十一月の月末の、闇の魔術に対する防衛術の教室。
ハリーら、グリフィンドールの三年生が授業を受けるべく座っていると、其処にやって来たのはいつもの先生ではなかった。














18/代理授業














堂々と黒いマントを翻して入って来た人――は、教卓の前で生徒と顔を突き合せるように、反転した。


「ルーピン先生が体調を崩しておられるので、代わりに私が代行をすることになりました。宜しく」


はずいっと教室にいる生徒を見渡した。
微かに喜びが顔に浮かんでいる生徒もいる……ああ、前があの教授だったからだろう。

前回のこの授業の代理はセブルスだった。
彼は今回は授業があったので、順番がにも回ってきたのだ。


「ルーピン先生から、今回は私に任せると言って頂きました。なので私は私の専門分野の授業をしたいと思います」


は妙に好奇心の混じった視線を、生徒達から感じた。


「じゃあ、教科書を仕舞って、杖を出して」















元々人に教えるのは苦手ではない。
闇祓いの新人研修だって担当したことはあるし、人に授業をすることについては全く問題はなかった。

生徒達が杖を出したのを確認すると、は杖を振って、机と椅子を端に積む。
教室に大きなスペースが出来上がった。
はそのスペースに、杖を腰に仕舞いながら進み出た。


「私は魔法省で、闇祓いという職種に就いています。主に、闇の魔法使いを捕らえる役目を負っています」


はぐるりと辺りを見回す。


「なので、専門は闇の魔術だということになりますが、それ以上にこの仕事をする上で大切なことがあります。さて何でしょう?」


生徒達がザワザワと囁き合う。
は楽しみながら、その様子を見る。


「変身術とか……?」

「うーん、違うわ」

「決闘の強さですか?」

「それより、大切なことがあるの」


は生徒を満遍なく見渡していたが、ふと一つの視線に気付く。
ハリーだ。


「ハリー、貴方はどう思う?」

「……瞬間の判断力、だと思います」

「そうね」


生徒の驚きの視線がハリーに集まる。
はそれを振り払うように、自分へと集中を向けさせるように声を発す。


「幾らNEWTでオールOを取っていても、どれだけ術が見事に使えても、度胸と瞬間の判断力がなければ通用はしないわ。
 貴方達は今の時代にそんなこと、と思うかもしれないけれど、平和は崩れるのは簡単なの。
 己を防衛する手段は身に付けておいて損はないわ」


が目ですっと周りを見渡すと、白いチョークが床に円を描き始めた。
円が完成すると、はその中に入り中心に立つ。


「という訳で、今日はゲームをしましょう。私は武装を解いてこの円の中へ――」


は腰にささっている杖を、それとなく示す。


「貴方達は杖を持って、円の外へ。貴方達はこの円の中に入って来なければ、何をしても良いわ。
 全員で私にかかってきて。私が何らかの呪詛にかかるか、私の背中が床に当たれば貴方達の勝ち。
 授業終了のベルが鳴ったら、私の勝ちよ」


ざわつく生徒達を、とても楽しそうには見る。
は内心とてもうきうきしていた。
生徒だけのためではなく、これはにとっても楽しみだったのだ。


「で、何もかけるものがないと面白みもないから、もし私が負けたら、全員にハニーデュークスの無料券を数枚ずつ……」


急にやる気を出し始めた子供達を見て、はまたまた楽しそうに微笑んだ。
まさか、全員にそんな無料券をあげるつもりは全くない。
ただ生徒達への餌だ。


「よし! じゃあ始めましょう」


そう言うなり、生徒達は即座にの周りを円形に取り囲んだ。
はマントを翻し、円の中心に躍り出て目を辺りにじっと凝らす。

一人の生徒が呪文を唱えるのと同時、生徒達は一斉に様々な呪文をに向かって唱える。

は唇の端で微笑んだ。
一時は唇で呪文を詠唱する。
そしてものの見事に、全ての閃光を弾き飛ばし、避け切る。

そしてそれは――


「きゃあっ!?」


悲鳴と共に周りの生徒達に飛んで行った。
生徒達も流石で見事に呪文を、身を屈め、横歩きになり、避ける。
は顔を起こして、怪我をした生徒がいないらしい、と確かめて微笑んで言う。


「円で取り囲んで魔法を放ったら、その向かいの子に当たるわよ。もうちょっと考えてしないと、私はそう簡単に負けないわ」


飄々としたの忠告だ。
生徒達はおのおの喋り出し、いつの間にかリーダーが出来て一箇所に集まって相談を始めた。
は良い傾向だと思ってそれを眺める。

杖を持っていない右手を手持ち無沙汰に待っていると、生徒達は各々歩き出して半円を描くようにを取り囲んだ。
そしてまた一斉に呪文を放つ。

は小さく口元で呪文を唱え、防御する。
また跳ね返った呪文が生徒達に当たることはなかった。
すると、はそのまま右の手の平を背に向けた。


「残念」


の背後に発せられた呪文は、の手の平に跡形なく消えていった。
不意をついたつもりなのだろうが、甘過ぎる。

そしてまた、生徒達は会議をする。















何度目かの会議が行われ、何度となくがそれを回避した後、生徒達は急にに背を向けて呪文を唱え始めた。
がその様子を窺っていると、生徒達は複数人で机や椅子を浮遊呪文で持ち上げている。
それも幾つかのチームに分かれてだ。

まさか……。

がそう思っていると、急にに目掛けて机が飛び掛って来た!


「うわっ!?」


はそれを避けるが、次にもまた今度は椅子の群れが飛びかかって来る。


「危なっ……!?」


そうすると、呪文の閃光の群れがを目掛けて飛んで来た。
それをは捌き切るが、そうしている間にまた机がこっちに目掛けて……。

は軽いフットワークでそれを避ける。
浮遊呪文を解こうかと思えば、また次の呪文が飛んできて。

何ていう手段を、とは冷や汗を流す。
思いがけず、物理的だ。
生徒達はやっきになって、を倒そうとしている。
この物凄いスピードの机や椅子に当たったら、打撲程度で済まないだろう。

姑息な手を使って……!
まあ、理屈は実際の戦闘では通用しないと言ったのはだから、そう言える立場はない。
この状況下では効率的だと思えるこの戦法に、は唇を噛んだ。

時計を見上げると、もう少しで授業終了の時刻だとそれは告げていた。
杖があったらこんな位、簡単に収めてみせるのに。
身体の側をまた、机が通り過ぎる。

は目の前に来た椅子を避けつつ、息を大きく吸って、気合を少しだけ入れて、呪文を唱える。
もうそろそろ終わりにしよう。


「Protego!」


椅子や机、呪文全てがの身体から跳ね返った。
それが身体に直撃するかと生徒達が怯えた時、急にそれらは勢いを失って、地面に着地する。
椅子や机がバラバラと、と生徒達の周り、白い円の外に散らばった。

同時に終了のベルが低く鳴り渡る。


「授業終了ね」


はにっこり微笑んだ。
思いの他楽しませてもらった。

その後怪我をした者がいないか確かめてから、授業は解散になった。















が授業後、杖で教室の備品を元の位置に戻していると、ハリーがやって来た。


「どうしたの?」

「先生、あの……」

「どこか怪我した?」

「いえ、大丈夫です」


はまだ片手で机を動かしている。
そして横目でハリーを見ている。
ハリーが口を開く。


「闇の魔法使いは、さっきの先生位に強いんですか?」

「……うーん、そうねえ……強さ、っていうのも結構あやふやだから。でも、まあそんな位かなあ?」


は相変わらず、片手で魔法を唱えている。
返答の口調も適当で、あまり気が入っていないようで、ハリーはに突っ掛かる。
はそんなハリーを知ってか知らずか、机に歩み寄って、傷がついていないか木目に沿って確かめるように撫でる。

傷を発見し、やっとハリーに顔を上げた。
その顔はにやりと笑っている。


「ブラックが前に私を負かしたから、ブラックがそれ以上の強さなんだって、恐れてる?」

「いえ、そういう訳では……」

「でも、貴方だって闇の魔法使いについて、その強さがどうなのか知っているんじゃないの?」


は机にレパロ、と唱えた。
机についていた傷が綺麗になくなっていく。


「あの時は――とにかく必死でしたから。そういうことはあんまり覚えてなくて」

「そう。まあ、闇の魔法使いって一口で言ったって、色んな奴がいるからね。
 それにさっきの私は杖を持ってなかったもの。やっぱり、それを基準にするとちょっと駄目かもしれないわ」


は息を吐いて、ハリーの瞳を見た。
必要なことは知っているはずなのに。
しかし、それを教えるのが教師なのだと、前に教えられた。

それに、私は少しでも、彼の力になりたかった。
リーマスの前で、この前そうはっきりと宣言したのだ。


「貴方、さっき言ってたじゃない。大切なのは判断力だって。今どうこう言うべきことは、全くないわ」


ハリーはじっと黙っている。
もそれに応えて、黙った。


「……それと、少しの度胸と」

「少しで良いんですか?」

「あー……相手によるかな?」


が苦笑すると、ハリーはふと微笑んだ。
伝えたいことは伝わったようだった。
ハリーがクスクスと笑い出しては安堵し、ずっと思っていたことについて口を開ける。


「と言うか、さっきの作戦考えたの貴方? 正直焦ったんだけど……」


ハリーはその言葉に急に笑い出した。
はそれに首を傾げる。
ハリーは面白くて堪らなさそうに、言う。


「ネビルです。ネビルが、あんなこと言い出し始めて……」

「そうなの? 学校の備品に傷を付ける様なことしちゃって……」


ハリーとは二人して笑った。
ハリーは穏やかな目をしていた。










*












「代理の授業で、何やら楽しそうなことをしていたらしいな」

「……どうして知ってるの?」

「生徒の噂だ」


は鍋を掻き混ぜる手を止めた。
あいに変わらず、脱狼薬の精製を手伝っている。


「欲求不満を生徒で果たすとはな」

「……否定はしないわ」


は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そして、次に苦笑する。
セブルスの後ろ向きの背中が冷たいが、自分の気性は自分が一番知っている。


「そんなに戦いたいか?」

「戦いたい、と言うか、杖を振りたいと言うか……そんな感じよ。
 貴方が相手になってくれる、と言ってくれるならそれで済んだんだけど――」


セブルスの渋い顔がこっちに向けられる。


「――そういう訳にはいかないしね」

「誰が闇祓い相手に娯楽で決闘をするか」

「えー、でも貴方だって結構手練でしょ? 昔はバリバリしてたじゃ……」

「その言い方、やめろ」


セブルスは溜息を吐いて、羽ペンを持つ手を止めた。
そしての方に椅子を回す。


「そんなに杖を振りたければ、もう一度みっちり訓練して貰え」

「暇があったら、当然そうしたいわ。
 今度ホグズミードに吸魂鬼が派遣されるらしくって、その担当もさせられちゃって、暇がないのよ」

「また吸魂鬼か」


セブルスは深く溜息を吐く。
はその行動に、また妙に気遣ってくれるものだなあ、と思う。
確かに彼の持って来てくれる薬を飲むと、かなり元気が出るのだ。


「お前の仕事はそれしかないのか?」

「ううん、クリスマスの辺りに大臣の警護とかあるけど」


急にセブルスが黙る。
何かを考えているようだった。
そして次に、低く唸るように言う。


「クリスマス・イヴの日、暇か?」

「え?」

「十二月二十四日だ」

「いや、わざわざ日付で言ってくれなくても……。
 うーん……今の所は予定はないけど、ホグズミードの警護がどうなるか分からないし……。で、その日どうしたの?」

「お前に用事がある」

「そうなの。クリスマスに?」

「ああ」


とセブルスは、じっと顔を突き合わせていた。
暫し時間が過ぎて。


「……分かったわ。出来るだけそう出来るよう努力するけど、期待に沿えなくても怒らないでね」

「分かった」


セブルスはそう言うと、またくるりと机に向かう。
そして羽ペンを手に取り、また続きのレポートの採点を始めた。

はその行動に首を傾げ、彼の意図を少しばかり考える。

思案の結果、きっと彼はクリスマスを一緒に過ごす人とかいなくて寂しいんだろうなあ、ということになって、一人納得した。
そう言えばもうクリスマスも遠くはない。
彼へのクリスマスプレゼント、考えておかなくては。



























2008/2/15






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