03/闇














二つの黒い影が、傍から見ると仲が良さげに其処にあった。

その部屋は程々には整理はしてあり、たまに羊皮紙の束が積み上がっているものの、それもたかが知れている。
しかし本が多かった。
本棚が並び、恐らく此処以外の部屋にもそれは沢山あるのだろう。

それにしてもこの部屋にいると、ホルマリン漬けがじっとこっちを見ているのが気になる。
興味本位でちらりちらりと本の内容を見てみると、中々自分の趣味と合いそうな物もなくはないのだが、はするりと視線を逃がす。

視線を逃がすと、其処には整理されたピカピカの実験器具類が並べられた棚がある。
その隣には様々な薬品が瓶詰めにして置いてある。


部屋は奇妙な匂いが漂い、肌寒い。
場所柄というのもあるだろうが、薬品を貯蔵するにはこの程度の気温と湿度が丁度良いのは知っている。
カラリと乾燥している。

匂いは、薬草や薬品の混じった雑多な匂い、それに目の前の液体の匂いが混じっている。

特に気分が悪い匂いではない――が、趣味が良いとは言えない。


目の前の脱狼薬に目を遣りながら、はそれを懸命に掻き混ぜていた。
場所はあれだけ嫌っていた、魔法薬学教授の研究室だ。

此処の教師と、名目上でもなったのならば、その一番高い立場にいる「校長先生」の命令に抗う事は出来ない。
私だって、好きでこんな所にいる訳じゃない。

部屋に聞こえるのは、ただ羽ペンのカリカリという音と、自分が掻き回している大鍋の中の液体の混ざる音だけだ。
あの男は暢気に何かの書き物をしているようで、それがまた癪に障る。
……確かに、今の工程は重要な所じゃないけれど……それでも、物凄く癪に障るのだ。



は頃合を見計らい、隣の小さな、薬の染みのついた机からムカデの黒光りのする頭を掴む。

そして其処に置いてある羊皮紙に書かれている内容を見て、確認する。
液体の表面に小さな気泡が現れているのを見てから、鍋に投入した。


ボ……


音を立て、脱狼薬は泥のような茶色から、マーブル色になり、そして緑色で落ち着いた。

深い緑色をして、燃え尽きたような、炭っぽい異臭が鼻を衝く。
これを飲む人に同情する。

トリカブト系脱狼薬を、現時点で精製出来る魔法使いは限られているだろう。
トリカブトという猛毒を扱う以上、滅多な事は許されないのもその理由だが、こういうものにはやはりセンスというものがいる。

それがあの教授にある、と思うと気分が良くはならないのだが、とにかく私も前座の基本の作業のみをしているだけだ。
これは私の専門じゃない。
あえて薬学で専門を言うのならば、毒薬、解毒薬、又は姿変化に関わるものか。

脱狼薬を求める人が来るまでの試験的な精製ではあるが、やはりこれを作るのを手伝う以上、失敗を出来ないのは事実だ。

は脱狼薬をじっと見つめ、それが深緑から、真っ黒な墨のような色に変化するのを見届ける。

ふうと息を吐いた。
これが終われば後は、楽なものだ。



はやっと、部屋にいる男へ視線を動かした。
背中からでも、その腕が書き物をしているのが分かる。

私にこれを今全て委任している以上、それなりに信用されているのだろうか……?
……まあ職業上、基準以上のスキルを求められるのは普通か。
それに鬱陶しくなくて丁度良い。

やる事をやっていれば、そんなに個人的に関わる事はないのだ。

するべき事をしていればこの男も文句を言って来ないだろうし、必要最小限の会話で済む。

は自分の中で、そういう理論に達していた。

それはしかと自分の中にあるのだが、どうしても、一つだけ、には気になる事があった。
消化不良を起こしそうだから、初めては問い掛ける。


「このホルマリン、生徒に怖がられないの?」


はホルマリンに取り囲まれていた。

年頃の少女には、これはかなりの恐怖であると思う。
その他の生徒であっても、気持ち良くはない筈だ。

自分をじっと見つめている蛙達の虚ろな生気のない瞳を、はじっと見つめて言った。
何と返ってくる?


「お前には関係ないだろう」


混じりっ気ない親切心から生まれた言葉をこの様に返され、はその言葉を、細い目で見送った。

その後、数時間、この部屋で言葉が交わされる事はなかった。
その理由の一つには、が思った以上に脱狼薬を作る事が、楽しくなってきた事もある。















はたと意識をまっとうに浮上させると、目の前にはここまで完璧な仕上がりだと自負する脱狼薬が、くつくつと煮えていた。
は自分がこれに没頭していた事に気付いて、時計を探す。

埃の被ったかろうじで壁に掛かっている大きな壁時計を発見して、は固まった。

……うわあ、もうそろそろ明日だ……

夕方過ぎからこれを始めた筈なのに。
は頭を掻いて、同じ時間じっと作業に没頭していたらしい教授を見遣ると、彼は前に話し掛けた時と体勢が全く変わっていなかった。

気付けばお腹が軽く、空腹感がある。

屋敷しもべ妖精も夕食を運んで来てくれる位、してくれたら良いのに。
でも仕方がないか、と納得して、認めたくはないが、どうやら自分と同じ人種らしい教授に帰りの言葉を掛けようとする。

もう十分以上に務めを果たしたと思う。



その時だった。



今まで沈黙していた部屋で、様々な雑音が起きた。

羊皮紙が落ちる、その場に合わない柔らかな音。
椅子から立ち上がる、鈍い音。

雑音の合間に、人間の微かな呻き声が。


は黒いマントの中、腕と身体を、骨が折れるかと思う程抱え込み、爪が白さを通り越し赤くなるまで手の平を握っていた。
身体は、かろうじで立っている。

こんなに激しいものは十数年以来だ。

は熱いとも冷たいとも分からない、身体に焼き付く刺激に脳がチカチカと麻痺しているのを感じる。


喉が詰まって、そのくぐもった音が外に放たれる。

目には、自分の黒い身体だけが無感情に映る。

大きな動悸を酷く感じる。

は何とか冷静に規則的に呼吸をしようと試みる。
昔は何ともなしにそれを受け入れていた、しかし今はどうしても辛くて呼吸が荒くなる。

薄れていく空白の時間は怖い。

どうやってこれに対応していたのか、身体が忘れていて、それが今埋め合わされようとしていた。


左腕を焼き付けられる痛みが、ふいに消えた。

すると自分の身体が重力に負けて後ろに倒れる感覚を感じ、何とか足を動かし、支えようとする。
しかし力の入り切らない身体は、意思に従う事が出来ない。

身体が揺らぐ。


しかしその時、何かによって身体が安定感を取り戻す。

見ると、自分の腕が掴まれていた。
倒れようとする身体に反している腕に、繋がっている身体も従い、支えられる。


「なっ……」


腕に支えられて足が一本後ろに出て、完全に身体の平衡を取った。

マントが足元を掠り、軽くはためいている。
目の前に現れた人物に、の喉が軽く音を立てた。





初めてまともに名前を呼ばれたような気がした。

しかしこの男も、顔色が良くない。
程息を荒げてはないが、言うように言えば、青褪めていた。

そうだ、この男は知っていたんだ。

……なら話が早い。


「貴方もちょっと見せて……!」


支えられている腕は無視し、相手の見た目が不健康そうな左腕を、半分ひったくるかの様には持つ。
そして遠慮なく袖を捲り上げた。

くっきりと浮き出た闇の印が、其処にあった。

は眉を顰めて見慣れたそれを凝視した。


「貴方も……いつから変化があったの?」

「――三年前からだ。徐々に濃くなるのが目に見えて分かっていた」

「やっぱり。ハリー・ポッターが、入学してからよね?」


顔を上げ、そう問いかけてくるにセブルスは一言言う。


「人のものばかり見ておらず、自分の腕も見ればどうだ?」

「え……、ちょっと……っ!」


ぐい、と自分の左腕を自分の身体に押し付けられる。

目前に迫った腕、その袖をは少し考えてから捲くった。

不完全ながら、腕に存在している印。
半分欠けた髑髏は自分をさえ威嚇しているように思える。

それと同時に、闇祓いとして傷付いた古傷が目に入って来る。

は、それをゆっくりと真っ向から眺めた。


「ようやく来た……わね」

「随分前から分かっていただろう?」

「ええ。そうだけれど、こんなに酷いのは本当に久々だったから」


ようやく頭の整理がついた。

これを身をもって感じられるのは、この印を持っている者だけだった。
印は年を追うごとに、少しずつだけれど、存在を改めてきていた。

でもそれは個人によって異なるようで、それはこの印を支配する者の気紛れかもしれないけれども、事実は変わらない。


「……っ……!」


するとふいに、また痛みが腕に走る。

まだ印は熱を持っていた。

は思わず左腕を庇おうとして右手を伸ばす。
するとその前に、見知らぬ手が左腕に重なっていた。

……えっ。


「なっ……何するのよ! それに、いつまで腕を掴んでる気!?」


はセブルスの手と腕を猛然と振り解き、正気を取り戻す。

何故、今までこんなに親しげに話していたのだろう?
ずっと腕を掴まれていた事さえ、意識になかった。
自分の警戒心のなさに嫌気が差す。


「心外だな。好意でやっただけなのに」


それは、にとって真っ当な答えにはならなかった。
セブルスはこの状況を楽しんでいるかのようにも、見えた。


「好意は無用よ」

「これでも我輩は人間だぞ」


はマントの中で腕を組み、セブルスを睨み付ける。
は、そうこの男が言える程にこの男は人間らしくない、と思い、セブルスの言葉は効力を失っていた。


「――しかしこれ程の痛みでそんなにお前が大袈裟に応じるとは、思っていなかった。
 闇祓い等、今となっては大したものではないようだ」


気分を害した様に、は眉を顰める。
前々から自分は人より激しく闇の印の動きを感じる、という事は分かっていたので、そう強く言いたかったけれど口を噤む。


「貴方だって顔色が良くない……それとも、それは元々かしら?」


嘲笑の笑みでは言った。
セブルスは半分相手にしていないように、息を吐きながら軽く答える。


「どうとでも言ったらどうだ」

「随分消極的なのね?」

「お前に嫌われる覚えはあるからな」


いきなり真っ直ぐに教授の黒い目が見据えられ、はどうしてもするりと目線を逸らした。

自分でも嫌味な事を言っているのは理解している。
でもこれはどうしようもない、と思っていた所、相手からは思いがけない謙虚な返答がやって来て、ほんの少し動揺したのだ。

こんな目を向けられるとは、思っていなかった。
それに本能的に、今この時に、まだ得体の知れない開心術にも長ける彼の目を見るのは避けたかった。

……この男は一体何を考えているんだ?


「しかし、お前がそこまであれを気にしているとは思ってはいなかったな」

「……それはどういう意味かしら? 私は……」

「それを承知してから、改めて言う」


まだ見据えられている黒い目と、一瞬目を交わす。
それはとても暗い目だった。

気にしていると思っていなかった、という言葉に、は内心また怒りを募らせていた。


「お前が我輩の事で、不快な思いをしていたのなら、自分自身の軽率な行動に関し謝りたい。
 報復が出来るのなら願いを聞く……が、それでお前の気が済むのなら、という前提が必要だ」


その教授は今までになく真剣な表情で、下手をすれば、闇の印を見ていた時よりも真剣な表情なのかもしれない。
しかしはそれに応じなかった。
いつものように突っ撥ねる。


「――は? 今更何を……」

「今言った通りだ」

「だから、今更何なの?」


非難めいた口調だった。

は冷静に、言葉を紡いでいるように見えた。
今までセブルスの前で見せた口調の内、最もこれがある意味激しいものだ。
冷静だから、余計に恐ろしい。


「もっと早く言って欲しかった、と言うのであれば、我輩はお前がそこまで気にしていると思ってなかった、と返答するが?」

「そういう意味じゃない」


は顔を歪めて、嫌悪の表情を見せている。
セブルスはそのに眉を寄せる。


「ならばどういう意味だ?」

「今更謝られても、どうしようもないの。何も変わらないの」


セブルスはその言葉がすんなりと胸に入り、確かにそれは真実だと思った。


「――だから貴方が今何を感じようと、何を思って、何をやってくれても。単なる迷惑よ。
 私はずっと貴方の事を嫌ってきたし、それをどうにかする努力もしたくない」


は何も言えない相手に向かい、追い討ちをかける。


「だから深い干渉は不必要だわ」


此処まで言ってしまうと、流石に良心が痛み、目の前の男に情けをかけたいと少し感じ始める。
それは事実だったけれど、はその片鱗を微かにだけ出した後、その思惑を完全に隠した。

目の前の男は微かに眉間に皺を刻んでいた。

はマントを翻らせて、決別した光を目に浮かべながら、腕を組んでセブルスに向かっていた。
セブルスは感慨深げに呟いた。


「……そうか、お前がそう言う風に根に持つ程、気にしているとは……いや、やはりお前も――」

「しつこい。何よ? 気にしてたら悪い?」


セブルスは明様に怒りを募らせているに対し、納得し切れないような表情をして嫌味を口走る。
は益々苛立ちを覚える。
この男……

すると急に向こうから色が変わった目が、こちらに向けられた。
前まではまだ柔和であったのに、それは鋭い。


「――分かった」


暗く得体の知れない目でそう言われて、はこちらの意図がはっきりあちらに伝わったのを、確信した。
セブルスは無感情な見た目で、するすると言葉を紡ぐ。


「しかしあれは我輩も、このしつこい闇祓いから逃げる為の正当防衛であった訳だ。
 あの時代では、あくまでそれは真実だろう?」

「……そうね」

「我輩にも言い分はある。それだけは、理解していて頂きたい」


そこで沈黙が訪れた。

がそれに頷く事はないまま、ピリピリとした空気が流れる。

はセブルスを睨み付けた。
その男は、まるで自分をからかっているかのように、その時から視線にまともに応じずに、何も言わない。

……謝るだけなら、まだ良かったのに。

心がそう呟くが、自分から仕掛けた事なのだから、自分が言える言葉はない。
そして、私が向こうの言い分なんか理解する筈はない。

沈黙が空気を張り詰めさせ、前以上の緊迫した空気が二人の間を流れていた。
しかし客観的に見たら、一方的にが睨んでいたのだけれど。















いきなり、時計が鳴り出した。
空気を震わせる音に、は時計を見上げると……十二時?

それと急に気付く、つんと鼻を衝く臭い……


「……あっ!!」


脱狼薬!

放ったらかしにされていた脱狼薬に駆け寄り、急いで掻き棒を取って中を眺める。
さっきまでの空気は吹き飛んでいた。

急いで鍋を掻き混ぜる。


次に……!

は次に入れるべき材料を思い、それを取ろうと目を鍋から外そうとした所に、その材料が鍋に放り込まれるのを視界の片隅で見た。
鍋に放り込んだ主の正体はすぐに分かった。

は手際良く掻き混ぜて、何とか脱狼薬が正常な状態に戻るのを見届けた。

ふうと息を吐いて顔を上げると、鍋に放り込んだ主との視線が一瞬噛み合う。

どちらともなく視線が外された。















さっきが「同じ人種」だと称していたセブルスと二人、脱狼薬に取りかかった。
熱中すれば周りが見えなくなる人間同士、仲が悪くても、学会においても最先端のトリカブト系脱狼薬の精製は、魅惑的だった。

……五時……?

夕方じゃなく、朝の。
は自分の事ながら呆れた。

意識を浮上させた彼女は、此処が地下であった事を思い出し、どうりでそれに気付かなかった訳だと思う。
朝日が昇る事なんて分かり様がない。

――私は何をやってるんだ。

耳に聞こえるのは薬の煮立つ音と、二人分の衣擦れの音だ。

……何で仲良く共同作業を。

正気に戻ったはこの状態がとたんに居た堪れなくなり、声を上げた。


「これで十分でしょ。では、失礼させて頂きます」


セブルスはその声に反応し、やっと同じ部屋にいた魔女を認識した。
その後姿はドアへ、狂いなく近付いて行く。

セブルスは何か声を掛けようと思ったが、大した言葉が思い付かない。
だから声を掛けられなかった。



ドアノブに掛かった手が、はたと止まる。

微かな罪悪感が胸を突いたのかもしれない。

……

真夜中の遣り取りが思い出され、それから今までの脱落した時間がまた頭を過ぎる。

左腕にぴりりと痛みが走る。
今さっきの事だから、特に意に介さない。
多少熱が残っているものだから。

感情が妙な方向へ向かっていくのを、奇妙な気持ちでは受け止めていた。

時間が経って、頭から血が下りて感じる……でもこれも、単なる気紛れかもしれない。

ぼんやりとは、彼女の師匠を思い出していた。
それは本能的なものだったのかもしれない。

……単なる気紛れだろうか……いや、良心に賭けてみようか。


「ねぇ、鎮痛剤作って貰えない?」


返答はなかった。
は背中を向けながら左腕を、後ろの人に対して上げた。


「トリカブト、あるんだし、どうせ貴方も必要でしょ?
 それにさっき貴方が何か私にしたいって言っていたし。
 作ってくれたら、少しは、心の中で貴方の事許すから。お願い出来る?」


「少しは」に声を張って、は言った。
姿の見えない後ろの男が何と応えるのか、気になった。


「我輩の分の残りで良いのならくれてやる」


は、顔に笑みが刻み込まれるのに抵抗はしなかった。


「――ありがとう」


一瞬振り返り、そう言って部屋を出た。















何となく、あの男は私の師匠に似ている気がした。
十数年側にいて培われたこの感覚が、鈍っているとは思わない。
そのアンテナがさっき、ピンと立ったのだ。

その原因は……


「不器用……?」


ぐるぐると回る頭に手を当て、自分でも何故こんな事を考えているのか分からずに、ドアに背を任せて考える。
は滅多になくこんな事を考えて、ぼんやりと気を遠くにやる。
思い掛けないタイミングで少し前に離れた師匠の事を思い出して、少し笑みが顔に刻まれていた。


「仲が宜しいようですね」


は暗い廊下のいきなりの声に、びくりと顔を上げた。
この声は……


「副校長……」

「何をしていらっしゃったのですか?」


は反射的に背をドアから伸ばし、微笑を作った。


「副校長こそ、こんな時間に何をしていらっしゃ――」

「あなたはこの部屋から出て来ましたね?」

「……はい」


ベテランの断固とした物言いに、は従うしか術はなかった。
従わなければならない、という雰囲気を、この魔女が漂わせているのだ。
それに彼女は、目上の立場にいる。


「私は今まで、この部屋で脱狼薬を――」

「生徒がいる時に、このような事では困りますね」


はめげずに、積極的に言葉を言う。


「それは……分かっています。
 教師は生徒の手本ですから、このような明け方に出歩くなんていう事は……」

「その通りです。
 それに加えて生徒は皆多感な時期で、あなたのような女性がこのような時間に、折しも男性の――」

「待って下さい」


今度はが、言葉を遮った。
副校長は怪訝な顔をして、を見た。


「まさか、ですが。
 私がその言われる様から想像すると、ある一点に達してしまうのですが、それは合っていると思われますか?」

「そうですね」

「……有り得ません」


が溜息を吐いて低く呟き、副校長を半ば睨み付けるようにして見た。
しかし副校長は、闇祓いという職業を通して培ったその視線にも、全く動揺しなかった。


「そうです、有り得ない事です。
 しかし普通に考えて、こんな時間まで何をしていらっしゃったのか、想像に難しいのが実情です」

「それは……!」


副校長は、若いを見て息を吐く。
猫になって月の光を浴びていた帰り道、ぼんやりと佇む彼女を発見して、人間に戻ったのだ。

確かに滅多な事はないと思うけれど、それを振り撒く様な事は、学校という性質上、してはならない。

それもこんな時間、普通の人が活動する時間帯ではない――
些か無防備過ぎるというのは、間違った考えではないと思われる。
彼女の職業から考えたら、それは非常識にならないのかもしれないが。


「もう少し考えて頂きたいですね。
 此処は学校です。……あなたの行動は、軽率過ぎます。以後改善を望みます」


弁解の口をに与えずに、副校長は去って行ってしまった。

ぽつんと残る
どうしようもない不快感が身体に残る。
寧ろ、思うと鳥肌が立つ。


はくるりと回って、今出てきたドアを見た。

頭から下りた血が、また上って来た。

……やっぱり絶対に嫌いだ。










*











何故か笑顔を見せられ、セブルスは戸惑っていた。
何故いきなりあんな事を言い出したのか。

今まで散々「嫌いだ」「嫌いだ」と言って来たのに。

幾ら考えても答えが出て来ずに、考え込み、悩む。

……最後の言葉の通りに少しは許して貰えたのだ、と考えた方がすっきりする。

あの女があまりにも固いから、どうしても自分を許して貰えそうもなかったので、一端折れる事しか出来なかった。
しかし、これ程までに彼女に嫌われていたとは、思ってなかった。

息を吐いて目の前の脱狼薬を見遣る。

仕事に戻っても、妙にあの笑顔が頭から離れず、セブルスは眉を寄せた。



























2007/12/13






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