28.4/愛情の表現














「た……誕生日?」

「そう。今日はセブルスの誕生日だよ。知らなかったの?」


が手に持っていたカップの動きが止まった。
リーマスは、セブルスととの経緯をちょこちょこと聞きだしながら、この茶会を楽しんでいた。
その茶会の最高の楽しみはここ、とばかりにリーマスはにこにことを観察する。


「あの人の誕生日なんて覚えてないわ……」

「教えてもらってない、じゃなくて、覚えてない、なんだ」

「ええ。あの人の調書を眺めたことがあるから……いえ、そんなことより……」


はカップをテーブルに置き、手の平をぎゅっと握り締めた。


「今って……もう……夕方よね」

「そうだね」

「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」

「だって、知ってると思ってたんだよ」


リーマスを責めても仕方がないと分かっているが、きっと、この男はあえて今このことを言ったのだということは分かる。
こういう厄介ごとは好きなのだ。
それも、私とセブルスに関することは。
しかし、今更こんなことはどうでも良い。


「プレゼント……どうしよう……」


料理などは屋敷しもべ妖精に頼めばどうにかなるし、私が一番思い煩うところはそこだった。
今から買いに行くのは――不可能ではないが無茶な気がするし、彼が欲しいものがまず簡単に思いつかないのだ。
いや、欲しいものならば予想はできる。
しかし、それが誕生日プレゼントに相応しいのか、それを私からもらってセブルスは喜ぶのか――その辺りを判別することが難しいのだ。


「私から何をもらったらセブルスは嬉しいと思う?」

「恋人からもらうものねえ……」

「こ、こいびと……」


「恋人」という響きはむず痒くなる。
しかし、この前にこちらからもセブルスにあんなことを言ってしまった以上、この定義に間違いはないのだろう。
私がうろたえるのをまた楽しげに見るリーマスは、気軽に口を開ける。


「君から迫ったことはあるの?」

「え? ……私、酔った弾みで迫ったらしいけど……」

「じゃあ、素の状態で迫ってみたら?」

「え?」


その言葉の意味を理解すると、さっとの顔に朱が走った。
可愛いなあとリーマスはそれを眺める。


「愛をあげたら良いじゃない」


苦虫を噛み潰したかのように、は言う。


「「愛」というか――「身体」をあげろっていうことじゃないの」

「男はそういうのが好きなんだよ。それに、どうせ君から迫らなくたって、その内セブルスから迫るって」

「……そんなの……」


顔を顰めた


「恥ずかし過ぎる……!」


手で顔を覆ったが、その隙間から赤くなった頬が見えた。















今日は自分の誕生日だったと、が言ったことで思い出した。
彼女は屋敷しもべ妖精に計らったようで、豪華な食事とささやかなケーキを部屋へ持ってきた。
その祝ってくれる気持ちを無下にするわけもなく、このように誕生日を祝うなど久方ぶりだと思って、笑顔を見せるに気持ちが浮き立つ。
食事を終えると、はリーマスから預かったと言って、一つの小包をセブルスへ渡した。
セブルスはその封を開けることなく、側へ置いた。

何かを待っているかのようなセブルスがありありと分かって、は気まずいような気持ちになった。
確かに、リーマスとの茶会からキッチンへ行き屋敷しもべ妖精へお願いをして、吸魂鬼の警備へ校門へ行きホグワーツを一回りして……。
それから、セブルスに会いにこの部屋に来た。
プレゼントを買っている暇などなかったのだ。
言葉を選ぶ。


「貴方が私から何が欲しいか、私は考えるのが難しくって……」


手がテーブルの下でローブを握り締めた。


「あの……」


セブルスが不可解そうにを窺った。
その視線をもらって、本当のことを言おうかと思ったが、それはあまりにも――趣がないというものだ。


「どうかしたのか?」

「あえて聞くけれど……貴方は私から、何が欲しかった?」


セブルスの眉が上がり、どうしてそのような質問をするのか訝しがりながらも、その答えを考えているようだった。


「――最も欲しかったものは以前にもらっている」

「じゃあ、その次に欲しいものは?」

「……


セブルスの手の平が、の髪を滑り、頬へ触れる。
その輪郭を確かめるかのように動く。


「我輩が望むものをくれるのか?」

「今あげることができる、準備がいらないものだったら……是非とも差し上げるわ」


セブルスは目を細めた。


「前にも似たようなことがあった。情報の代償として、お前にその場にいることを望んだ」


セブルスは暫し思考している間も、を探るように見ていた。
そして、ふと唇に意地悪な微笑を見せて言った。


「お前から我輩が欲しいと予想しているものをくれないか? 。我輩は何も言うまい」


――ああ、この男は、私のことをよく知っているのだ。
求められたならば応えよう。
しかし、こちらからだけ、求められてもいないのに動くだなんて……。


「……ヒントをちょうだい」

「準備が不必要で今すぐにでもできること、ということにしておこうか」

「差し上げるものは……情報の代償と同じもので良さそうね。
 男の方はきっとそういうことがお好きなのでしょう。よく考えたら、あれからとても日が経っているわ」

「お前は嫌いかね?」


唇をきゅっと引き締めたは、息を吐いて答える。


「嫌いなら……貴方にこういうことを持ちかけないわ」

「なるほど」

「シャワーを浴びてくるわ。バスルームを貸してくれる?」

「ああ」


は逃げ去るようにその場から立ち去った。















こんなことになるなら、何か良い下着の一つでも買っておくんだった――。
機能性重視の衣服しか持っていないせいで、風呂上りなどパジャマ以外持っていない。
流石にパジャマはどうかと思ったので、ショーツと黒のキャミソールを着ていたが、寒くなってきたのでその上からジャージを履いた。
ちなみに、ジャージというのはマグル界の便利な動き易い衣服だ。
そして、何という偶然か、それを履いた途端にバスローブを纏ったセブルスが現れた。
……そうか、私もバスローブを着ておけば良かったのかと気づいた時、セブルスはこの格好を見て吹き出した。


「ご……ごめんなさい! 私、そんな、気の利いた下着も何も持っていなくて……」

「それは分かっている。そのズボンは見たことのない材質だ」

「マグルの世界のもので……とっても動き易いのよ」

「お前らしいな」


セブルスはベッドの上に腰掛けた。


「それで、どうしてくれるのだ?」


ああ、この人は、私を困らせて楽しんでいる!
がどうしようかと動けずにいる間、セブルスはの格好を眺めていた。


「似合いそうな下着でも贈ろうか?」

「え!? それは……ちょっと困るというか……」


の狼狽した様子を楽しみ、キャミソールとジャージの輪郭から窺い知れる、鍛えられて無駄のない身体を思い出した。
こうして改めて見るむき出しの肩から腕にかけてのラインが、ジャージで隠されている足のラインが、何とも言えぬ昂揚感を生む。

は、いつもならば、どうして欲しいかと聞くところだが、今日はそれは禁句である。
それがに苦痛を与えていた。

はゆっくりとセブルスへと近づき、隣へ座り、その肩へ頭を預けた。
そしてセブルスの腕を手で掴み、その腕を己の身体へと回し、これで良いのかと尋ねるかのように視線を合わせる。
向かい合った後で、そっと以前したように目を瞑って唇を合わせ、己から小さく唇を開いた。
の口内が熱いことから、もう彼女が顔に熱を上らせていることがセブルスには分かった。


「私……どうしたら良いのか、本当に分からなくて……」


唇を離した後に、困り果てた子供のように、本当に申し訳なさそうにがそう言うものだから、セブルスは微笑ましい気持ちになった。
それに、少し意地悪をし過ぎたのかもしれない。


「この前、酒に酔った時のようにすれば良い」

「覚えてないもの」

「では教えてやろう。この次に、こっちに縋りついて身体を押し付けてきた」


の口がぽかんと開いた。
自分がそんなことをしていたのかという狼狽と、今からそれをしなくてはならないのかという戸惑いが、ありありと顔に浮かんでいる。
は口を閉じると、拳を握って、唇を噛み締めた。
それが踏ん切りだったかのように、はセブルスへ身体を擦り寄らせた。
そしてセブルスが違和感を覚えると同時、なんと、はセブルスをベッドの上へ倒し込んだ。
はセブルスの首元に唇を下ろし、きつく吸った。

セブルスが目線を上げると、キャミソールから彼女の胸の谷間が見えたので、キャミソールの紐を戯れに肩から落としてやると、は肩をすくめた。
屈んでいるの腰からジャージをずり下ろそうとすると、またもの身体はビクリと震えた。
――なるほど、これはゲームなのだ――。

セブルスは容易く上下の関係を入れ替えることができた。
元々、下でいるのは本位ではなかった。
しかし体勢を入れ替えても、セブルスはねちねちとに自主的な行動を求め、苛め抜いた。















「貴方が求めていたものが分かったわ」


は息を吐いて、肩を下ろした。


「貴方は、私を苛めたかったのね。貴方、苛めるのはお得意だもの。苛めるには私が自主的な行動を取らなきゃ駄目なわけよ」

「随分と辛辣だな。……嫌いになったか?」

「それくらいでならないわ」


またも大きく息を吐いた。
良い子だとでも言いたげに、セブルスがの頭を撫でた。


「実は――私、プレゼントを準備する時間がなかったの」

「それで?」

「それで、こういう方法に打って出たんだけど……満足して……もらえたかしら……?」


セブルスは不安そうなの瞳を見て、小さく含み笑いをした。
そんなことを今更聞くだなんて。


「また頼む」


の表情が驚いたように固まってから、その小さな眉間に皺を見せた。


「特別な時しかやってあげないんだから……!」


そうかそうかと、セブルスはこの気位の高い女性を撫でた。
今度は似合いそうな下着でも見積もってやろうと考えながら。
恥ずかしがる彼女の姿がありありと予想でき、それを後の楽しみとして閉まっておくことを心の中で取り決めた。

はおずおずとセブルスを見つめ、その視線にセブルスが応えると、唇に微笑みを見せた。
その唇で小さくセブルスの頬へ口付けると、囁くように言った。


「私、貴方のことが好きだわ」


これが彼女の愛情表現だった。
そう言うと、急に顔を真っ赤にさせて顔を伏せて黙り込んだ。



























2010/12/29






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