28.1/情報の代償
「ありがとう。じゃあ、これで終わるわ」
セブルスはを部屋に通してくれた後、案外と素直に彼女の質問に答えてくれた。
彼は渋々ながら彼自身の学生時代のことを語り、は熱心にそれを書き留めた。
先ほどのリーマスと話したことと矛盾はほとんどなく、の頭の中はブラックのことで一杯になった。
羊皮紙と羽ペンを消し、は帰ろうと立ち上がるが――その視線は否応無くセブルスの元へ向かう。
この部屋で「あんなこと」があってから、初めて二人きりになった。
その部屋に今現在二人きりでいる。
セブルスの表情は……やはり、少しこちらを睨み付けているように見える。
それは、の思い込みなのかもしれないが。
このまま帰ることはできない、と考えている彼女の。
「……情報の代償を求めていらっしゃるの?」
心中とは裏腹に、言葉は生意気であった。
セブルスの眉がぴくりと動く。
「私がそれを仄めかしたことは、周知の事実であるけれど」
足はセブルスの元へ向かった。
「お前はそういうことには慣れているのか?」
セブルスの声は低い。
「慣れていると言えば慣れているけれど――抱きついて泣き喚いて自分のことを語った人物相手には、慣れていないわ」
の視線はひたすらにセブルスの目へ向けられていた。
そこから何かを読み解こうかとしているかのように。
そうしている内に、の表情は鋭く引き締まったものから、困ってどうしたら良いのか迷っているようなものに変わっていく。
セブルスはふいに吹き出して低く笑い出した。
「な……なに……?」
「代償を払いたいのか?」
「貴方がいらないのならそんなの……!」
「来い」
腕を取られて、足が進む。
「払わなければ気が済まないのだろう?」
「そんなこと……!」
確かに、胸の中では情報をもらっただけで自分からは何もしない、ということについての罪悪感が少しはあった。
そして、セブルスとの関係についても、それと似たような感情を抱いていた。
また、彼への自分の気持ちを明確にしたいと考えている節も確かにあった。
しかし、どうしたら良いのかには分からなかった。
「……私は……腕を引かれて、どうしたら良いのか分からないの……」
「慣れているようにすれば良い」
「そんなことできないわ!」
ストンとセブルスの横に座らされたは、上に覆いかぶさるセブルスを見た。
の身体を閉じ込めるように、肩の両側のソファの背凭れにセブルスの手が押し付けられる。
「ね……ねえ……」
「何だ?」
「貴方は……私にどうして欲しいの?」
「そうだな。代償として……」
の顎を指先で持ち上げる。
怯えたような視線がセブルスへ向けられた。
「……いや。この場にいてくれれば良い」
「逃げるなって?」
「そうだ」
セブルスの指がの唇をなぞった。
指先についたルージュが生々しく光る。
しばし唇を弄んだ後、その指先を舐め取る。
二人の視線が絡み合う。
セブルスの目が細められた。
「代償を受け取っても?」
の表情は、大人の顔からむくれた子供のような顔に変わった。
「……そんなことを訊かれるより、嫌がっているのを無理にされる方がましよ……!」
セブルスはふと唇の端を上げた。
「では、後者を行うとするか」
の肌に黒い影が降り、の爪がソファに突き刺さった。
身体をなぞるようなセブルスの動きに、は視線をそちらから逃がす。
しかし、彼はの肌を外に晒そうとはしない。
「さっきまでお喋りだったのに、もう口を開かないのか?」
からかいを含んだ言葉に、は躍起になって返す。
「何か言ってあげましょうか? ベッドに行ってよ!」
「了解した」
すぐに身体が持ち上げられ、あっという間にベッドの上に落とされる。
白いシーツの上に髪が乱れた。
ブーツが脱がされ、ローブの裾がたくし上がり足のラインが露になる。
引き締まった脹脛にセブルスの手が触れる。
彼は。
私が腕の闇の印を見せることができ、抱きついて泣き喚いて自分のことを語ることができた、唯一の男だ。
それができたのは、彼が私と同類だからだ。
私と同類……。
は眩しそうにセブルスの方を見た。
彼は私を求めている。
私も、彼を――。
私だけのものだけであった身体が、他人の手に触れられる。
私の身体も彼に触れる。
独りではない。
何故彼が、私を欲して、求めて、愛して、抱きたいのかが、分かったような気がした。
ぎゅっと唇を噛んで、手のひらを握って、分かったつもりのそれを心に抱きながらも、それから目を逸らして時が過ぎるのを願った。
いつまで目を逸らしていられるのか、自信がなかった。
「ルーピンの部屋で、何故あんな言い方をした? まるで誘っているようだったぞ」
「……ええ、誘っていたのよ」
「……」
「その結果がこれだわ。欲しかったものも手に入れることができた。……それよりも、私、貴方の考えていることが、少し、分かった気がする」
はシーツを身体に巻きつけて身体を起こした。
「でも、私がそれに応じた方が良いのかは……まだ分からない」
はセブルスへ顔を向ける。
怒っているわけでなく、優しい目をして、少し頬を染めて微笑んだ。
「貴方のことは嫌いじゃないのは確かだけど、セブ」
続けて優しい目を刺々しいものに変えて言う。
「でも、調子に乗らないでね」
「……ベッドの上でそんなことを言われるのは初めてだな」
2010/11/27
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