目の前にあるものは黒いマント。
欠けたレンガの壁。
弱い太陽光が、死喰い人の髪に薄いコントラストを作っていた。
01/Death Eater
彼女は、彼女が握っていた死喰い人の杖から、魔法の逆噴射にあった。
彼女はその場に座り込み、細く息をして死喰い人を見上げる。
身体が動かない。
セブルスは自身の杖を彼女の手から奪い、確かめるかのようにそれを撫でた。
そして拘束されていた腕も撫でる。
にやりとした笑いを浮かべ、セブルスは言う。
「ご察知の通り、服従の呪文の応用だ」
「あなたは自分の杖にこれを?」
「我輩が作った呪文だ。解けないだろう?」
自分の杖に、他の人がこの杖を行使したら、呪いをかける魔法だなんて。
なんて高度で難解な魔法だ……聞いたことがない。
彼女は、自分の口がきけることに気付いた。
死喰い人は、口は自由にしているのだろう。
「名を名乗れ」
彼女は襲ってくる衝撃に耐える。
服従の呪文だ。
頭の中で死喰い人の言葉が木霊する。
しかし、このような訓練は以前に受けており、これに耐えることは酷い苦痛ではなかった。
セブルスは慣れている彼女の様子を見て、彼女がやはり闇祓いであると考える。
こんな闇祓いはいただろうか?
……少し暗い赤色の髪に、緑の目――いや、彼らは簡単に身体的特徴を変えることが出来る。
死喰い人は、彼女の目をじっと見つめた。
「名を名乗れ」
セブルス・スネイプ、開心術と閉心術の使い手だ。
彼女は、それに対しては、禁呪ほどに抵抗をつけてはいなかった。
彼女は必死で目を逸らそうとするが、身体がそうとは動いてくれない。
瞬きすらできない。
その黒い目を真っ向に受け入れる……胸がざわめき立った。
脳みそが揺らぐ。
いけない。
このままでは。
直感的にそう感じ取った彼女は、急いで自分の名を呟く。
「・……」
「・?」
セブルスは腕を組み、眼下の人物を見つめる。
闇祓いである。
暫し見つめた後、呟く。
「ムーディはどうした?」
「……それがあなたに何の関係が?」
セブルスはそれきりその質問を止めた。
その代わり、セブルスは杖を取って彼女へ向ける。
彼女は半ば睨み付けるように杖先を見る。
セブルスの呪文は、彼女が思っていたものより物騒なものではなかった。
彼女の髪が、目が、黒色へ変化していく。
髪の房の先まで黒色に染まり、セブルスは何故か肩を落とし安堵したかのように見えた。
はそれに疑問を抱くが、そのわけを聞くことが出来ることもなく。
「なるほど。噂に違わぬ容姿だ。女に見えん」
「まあね」
は生意気に言う。
しかし、セブルスは、なおも言葉を止めようとしない。
「こんなにがさつな女に初めて出会った」
「そりゃあ、皆さん杖の振り合いだけで済ますでしょうから」
セブルスはこれ見よがしに鳩尾を擦る。
そしてチラリとを覗き見るが、即座にから嫌悪のこもった視線が返された。
そしてセブルスはじっと、見つめられる。
自分と似た黒い目で……彼女は開心術をされる、という危機意識はないのだろうか?
「遊んでから、拷問をしようってわけ?」
「お前は早く拷問をして欲しいのか」
「別に。私はただ、逃げる隙を窺ってるだけ」
それを言葉に出すか?
目の前の不可思議な女を見下ろし、セブルスは難解な思考に囚われる。
しかしなおも、は挑戦的にセブルスを見上げている。
視線が、痛い。
「どうしてそんなに見上げる?」
「嫌なの? 駄目なの?」
「逃げたいのならば、周りへ関心を払え」
「私は貴方に関心を払う方が大事だと思う」
セブルスは言っているへ視線を下げた。
すると……。
「髪と目はどうした?」
「かなり強く魔法をかけていたから……」
の髪は赤に、目は緑になっていた。
そうなるともうまるで別人だ。
セブルスはそれから視線を逸らす。
は不思議に思う。
若いは、口を出さずにはいられなかった。
「見ないの? 見て欲しくないの? 一体何なの、貴方? こっちを見ないと拷問もできないわよ?」
「だからお前は拷問をして欲しいのか?」
「そういう趣味はないけど」
「良いだろう、望むのならば――」
セブルスは杖をへ向けた。
魔法は不安定で、またの髪は黒く霞み、目の色も色彩を失い始めている。
はじっとそれを見据えた。
「闇祓いが次に予定している対死喰い人の計画は?」
心に何かが進入してくる。
は息を強く吸って、一時それを留めた。
「日時、場所、人員、計画の概要を答えろ」
セブルスは心の侵入を一時留められたのが分かり、少し眉を顰める。
服従の呪文を強めた。
しかし眼下の人物は、動じない。
それでは開心術を強めようとセブルスがした時、は反対にまた強くセブルスを見据えた。
馬鹿なことを。
それで何かが防げるのだとでも、思っているのだろうか?
心に進入する。
無関心に関係のない記憶を通り過ぎ、目当てのものを探る。
しかし次の瞬間。
パチン、と夢から覚めたように現実へ連れ戻された。
「貴方、やっぱり遊んでいるのね?」
目の前には怒った女の姿。
「こういう類の魔法は、本気でやらなければ抵抗は容易い」
またの目に緑色のものが差す。
情報を探ろうとした服従の呪文が、弾き飛ばされた。
杖から逆噴射された呪文はまだ効用しているようで、はまだ動くことができないようだったが。
開心術に気を取られ、服従の呪文が疎かになっていたようだ。
「それに、拷問には磔の呪文が定番だわ」
そう言って唇の端を上げて微笑むの姿は、また完全に彼女本来のものではなくなっていた。
状況にも関わらず、はまた強くセブルスを見上げる。
「……そうか、磔の呪文がお好みだったか。それはすまないことをした」
「だからそういう趣味はないんだけれど」
は不穏に思っていた。
やはり、向こうからの明確な殺意や敵意は感じることができない。
……私のことを、そのような対象だとは考えられていないのだろうか。
ムーディの付属物か?
または、女に見えないがさつで凶暴な未知生物か?
いや、ただ単に弄ばれているだけか?
ああ、ルシウス・マルフォイと一緒だ。
しかし理性がこう言う。
時間稼ぎができるのなら、好都合じゃないか――。
冷静になれ。
どうにかして術を解かなければ。
そう心の中で念じながら、心の中では呪文を唱え続けていた。
2008/8/20
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