21/クリスマスムードに乗って














クリスマスの日の昼過ぎ、セブルスの部屋の扉が勢い良く開いた。
セブルスはそれに眉を寄せ、来客を見遣る。


「や、スネイプ。ようやく仕事が終わって……」

「随分上機嫌そうではないか? 徹夜だったんじゃないのか?」

「徹夜には近いんだけど、何か三本の箒でパーティに寄らせて貰ってさあ」


はマントを靡かせながら、セブルスの方へ歩いて来る。
その足つきはどこか覚束なく見えた。
そして何故かは上機嫌にクスクス笑って、頬をピンク色に染めていた。

そのままはセブルスの向かいに遠慮なく座る。


「……酒か?」

「酒臭い?」

「いや、雰囲気で分かる。下戸じゃなかったのか?」

「そうよ。そうなのに、無理やり勧められちゃって……でも大丈夫よ!
 ギリギリで寸止めしたし、殆ど飲んでないわ。後はケーキがまた、ちょっと洋酒が多くって……」


寸止めの酒と、菓子の中のアルコールでこんなに上機嫌になるとは。
やはり彼女は酒が飲めないらしい。
しかし仕事中だというのにそれで良かったのか、という疑問は、セブルスは今のにはぶつけられなかった。

は少し潤んだ瞳をして、じっとセブルスを見ている。


「クリスマスプレゼント、見てくれた?」

「ああ」


セブルスは視線を机の上にやる。
すると其処には、黒い装丁の厚い本があった。


「どうやって手に入れた? 明らかに一般に出回っていない書物だろう、これは」

「色々つてがあってね」


そのつてを、聞いたみたいような聞きたくないような……。


「悪くはなかった」

「そうでしょ。結構グロい闇魔法の本だけど」

「分かっているのに、それをクリスマスプレゼントに?」

「だって貴方が喜びそうなもの、あんまり分かんなくて」


はあっけらかんと言った。
クリスマスそうそうに、あまり気持ちが良いとはいえない魔術の本に目を通させられたセブルスは、少し黙る。
しかしすぐにそれもそうだ、と納得した。


「……我輩からのものは見たか?」

「いいえ。帰ってすぐに此処に来たから。プレゼントはまだ見てなくて」


そう言って、ふいに指を組んで腕を上げ、背伸びをする。
やはり疲れてはいるらしい。
肩の凝りを解すような動作をする。


「中身を確かめてから開けないといけないし、面倒で。今すぐに何か起きそうなものはない、とは確認したけど」

「ああ、お前はそうだったな」


送付物は中身を確かめてから開ける。
師匠譲りの用心さが、彼女の売りだ。


「疲れてはいないか?」

「うーん、やっぱり吸魂鬼とは関わってきたし、どうしても疲れたかな……」


は目の前に、あの薬が出されて、驚いた。
ゴブレットから湯気が……。
は嬉々としてそれを飲む。
飲むのにそれほど時間はかからなかった。


「ありがと。で、さあ、私に用事って何なの?」


は首を傾げた。
ピンク色の頬はまだ色を失ってはいない。

セブルスは口を開こうとした。


コンコン


とセブルスは、一様にドアに振り返った。
するとまた一つ、ノックが部屋に響く。
はセブルスに目を配り、セブルスは渋々立ち上がって、ドアを開く。


先生、此処にいらっしゃいましたか」

「副校長――何かありましたか?」


セブルスの部屋に入ったマクゴナガル先生は、まずを目に確かめた。
の酔いは一気に冷めたようで、目は現れたマクゴナガル先生の姿をしっかりと認めた。
は立ち上がって、そっちへ向かう。


「あなたにお知らせしなければと思って……スネイプ先生にも」


マクゴナガル先生は、どこか焦燥を含んだ物言いをしている。


「ポッターに、送り主が不明で箒が送られて来ました」















はじっと、大きな虫眼鏡のような銀色の機械を覗き込んでいた。
箒――ファイアボルトの柄から、尾の枝の先までを凝視する。

ふう、と息を吐いてその機械を下ろした。


「今すぐ発動しそうな呪詛は見つかりませんね」


此処は職員室だった。
そこにマクゴナガル先生、フリットウィック先生、マダム・フーチが険しい目つきで立っている。
セブルスもに連れられて、此処にやって来ていた。


「一見した所は、無害な箒ですが――」

「色々な状況で実験してみる必要がありますね」

「ええ。フリットウィック先生、マダム・フーチはどう思われます?」


フリットウィック先生は、椅子の上に座って箒を見ている。


「少なくとも、マクゴナガル先生が言うように実験した後、さらに箒を分解してみなくては、あまりはっきりしたことは言えないですね」

「残念ですが……」


マダム・フーチはこの素晴らしい箒を解体しなければならない、という事実に顔を青褪めさせていた。


「スネイプ先生は?」

「この箒の送られてきた経路を調べる必要がある、と思いますが」


はそれに頷く。


「マクゴナガル先生、ハリー・ポッターの周りに、このような高い箒をすぐに買える様な人物は思い当たりますか?」

「いいえ」

「ファイアボルトとなると、相場は――」

「値段は公表されていませんね」

「マダム・フーチ、有難う御座います。
 そのような箒をすぐに買える財力があるのは、私には純血の旧家しか思い当たりません。
 だから私は、やはりこれはブラックからのものである可能性が高いと思います」


周りの先生方も頷いた。
目の前にあるこの箒は、アズカバンの脱獄者からの贈り物なのだ。
そしてそのブラックは、今やブラック家の当主とも言える立場にいるのだ。


「ですから、私はそれを確かめる為に、今からスネイプ先生が仰っていた様に送付された経路を調べて来ます。後はお願いします」


は頭を下げ、マントを翻した。
セブルスを除く三人は、箒をどうしようかと深刻そうに話し合いを始めている。
はセブルスと目が合った。

あ……。

彼との約束を思い出した。
イヴが取り消され、今日となったその約束を。

は冷や汗を流しながら微笑んだが、セブルスはそれに応じてはくれない。
しかし、これは、間が悪いのだ。
約束を二回も破るようなことをしたけれど……。

はもう一度セブルスに微笑みかけたが、やはり彼は表情を変えない。
ああ、もう、これは仕方がない。
は職員室を出て、セブルスの視線を振り切り、まずは虱潰しに業者を当たっていこうと足を進めた。










*











ハリーとロンとハーマイオニーは、肖像画の扉が開いて、一体誰がやって来たのかとそっちを見る。
寮にはこの休暇中、この三人以外には人はいないはずだ。


「こんばんは。マクゴナガル先生に合言葉を教えて貰ってね」


は談話室に入りながら辺りをぐるりと見渡し、すとんと彼らの近くの椅子に座った。
動作に全く躊躇は見当たらない。


「ファイアボルトについて、これから預かるから断りをいれておこうと思って」

「先生、箒を見られたんですか?」

「ええ」

「どうでした?」


ハリーの言葉には黙る。
ハリーはやはり、早く箒を返して欲しいようだった。


「そうね、一見して調べてみただけなんだけど、今の所は呪いがかかっている様子はないわね」

「そうですか……なら、いつ返して貰えるんですか?」

「私もまだ調べたいことはあるし、他の先生方も調べられるから、取り合えずクリスマス休暇中に貴方に返すことは不可能だわ」


ハリーは怒りを少し滲ませていた。
クィディッチに情熱を注いでいる者なら、普通の反応だろうと思う。
そしてロンもハリーと同じような反応を見せていた。
ハーマイオニーだけが、それが当然だ、とでもいうような態度を見せている。


「フーチ先生も、この箒をばらさなければならないという事実に落胆なさっていたわ。大丈夫、彼女が綺麗に直して返してくれるわよ」


それで少しばかり、ハリーとロンの機嫌が直ったと見えた。
マダム・フーチの力は凄い。

ハーマイオニーが言った。


「やっぱり、ブラックから送られたものだと思われますか?」

「……その可能性が高い、とだけ言っておくわ」


は言葉を濁す。
さっきまでの送付経路の調査でその真実は分かっていたが、それを公表するのは止めておこうと決めていたからだ。
そして、それは先生方にも。


「その可能性が高いから、ハリー、申し訳ないけれど貴方の箒を貸して貰えるかしら?」


が、申し訳ないというオーラを痛いほど醸し出しながら言った。
それにハリーはノーとは言えない。
ハリーが黙っているのを、はイエスと受け取って良いと判断した。


「御免なさいね。折角良い箒を手に入れられたのに。それで、ハーマイオニー」


ハーマイオニーがを見上げる。


「マクゴナガル先生に報告してくれて有り難う」


ハーマイオニーはニコリと微笑んだ。
しかしハリーとロンは顔を見合わせ、あまり嬉しそうな顔はしていない。
はそれに苦笑する。


「ハリーとロンも、機嫌直してね。あんまりハーマイオニーを苛めては可哀想よ」


図星を突かれたようで、ハリーとロンは渋い顔をした。
それにとハーマイオニーはクスリと笑った。


「……で、今何時だっけ?」

「九時ですけど」


ハーマイオニーが談話室の時計を見上げた。
はそれにビクリと反応し、口元に手を当てる。
不味い。
もうすっかり夜だ。


「どうかなさったんですか?」

「ちょっと、用事があって……! やばいかも……っ!」


は急いで立ち上がり、急いで礼を告げて、肖像画から飛び出して行った。
残った三人はそれに首を傾げた。





調査結果はこうだった。

ファイアボルトはふくろう事務所で、「ハリー・ポッター」の名前で注文されていた。
しかし業者によると、その金はグリンゴッツの711番金庫――シリウス・ブラックの金庫――からのものだ。
暗証番号も一致していたらしい。

ファイアボルトの注文、というかなり珍しいことだったので、ふくろう事務所も業者もこのことはよく覚えていてくれた。
しかし、シリウス・ブラックの金庫から金が出たというのは、何らかの行政への報告が欲しかったことなのだが……終わったことはもう良しとしよう。

ということは、ほぼブラックがハリーにファイアボルトを送った、という事は間違いがないだろう。
しかし業者によると、ファイアボルトはブラックの手によって細工されるようなことは決してなかったらしい。
それは送付記録に明らかにされている。

業者からすぐに、ファイアボルトは業者のふくろうによって運ばれた、と。
そしてそれがハリーの元に届くまで、寄り道をするような時間はなかった。

となれば、ブラックは本当にハリーにただクリスマスプレゼントをしただけだということになる。

名付け親からの初めての贈り物とでも言うのか。

この件はふくろう事務所にも、業者にも固く口止めをしておいた。
やはり、あまり世間に知らせることではないような気がする。
これをハリーに知らせるとか、先生方に知らせるのは、彼らを錯乱させるだけだ。

それにあの猪突猛進のブラックが、箒に細工をして送って来るなんてらしくない、と思う。

となると、やはり――あのブラックは――















は急いで自室に駆け戻った。
そして冷静になる。

今まで、ふくろう事務所やグリンゴッツまで駆け回り、大分服装も汚れた。
そして更に、自分が昨日ホグズミードで徹夜をしてきたことを思い出した。
そのまままた出て行ったから、これは流石に……身嗜みが整っているとは言えない。

目の前に積み上がっているクリスマスプレゼントを無視し、まずバスルームへ向かった。
彼を待たせているという焦燥を確かに覚えながら。



























2008/3/5






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