灰色の空には死の髑髏。
陰鬱とした空気の滞積。
人々の鬱蒼とした虚無感。
いつやも殺されるかも知れぬという恐怖。
誰も信じえない恐怖。
埋もれかけるレジスタンス。
時代の変革。
闇の帝王の台頭。
魔法省の完全陥落は間近。
しかし、私は此処に立っている。
序章/Auror
1981年10月30日。
英国魔法省闇祓い本部。
今、樫のピカピカとした扉を開けて闇祓い本部の中へ入って来たのは、少年とも少女とも見える魔法使いだ。
彼、彼女は、小柄なその身体に、その歳に似つかわしくない長い黒いマントを身体にぴったりと身に着けている。
それはまるで何かから身を守っているようだ。
彼、彼女は、くすんだ赤い髪の色をしていた。
まるでウィーズリーのようである。
それを造作なくくくり背中に流している。
淡い緑の目を辺りに見回し、何かに急いでいるように声を上げる。
「フランク! 今連絡が……スピナーズ・エンドに奴らが来る、間もなく――」
「情報筋は?」
「ムーディさん」
彼、彼女の声は少し枯れてガラガラ音を立てていた。
フランク・ロングボトムはその答えに頷き、彼、彼女と似た黒くて長いマントを翻した。
「行くぞ」
彼、彼女は、それに決意を持った顔で従う。
「アラスターは来るのか?」
「分からないわ」
どうやら彼女だったようだ。
「その格好は?」
「前の作戦の。今は解く暇がないし、こっちの方が奴らから恨みを持った目で見られなくて済む」
二人は魔法省の外へ出て、一斉に姿眩ましをした。
フランクが、場所を正確に知っているだろう彼女の手を握る。
次に彼らが現れた場所は、暗い路地だ。
古いアパートの軒並みに遮られ、太陽の光さえか細く弱い。
次の瞬間に、アパートの灰色に煤けた屋根の上に闇の印が現れた。
彼女は少しの間じっと目を瞑り、フランクへ手を伸ばす。
また彼はその手を握った。
次の瞬間、彼らは死喰い人の目前にいた。
不気味な無表情な仮面が並んでいる。
汚れて腐臭を放つ川が背中に流れている。
足元で背の高い草が音を立てた。
目の前に現れた闇祓いに一瞬たじろいだ死喰い人に、フランクは杖を放った。
四人の死喰い人にそれは命中し、彼らは一時動きを止める。
彼女はその間にまた杖を振り、その閃光が確実に一人の死喰い人を仕留めた。
しかし次に、彼女は、やってきた閃光に防御の呪文を唱える。
その場の五人は、激しく動き始めていた。
光る緑色やその他の色の光線が暫しその場を明るくし、ガサガサという草を踏み掻き分ける音がその場を満たす。
死喰い人は自分達がもはや姿晦ましをするのを封じられていることに気付き、それぞれ逃げる機会を窺っていた。
死喰い人の一人が、フランクがニ方向からやってきた呪文を防いでいる間に、逃げ始める。
するともう一人がそれに続いた。
「待ちやがれ、カロー!」
もはや一人の死喰い人の仮面は脱げていた。
太った顔を歪ませて逃げている。
フランクは罵倒を吐き、自身も右頬に血を流しながらそれを追った。
彼女と最後に残った死喰い人は、今もなお杖を振り続けている。
互いに定まった距離を取りながら、互角に見える戦いを繰り広げていた。
その場所は川辺から、徐々に湿った路地の中へ進んで行く。
狭まった路地の中、互いの呪文は建物の壁を傷付けた。
レンガの壁からボロボロと乾燥した土の塊が零れ落ちる。
そして、呪文はお互いの身体を傷付けた。
彼女は憎い思いが募り、口を開けて叫ぶ。
「セブルス・スネイプ!」
声が壁の間に反響する。
目の前の死喰い人は変わらずに杖を振り続ける。
彼女は、暗い路地の中、目を凝らして死喰い人の黒いローブを見つめる。
「今日は何人殺した!?」
「どうして私の名が分かる?」
「あなたの雰囲気はすぐに分かる」
二人は距離を取って、睨み合った。
一時戦闘が止まる。
しかし二人は、なおも睨み合う二尾の蛇のようだった。
お互いに隙を窺っていた。
彼女の黒い肩に、戦闘中にほつれた今日しつらえた赤い髪がのっている。
二人の肩は上下しているが、お互いに呼吸の音を晒さない。
一瞬セブルスが早かった。
彼女は左腕を切り裂かれる。
しかし、彼女はその間に逃げようとするセブルスに向かって駆け出し、物理的に彼のフードを剥ぎ取った。
そしてそのまま地面へ引き倒す。
細いセブルスの身体は、簡単に地面へ落ちた。
思いもよらなかった物理的な手段にセブルスは狼狽する。
セブルスは、杖を彼女の胸に向ける。
彼女はそれを防ぐ格好をしたが、それがそう思った瞬間にされなかったので、己の杖を振ろうとした。
しかしセブルスは思い出したかのように杖を振り、彼女の杖は吹き飛んだ。
そして、そのままセブルスは身を起こし、立ったまま彼女の腕を拘束して、杖を首に当てた。
「動くな」
彼女は横目でそう言うセブルスを見る。
「嫌」
セブルスの身体的能力の欠如に気付いていた彼女は、瞬間に手を振り払い、彼の鳩尾へ深く蹴りを入れた。
自分も体格では恵まれているとは言えないが、コツさえ掴んでいればこんなことは容易い。
そして死喰い人の仮面を取り去る。
肩に届くか届かないの黒い髪と、暗い目が現れた。
彼女は死喰い人の杖を奪って、今度は彼女が彼の腕を拘束して彼の首に杖を当てる。
「殺すわよ」
前に、動いたら、という言葉が欠如している。
セブルスはそれにならって動かなかった。
内心、こんな戦い方をする奴に初めて出会った、と思いながら。
セブルスは、横目に彼女の赤い髪を見る。
お互いに神経を張り巡らせる。
片方はどうにか逃げ出そうと、片方は相手に動く気配がないかと。
無駄な動きをした方が、やられる。
彼女は腕の中にいるセブルスが動いたのを感じ、セブルスが動くより早く魔法を放つ。
しかし、魔法を放った瞬間、何かがこっちへ跳ね返ってくるのを感じた。
それに危機を感じるも、今更それを防ぐ手立ては彼女に立てられなかった。
2008/8/20
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