09/せめて最後だけでも












「それで、結局のことが好きなんですか?」


大捕り物のために物陰に隠れている中、彼から放たれた場にそぐわない言葉に、キングズリーは明白に不快を見せた。


「それは、今話すべきことか?」

「だって、キングズリーさんと話す機会、今まで全然なかったんですよ」


ずっと前から計画していた仕事に取り組む姿勢としては不謹慎な、ウィルの態度。
彼は神経を張り詰めているわけでもなく、その場にただ座り込んでいる。
それどころか、ふいに笑顔を見せ出した。


「あんたが、俺のことをずっと睨んでることは気付いてたけど」

「……なるほど」


キングズリーは杖を手に持ったまま、ウィルへ目を向けた。
神経をゆるめる気はないらしい。


「嫉妬ですか?」

「ウィル。それはどういう意味での嫉妬だ?」

に好意を持っているという意味での」


と違い、キングズリーはここでさらにボケるほど鈍感ではない。
僅かに眉を寄せた後に、ゆったりと口を開けた。


「それはないな」

「じゃあ、どうして俺のことを睨んでたんですか?」

「彼女は友人だ。彼女のことを心配して何が悪い?」

「つまり、俺のことを不穏に思っていたと?」


本人の口から放たれた明確な答えを、キングズリーは屈託なく肯定する。


「その通りだ」

「……まあそれは良いとして、キングズリーさん、少しくらいのこと気になってはいませんでしたか?」

「それにもしイエスと答えたとしよう。それで、生まれるものは何もないだろう」

「生まれるものは何もなくても、俺はただ単にキングズリーさんがのことをどう思っているのか知りたい」


キングズリーは、隣にいる恐らくもうが好意を持っているのだろう男を、胡散臭げに見た。
彼の思惑が分からない。
彼は、大抵の場合、いつも屈託のない笑顔を振りまいている。
それが不気味なのだ。


「彼女のことは妹のように思っている」

「本当に?」

「ああ」


彼にしては珍しく、面倒臭そうに乱雑な言葉を吐いた。
ウィルはそんなキングズリーの様子を眺めている。


「じゃあ、が俺のことを気に入ったとしたら、キングズリーさんは異を唱えることはないってことですよね」

「……その通りだ」


キングズリーは深い声色で、自分の杖を見つめながら言った。
ウィルは、うんともすんとも言わない生真面目な男を目の前に、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。


「じゃ、は俺がもらっていきますよ」

「君が「もらう」という表現はおかしい。は誰の所有物でもない」

「ああ、すみません。じゃあ、彼女を恋人にさせてもらいます」


ウィルはそれだけ言うと、杖を取り出した。
手の中でくるくると回し、ぎゅっと握り込む。

キングズリーはウィルへ振り向き、その様子を確認すると、また視線を元に戻した。
彼の表情はいつもと変わらなかった。















目の前で多数の光線が交差し、地面に敵味方関係なく多くの者が伏せている。
ヴォルデモートが凋落してから、最も大きな戦闘が繰り広げられていた。
地面に倒れている者を踏みそうになりながらも、目を凝らして光線を避け、敵へそれを放つ。

いつも大抵はムーディと組んでいただったが、戦闘の過程でバラバラになっていた。
複数人を相手にとっての戦闘は、神経を激しく酷使する。
少し気がゆるんだのか、不覚を取られたのか、そのことの判断さえ出来なかったが、目の前で鋭い閃光が胸に当たった。

は少しの間まだ戦闘を続けていたが、何とか隙を見い出して、建物の壁の方へ身を低くして歩いて行く。
しかし、胸の皮膚の痛みを感じてからはその場に尻をつき、身体を引き摺るかのように物陰へ身を隠した。

死角をとったことを確認してから、は内心で己について悪態をつきながら、何とか治療をしようと胸へ手を向けた。
ひどい症状は現れてはいないから、まず大丈夫だろうと思った時。


!」


は目線を上げた。
陰になるようにあの魔法使いが立っている。


「……ウィル!? 貴方、何してるのよ? 早く戻りなさ――」


ウィルはの前に座り、マントを脱がし始める。
はひどく眉を寄せる。


「大丈夫だから、戻りなさい!」

「胸に魔法が当たってた」


図星を突かれ、は口をつぐんだ。
彼のような新米にそんなことを言われたら、さまがないのだ。

その間に、ウィルは手早く手を進めていく。
ウィルは魔法の当たった所のローブを裂き、その下のアンダーも裂いて、患部を露出させる。
胸部に呪いの当たった跡がある。
しかし、その上に丁度下着が被さっていた。

が何かを言う前に、ウィルは言葉を吐いた。


「取るよ」

「え……」


ウィルはの背中へと腕を回し、ホックを外した。
緩められた下着は、今にも取られようとしている。
は目の前で起きていることに、とてつもない恥ずかしさとパニックを覚えた。

一瞬で頭に血が上る。


「やっ……やめてっ!」


はウィルの手を振り払って、肌の出ている胸元に手を当て、ウィルから距離を取るように少し後ずさった。
しかし、そうした後に不意に素に戻る。

自分が行ったことの意味を明白の下に思い知って、目を見開いた。
まさか、治療をしようとしてくれた彼の手を振り払うなんて。

目の前に、白けた顔のウィルがいた。
彼とばっちり視線が合った。
とても、気まずい。

ウィルの口調は穏やかだった。


「――。「女を捨てた」発言、撤回しないといけないなあ」


は、ますます自分の胸元の布をぎゅっと握った。
穏やかな目と目を合わせていられず、目を逸らし、地面を見つめる。

ウィルがへ近付き、の胸元に当てている手の上に、また手を被せた。


「男らしさが売り、だっていうのも、撤回しないと」

「……っ」


恥ずかしさと理性で天秤をかけると、明らかに恥ずかしさの方が勝っていた。
それは考えるまでもなかった。
だから、はただただ肌を彼に見せまいと服を握り締め、彼に反論することも出来ない。

答えは、既にこの状況が示していた。

は顔を下に向けてぎゅっと目を瞑り、動くことは出来なかった。
理性と感情との間でがんじがらめになっていたのだ。

動いて何らかの答えを出すことは、とても恐ろしかった。


「――お前たち」


怒りのこもった声が聞こえた。
その声はとても聞き覚えのある響きで、とウィルは同時に顔を上げた。


「いちゃついているのは結構だが、場所と時間をわきまえることを知らんのか?」


ムーディは真っ直ぐにへ足を向けていた。
ウィルは、ムーディの気迫に、自ずから道を空けた。

ムーディはの前に膝を着き、杖を手に取る。
は胸元を守っていた腕を解いた。
治療されている間中、は顔を赤くして、ウィルから視線を逸らすかのように顔を横に背けていた。

ムーディは、あるタイミングでウィルに早く行けとばかりに手でサインする。
ウィルはそれを受け取り、ちらりと二人の様子を窺ってから、戦闘へ戻って行った。

はその時になってやっと顔を上げ、彼の後姿をじっと見た。










*










大きな死喰い人との戦闘があってから数日後、多少は本部内は落ち着いていた。
その日は新月で、夜にはもう本部の中に人は少なかった。
は、いつものようにウィルと何気ない会話をしながら、書類を眺めていた。


は、自分の身体に手がかけられた感覚を得た。
いつかの記憶をふと思い出し、眼下に座っている男へ目を向けた。

二人の会話は止まる。
ウィルは何も言わず椅子から立ち上がって、の髪をかき分け、うなじにキスをした。
は目を見開くことはなかったが、少し困ったようにウィルのことをおずおずと見ている。

その間に、ウィルは手をのローブの下に潜り込ませ始めた。
は一瞬肩を上げたが、その後は頬を赤らめて、何かに耐えているかのように顔を強張らせている。
の身体のすぐ側にウィルの身体があり、ウィルはの肌をゆっくりと撫でながら深く手を潜らせていく。
そして、が抵抗をしないことを確かめた。

背中の肌に触れていた手の平を肩に移動させ、胸の前へ潜らせた。
は変わらず頬を赤らめながら、ただ立ち尽くしているだけだ。
膨らみに触れるか触れないかの所を探り、鎖骨に触れるだけのキスをする。

二人の視線が噛み合い、二人ともそれを逃がそうとしない。
は魅入られたかのようにウィルの目を見ていたかと思うと、はたと視線を逸らす。


ウィルは、視線を逸らしたの唇に、そっと唇を押し当てた。
戸惑ったようなの目が、キスをした後に少し見開き、は少し眉を寄せながらぎゅっと目を閉じた。
ウィルの目を間近に見てしまったのが嫌だったらしい。

は、狂ったように鳴る心臓が、キスをしてから熱く熱くなったことに気づいた。
持て余していた手で、胸元のローブを握る。
ただ唇には血の通った温かい感触がしていた。
それだけなのに、身体に変調が起きているのが不思議だった。

ただ彼の身体がより近くの場所にあるだけなのに。
それだけなのに、何故ここまで私は感情を揺り動かすのだろう。
すぐ側にあるだろう彼の身体を強く感じ、触れられている箇所が熱く敏感になっている。

身体をウィルが支えてくれていた。
背中に腕を回して、の身体を保ってくれている。

その時、何かに唇を開けられた。
は驚いて目を開けると、また間近に彼の顔を見て、またぎゅっと目を瞑る。
さすがにそれが何かは知ってはいたし感じられたが、許容することは難しかった。

歯を容易く割られ、舌を捕らえられる。
そして、無防備な咥内を彼に開け渡していることに気づいた。

は無意識に手を握り、それが彼によって終わるのをひたすらに待とうとした。

身体が自分のものではないようだったのだ。
制御が効かないのだ。
しかし、徐々に感情までも犯され始め、はとろけたような感情を感じ始める。
感覚が唇と口の中だけに集中し、ひどく敏感になっていた。

唇が離れると、は目を開き、ウィルの目を見つめた。
口で息をしながら、は疼いている胸を感じていた。
ウィルの手がまたの肌に触れる。


「ば――場所を変えて」


ここは、いつ誰が入ってきてもおかしくない。
ウィルはの手を引き、歩き出した。
その時のウィルの目がいつもと少し違ったことには少し怖くなったが、連れられるままに歩いて行く。

資料室の扉を開け、その一番奥にある小部屋まで行くと、ウィルはそこの鍵を閉めた。
そうしてから、の不安そうな恐れているような顔に気づき、はっと正気に戻る。


「……。ごめん、勢いで場所を選んだけど、さすがにここは――」

「別に、良いわ」


はそう言うが、埃っぽいここはそうすることに適しているとは言えない。
しかし、の言うことに逆らうことも出来ない気がしたので、ウィルはクッションを数個魔法で出した。

は頬を染めたままそこに立っていた。
しかし、ウィルの言動がいつも通りだということで、少し安心しているようだった。

ちらりとがウィルへ視線をやると、ウィルはの期待に応えてやろうと、いつもの笑みを浮かべてそっとの身体をクッションの上に横たえた。


「で、本当に良いの?」

「駄目って言ったら、貴方は止めるの?」

「……うーん……」

「――安心して。そうとは言わないから」


は自ら真っ赤な顔になって、すねたように顔を背けた。


「本当に?」

「どうしてそんなに疑うの?」

「だって、のことだから、途中で嫌になったから止めろ、とか言いそうで」

「そんなこと言わないわよ!」


ウィルはくすくすと笑って、怒るの髪を撫でる。
は慣れないこの状況に困っていた。
振舞い方が分からないし、これから自分がどうなるのかも分からなくて、怖い。

自分が頼りにした、頼りにしている彼もこんな様子では。

のそんな思惑の中、ウィルは淡々とのマントを外しにかかっていた。
がそれに驚いたようにして気づいた時に、また吹き出す。


「どうしてそこで驚くんだよ……」

「――! もう、良い! 早くしたらどうなのよ!」


また顔を赤くしてすねた様子のの額に、ウィルは唇で触れる。
はかつて彼にこうされたことを思い出した。

の目の前に彼の見慣れた笑った顔が広がる。


「じゃ、落ち着いた? もう嫌なことを思い出さない? 俺のことを拒否する気持ちはない?」


は一つ一つの質問の意味を考える。
そして、一つ頷いた。



























2009/1/18






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