に外からの光と断絶され、ガラスの外には黒い地面があった。
はボックスの真ん中に立ち、落ち着いた顔でその様子を眺めている。
2009/1/21
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