11/偏見的見解の解約
窓の外では元気にクィディッチの練習をしている生徒達だ。
はそれを微笑ましげに見送りながら、ある人物を探していた。
冷静に考えた。
私らしくなかった。
この一ヶ月余り、引っ掛かる事が沢山あったのだ。
そして昨日の深夜の、彼との掛け合いも。
はセブルスの気配を嗅ぎ分けながら、辿り着いたのは図書館だった。
ぎっしり本の詰まった棚を見送り、はもう一度、自分に問い掛ける。
これで良いのか、と。
意地になっている自分がそう尋ねるが、理性はイエスを出した。
此処まで来たんだもの。
それにそれにノーを出すのは、私の信条に合ってはいない。
「こんにちは。教授」
「……何の用だ?」
セブルスは読んでいた本からチラリと視線を上げて不機嫌そうにそう言って、視線を元に戻した。
此処を感付かれたとは。
何て面倒臭い。
セブルスの思惑とは反対に、は鼻歌でも歌いそうに上機嫌で彼の目の前に座った。
図書館の奥の、隠れ場とでも言えるような一角である。
人の気配は全くないが、確かに此処に椅子と机が備え付けられている。
多分学生時代にでも此処を発見したのだろうか、彼はしっくりと其処に座っていた。
周りは闇の魔術や、魔法薬の古代の秘術等という怪しげな本が多い。
はひょい、とセブルスの読んでいる本を覗き込んだ。
「むっずかしいの、読んでるわねー」
「お前もこれ位は読むだろう?」
「いいえ。私は薬学に関しては並々よ。基本は闇の魔術だから……」
ページにぎっしりと詰まった文字を見て、それが何か難しい式の連続だと分かり、は眉を寄せる。
私の専門はこれじゃないし、それ以上それを解読するのは止めた。
気が狂いそうだ。
「好きね、貴方も」
「邪魔をするのなら、今すぐ出て行って貰えんかね?」
「いえいえ、滅相もない。ただただ、ちょっと貴方に言いたい事があるのよ!」
このままではこの場から強制的に退場させられる、と思って、は口を開いた。
息を大きく吸う。
「貴方って、いつも損ばかり引き受けるタイプよね?」
「――はぁ?」
「人の悪事を、自分はやってないのに、その濡れ衣着せられるような。悪い事ばっかり引き受けさせられるような」
は平然と言い切った。
セブルスはらしくなく、驚いた表情を見せて、視線は本から外れる。
は淡々と言葉を続ける。
「これでも助教授だもの。
貴方が毎晩遅くまで生徒のレポートを隅から隅まで見ているのは知ってるし……特に、グリフィンドールのやつ。
先生としては当然の事だけど、これほどまでエネルギーをずっと其処にぶつけられるなんて」
まあ、減点の要素を探しているだけなのかもしれないが。
「授業計画とか各学年でまめに物凄く細かく立ててるし、何だかんだ言いつつもちゃんと授業してるし。
幾らリーマスの事嫌いだ、って言っても、ちゃんと貴方脱狼薬作るでしょ」
まあ、校長の目があるからかもしれないが。
ヒュン、と窓の外をクィディッチ選手が通り過ぎた。
はセブルスの目の前で首を傾げた。
「どうかしら?」
「買い被り過ぎだ」
セブルスは暗い目でじっとを見るが、はにこりと微笑んだ。
もう慣れてしまった。
「じゃあ続けましょうか。
ネビルとハリーに辛く当たってるのも、私の買い被りでいけば、彼らが親がいないからだと思うの。
その分強くなる必要があるし、結論で見ても、貴方のスパルタのお陰で現にハリーはとても強い子になった、と言えるし。
最初に持っていた偏見を捨ててみたら、貴方の嫌味の裏に何かあるような気がしたの」
は苦笑し出した。
「貴方が真面目で、とても不器用だから……」
けろりとはそう言い切ってしまった。
セブルスは驚きつつも、何故か軽く呆れ、返す言葉が見つからない。
どう返して、考えたら良いのか。
隣にはあくまで微笑んでいるがいる。
「……昔の事はどうした?」
「一時休戦よ。――あなたは死喰い人じゃない」
セブルスは目を見開いた。
「――かもしれない」
セブルスは元の表情に戻った。
は珍しい彼の百面相を見て、笑い出す。
嘘は吐けないのだ。
しかし嘘を吐かないだけ、彼を信用している、とも言える。
「きっぱり過去を捨てたって訳じゃないけど、少なくとも、私は今の貴方が嫌いじゃないわ」
セブルスはじっとそれを聞いた。
彼女の言葉に淀みはなかった。
「異論はある?」
「……あっても、お前はそれを聞かないだろう?」
「まあそうかも。じゃ、それは肯定と受け取っても良いのね?」
「言っておくが、我輩はお前が言うほど善人ではないぞ」
「分かってるわよ、勿論」
自信満々の笑みのを見て、セブルスはこれを歪める事は出来ないと思った。
しかしこう思ってくれたのは、好都合というか――いや、何と言うか――
「言いたかったのはこれだけよ。
貴方がどう受け取ってくれても構わないけど、あまり悪く思って欲しくないっていうのが、私の希望よ」
今まで散々だったから、言う事は言い切ったし、これ以上に望める事はなかったし、望める訳もない。
は立ち上がる。
「じゃ、邪魔者は退散するわ、スネイプ」
「呼び捨てたな」
「駄目? 教授って読んだら他と混同するし、敬称を付けるのも面倒臭いし、フルネームも面倒。
貴方も私の事、呼び捨てても良いから……」
セブルスは一人でそれに相槌を打った。
「、帰るのなら、我輩の研究室にある発注書を梟で飛ばしてくれないか?」
はビクリとその呼称に反応する。
そして前にしていた、冷たく、相手を威圧する視線で振り返った。
「誰が、いきなりファーストネームで呼び捨てても良い、って言ったのかしら?」
「、お前だ」
「また言った! 私は其処までの事言ってないわ!
まだ貴方に対する反発心、残ってるんだから、アレルギーみたいに反応するのよ……!」
セブルスはそのの様子に面白そうに、口元だけで微笑む。
しかしアレルギーって……。
はふてくされて肩を下ろすと、其処から立ち去ろうと足を進める。
するりと黒いマントの裾が、本棚に消えた。
「あ」
声が少し向こうから聞こえると、はまた戻って来て、いつもと変わらない調子で話す。
「御免なさい、梟便は無理だわ。これから吸魂鬼の所へ行くから……。だから後は宜しくね、スネイプ」
軽くふてくされた表情を見せつつも、はやんわり微笑んだ。
そう言うと今度はきっぱりと其処を出て行って、マントの裾が戻ってくる事はなかった。
セブルスは本に手をかけながら、の消え去った方向を見ていた。
しかしはたとまた本に目をやり直す。
思い掛けない事、というのはまさにこれだ。
さあ、どうしようか、と考える。
関係の修復を、彼女は宣告しに来たのだろう。
本の内容は中々頭に入らなかったが、徐々にそれは頭に溶け込んでいって、いつもと変わらなくなった。
は笑んでいた。
すっきりしたのだ。
彼女の観察力と、ものを見つめる方向の転換の由来は、彼女の師匠にある。
彼女の師匠はかなり不器用で、はそれに付き従いながら、慕っていた。
そして、セブルスに対するものとこれは、酷似しているのだ。
2008/1/6
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