ドアを開けて、後ろ手にそれを閉めて。
とうに見慣れているソファーに、クリスマスプレゼントにあげた本を読んでいる彼が。
気配に気付いてセブルスが本から目を上げると、はそれに視線を合わせた。


「答えを、言いに来たの」














27/I feel you.














が足を進めると、セブルスも本に栞を挟んでの方へ向かう。
丁度二人がぶつかった所で、二人とも足を止めた。
二つの質の違う黒いマントが其処にある。

は空気を吸って、背の高い相手に首を上げる。


「何だ?」


は口を開けて声帯を震わせようとする。
答えを言わないといけない。
するとその前に喉が一回絞られて、口を閉じてしまうが、もう一度唇を噛んで唇を開く。

彼の目を見て、言わないと。

大丈夫だから。

セブルスの目はの答えを無言で促していた。
は手の平を握り、答えないといつまで経っても逃げられない、と腹を決める。

答えは既にの中にあった。


「I like you」


搾り出した声は、掠れをもって響いた。
目はじっとセブルスのそれを見ている。

するとそう言ってから急に身体が熱くなってきて、また顔が火照る。
この頃こんなのばっかりだ。
血が頭に上って倒れはしないだろうか。

そう思っていると、急にセブルスは笑い出した。

えぇ!?、とは滅多にない彼の爆笑風景に引く。
いや、爆笑といってもそれは普通の人よりかは控え目なものだが、それが妙に恐ろしいのだ。
どうしても引いてしまう。
身体の重心を後ろにやって、その光景を遠巻きに観察しようとする。

気持ち悪い。
笑い止んで欲しい。


「いや……お前らしい、答えだ」

「そう? それじゃ、これで私は――っ」


身体を出入り口に向けようとするが、腕が掴まれる。
こんなことばっかりだ、この頃。
は赤い顔のままで苦笑して振り返る。

セブルスは声を上げて笑うのは止めていたが、妙に上機嫌で、攻撃的な目をしている。


「で、やはりここでお前は逃げられるとでも?」

「言いたいこと、はとりあえず言ったかなー……」


ここで引っ張られて腕の中に入れられるだろうか。
そう予想しては身構えていたが、そうはされなかった。

首に違和感を感じる。
セブルスが、ネックレスの鎖を指に持っているのだ。


「つけてくれたのだな」

「まあ……箪笥の肥やしにするのは勿体無いし……」


するりとセブルスから視線を離す。
その動作がセブルスを更に煽るとはは知らない。


「あ、あのねっ」


は鎖を持ったままのセブルスに語りかける。
セブルスはその手を外して、を見下ろした。

は自分が思ってることを言わなければ、と思って必死で口を開く。


「私は、嘘は吐きたくないの。だから、今はそうしか言えない。
 今思ってること、そのままを言ったの。さっきまでは嘘を吐きたくなくって何も言えなくて……」


子供みたいな喋り方だ、と自分でも思う。
火照った脳味噌とこの特異な状況で、はこれが精一杯だった。
だってこんなこと、もう一生ないと思っていたし、こんなことを言う場面がやってくるなんて思ってもいなかったのだ。

セブルスはそれを目の色を変えずに聞いていた。


「ではこれが正直な気持ちなのだな」

「そう!」


こちらをじっと見てくるセブルスに、は危機感を抱いていた。
ここですんなりと離してくれる男ではない。


「嫌いじゃ、ないのよ? でも――!?」


腕を掴まれた。
は怯えた表情でセブルスを見上げる。


「随分嫌われたものだ」

「だって貴方が腕を掴むと、さっきから変なことばっかりしてくるからっ」

「変なことって……」


セブルスは唸って、じっと目をの目を食い入るかのように向けた。
開心術か。
そこでは思い立つ。

正直に言っているということを証明するには、それが一番手っ取り早いじゃないか。
元々閉心術の心得もあるは、閉じるところは閉じ切り、相手に見せたいところだけを開けた。
もっともそれも、の心のほんの一部だけだったが。

見てみろ、と言わんばかりのの行動に、セブルスは受け入れるしかなかった。
二人の視線がじっと合う。


「ほら、ちゃんと正直なこと言ってたでしょ?」

「確かに。しかし閉じている部分が大半を占めているじゃないか」

「貴方相手に大きく心を開けられるわけないじゃない」

「正論だが、それでは少し悲しいな。既成事実は出来たというのに」

「既成事実って言っても、あれは、むしろ犯罪というか……」

「だからそれならば訴えてみろ」


う、と喉を詰まらす
セブルスは傍若無人としたままだ。
はどうして自分がそうしようとしないか自分に問いかけ、答えは「そんなことを大事に出来るわけない」で終わった。

言えるか、こんなこと。
世間に公表出来るわけない、まさか私が無理やり男に犯されただなんて。
これでも魔法省一の魔力を持つと言われていたのに。


「likeか。まあ、予想よりかは良い評価はもらった」

「ちょっ、手を握らないでよ!」

「どうしてそんなに真っ赤になる必要がある?」

「だって……! う、わ、触らないでって!」

「真っ赤になるだけまだましだな。前までうんともすんともしなかったのに。女だということを思い出したか?」

「嫌というほど思い出したわよっ」


は眉を怒らせる。
セブルスの手は、の首元のキスマークにある。
そして片手は、の手の平に。


「貴方のせいで泣かされるわ抱き締められるわ押し倒されるわ、ろくなことがありゃしない」

「でもネックレスはつけてくれた」

「――……私……」

「何?」


は視線を泳がせて、急に戸惑ったような表情になる。
そして顔を俯けた。

確かに。
彼は嫌いじゃない。
でもどうして嫌いじゃないんだろう?

何で部屋に戻ってわざわざネックレスの鎖を付け替えて、此処に来た?
私は結局彼をどう思っている?

彼が私をどう思っているのかは知っているのに。


「――スネイプ」


は顔を上げてセブルスを見上げる。


「私、結局貴方のことをどう思ってるんだろう?」

「……さあ、我輩には計りかねるが……」


今更その間の抜けた質問は何だ?
散々自分が聞いたというのに、今更はそれを自分に問うてくる。

しかしは至って真剣だ。
眉を寄せて腕を組んで考え始める。
セブルスの手は、いつの間にか外されていた。

今それを真剣に考えるのか?
今初めて考えたのか?

……もう、付き合ってはいられない。

無理やり押さないとこの女は微動だにしないのだ。


「お前の意思は分かった。だから、そんなに頬を染めたまま今此処で悩むな」

「え……」

「分かったから」


そのセブルスの目に、は動悸が速くなったのを感じた。
セブルスは表情を緩めている。
あ、また、顔が火照る。

開心術を使われているわけでもないのに、目が離せない。
そう思うと胸がほんの少し疼く。
両方の二の腕を掴まれたが、後ろに半歩後ずさっただけでの動きが止まる。


「嫌いじゃないんだな?」

「ええ……そうだ、けど……あ……」


肩甲骨に腕が回された。
自分がとても女々しいことは分かっていたが、結局は私は女だった。
気恥ずかしげには唇を噛む。

恥ずかしい。


「良い顔をしている」

「良い顔って、どんな……!?」


がうろたえるが、セブルスはまたその行動も可愛らしく思えた。
どうして彼女は、こんなに少女みたいな行動をとるのだろう。
何も知らないわけでもないのに。
妙にどっしり構えているところもあるかと思ったら、これだ。

はオロオロとしているが、セブルスがその顔を捕らえた。
は半開きの唇のままだ。

顔が寄せられるのには唇を歪めるが、それでもそれは止まらない。
目が近くなる――近くなる――はぎゅっと目を瞑った。

あ……。


「……むっ……無理無理っ! 駄目だって!!」


は勢い良く顔を背けた。

そして手で自分の前にカバーを作るような行動をする。
セブルスはその行動を見て、ふうと息を吐く。
今度は強くの肩を握り、もう片方の手で腕を握った。

は怯えた中にも敵意のある目つきで、セブルスを見た。


「しつこい!」

「しつこいとはなんだ」


セブルスはまだ諦めてはいない。
は後ずさるが、それでは間に合わない。
胸が破裂しそうだ。

は顔を横に振るが、熱い顔が治りはしない。
この身体の反応。
私は彼が……好きなのか?
いや、それともこれは単なる条件反射なのか?


「――っ!!」


彼の姿を見るともうやってられない――は心を決めて、足を振るった。

弁慶の泣き所、という所だ。
向う脛を蹴られたセブルスは、蹲った。
……こんなこと、前にもあった気がする。

は荒く鼻息を吐いて、少し唇に笑みを浮かべた。
黒いマントを翻して仁王立ちになる。


「私みたいな女、一時の気の迷いなんじゃないの?
 一気にそんなこと言われたって無理! もー離してよ! 貴方、女の趣味が悪いわっ!」


そう吐き捨ててはセブルスに背を向け、足音高く歩き始める。
セブルスは視線を上げて、そのマントの背中を見ることしかできない。
女の趣味まで否定されたのだが。

はまだ動悸を止めない心臓に、嫌気が差していた。

ドアのノブを掴んでそれを引く。
後ろ髪を引かれている気がする……足を一瞬止めて、髪に隠れた顔を少し元にいた部屋へ向けた。

セブルスには揺れる髪だけが見えている。
は歯を噛んで躊躇してから、喉を開いた。


「じゃ、あ……またね、セブルス」


硬い音が鳴ってドアが閉まった。
足音が遠ざかっていく。

「また」という言葉と、初めて呼んだファーストネーム。
その声は少し迷ったように、揺れていた。

 

























2008/3/20






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