38/final days














医務室を出て預言者新聞を読んで分かったことだが、私はどうやら世間の評判をさほど落としていないらしい。
は拍子抜けしたような感覚を覚えたが、まあ良いか、と軽く流した。
脱獄犯を抜けぬけと逃がしたのに、その場にいた闇祓いを責めないなんて。

それにはどうやら大臣の手引きがあったように見え、は妙に自分を気に入ってくれている大臣を心に思った。


学年末の宴会が終わり――寮杯はグリフィンドールでセブルスが何ともいえない顔をしていたけど――は校門へ出た。
最後に、声をかけたい子達がいる。
「先生」という名目を果たせたのかは、分からないけれど。


「ドラコ!」


父親譲りの髪の色を発見して、は彼へ駆け寄る。
ドラコはびくりと反応して、その声に振り向いた。
お供の二人がを避けるように動いて、はそれに会釈をしてから、ドラコの前に立つ。


「一年間、私みたいな人がいたから嫌な思いをすることがあったでしょ? 改めてごめんなさい。
 私はこれでもう戻る所に戻るから、来年度からは安心して。
 それと、貴方のお父さんに改めてよろしく伝えておいてもらえないかしら」


ドラコは黙って頷いた。
はにっこり微笑んで、挨拶をして颯爽と其処を立ち去った。

ドラコはじっとの後姿を見ていた。
しかし、の心の中はルシウスに対する皮肉で満ちていた。
よろしく、という言葉には様々な意味が含まれている。

そしてまた生徒の波をかき分けかき分け、はまた目当ての生徒を見つける。


「ハリー!」


稲妻の傷を持った少年が其処にいる。
同時にロンとハーマイオニーも立ち止まる。
は三人の前に辿りついて、ふうと息を吐いてから、三人の顔を眺めた。


「貴方達のことは、賢者の石事件も、秘密の部屋事件についても、話は聞かせてもらっていたわ。
 今年実際に貴方達と会って、一体どんな子達だろうと思ってた――この前の夜はとても素晴らしかったわ。
 闇祓いとして、お礼を言いたいの。ありがとう」


は三人に順に握手していった。
三人とも気恥ずかしげながら、屈託のない笑みを浮かべていた。


「それと、ちょっと」


は手をこまねきする。
それに合わせて、三人の耳がの口元に寄った。
は低く声を潜めながらも、はっきりと言う。


「ブラックに関しては、私が責任を持って裏から手を引かせていただくわ。シリウス・ブラックを追うのは闇祓いの仕事よ」


四人でにやりと笑った。
はマントの中で腕を組んで、まじまじと子供達を見つめる。

やっぱり、見所あるよな。


「将来の夢ってある?」


え?、と揃っていきなりの質問に疑問符を飛ばす三人に、は面白くなって笑う。


「候補に入れておいてくれない、闇祓いも。貴方達、見所あるわ」

「僕も?」

「ええ、ロンも」


ロンが、やったあ、とばかりに嬉しそうだ。
ハリーとハーマイオニーもまんざらでもなさそうな顔で、立っている。


、俺らの弟を簡単に勧誘するなよ」

「闇祓いの試験といえば最難関だぜ」

「あら、貴方達と違ってロンはまだ三年生よ? 希望があるわ」


は唐突に現れたフレッドとジョージに、毅然と言う。
フレッドとジョージはの台詞に顔を見合わせるが、またに顔を向ける。


「あれ? 先生って呼べとはもう言わないんだ?」

「だってもう「先生」は終わりだもの。これでやっと元の生業に戻れるわ」

、先生は嫌だったんだ?」

「そうじゃないけど、やっぱり十何年と勤めてきた仕事に比べたらね……向こうの方が安心感があるって言うか」

「闇祓いが安心感あるって、どんだけだよ」


は最後に子供達に手を振って、分かれた。
彼らも彼ららしく、手を振り返してくれた。















は、生徒が帰って誰もいない廊下で、歩きながら一枚の羊皮紙を開けていた。
その羊皮紙の差出人へ目を向ける。

シリウス・ブラック。

校長室でこれをもらった。
生徒がいないから、これを廊下で読むことが出来る。

勿論、受取人はだ。





Dear 


……「Dear」は余計だ。


あんたに命令されたように、俺は現在南の方へ逃げて、一旦うまく隠れることが出来た。
もうすぐ其処で姿を現そうと思っている。
そうしたら、ホグワーツの警備は解かれるだろう?
あんたが言っていたように、もう他人様へ迷惑をかけることはやめにしたいからね。

それで、これからダンブルドア経由であんたに俺の身辺の情報を渡すことにする。
ダンブルドア経由なら、魔法省で働いているあんたにも影響が少なくて済むという考えだ。
これからまた用事を頼むことになるが、要領の良いあんたのことだから、うまくやってくれると信じている。

あんたの杖は、今度会う時、絶対に返す。
それと最後に一言言っておきたいんだが、俺はあんたと違って、俺はあんたのことを嫌っていないからな。

Good luck!





何だこの手紙。

は眉を寄せて、深く溜息を吐いた。
ああ、この男を私は守らなくちゃいけないのか。
前途は多難かもしれない。










*











その後一週間、にはホグワーツでの時間が残っていた。
その間に全ての報告書をまとめる必要があり、また荷物の整理、部屋の掃除もしなくてはならない。

は最後のつめを魔法薬学教授の私室の、すっかり居慣れたソファーで行っている。
セブルスも同室のデスクで仕事をしていた。

は掠れてきたペンに、もう一度インクを浸して羊皮紙をもう一枚引き寄せる。
前のものは隣に乾かすために置いておく。
カリカリという羽ペンの音、カサカサという羊皮紙の音が絶え間なくこの部屋に満ちていた。


「ああそうだ、新聞に載ってたっけ?」

「何だ?」

「反人狼法の制定について」


はセブルスに顔を上げるけれど、セブルスからは何の反応も得られない。
元々こういう人だとは知っている。
だけれど、これを言わずに此処を立ち去るのは嫌だった。


「事実上、これで人狼の就職が不可能になったわ」

「……そうか」

「そうじゃなきゃ、私もあそこまでリーマスのことを心配しなかったわ。この法律が定められることは知ってたから」


部屋に沈黙が訪れる。
はこともなげに口を開く。


「作ったのはドローレス・アンブリッジ上級次官」

「魔法省のコネでのし上がった女か」

「で、どうしても私と意見を共有できない人」


はもう数行で終わる羊皮紙に、羽ペンを動かす。


「嫌いなのか?」

「私は、今まで、彼女以上に私と正反対の意見を持つ人は見たことがないわ」


もうちょっと、もうちょっとで終わる……で、ピリオドを打って。


「報告書完了!」


は嬉しそうに身体を伸ばした。
手は羽ペンを持ったまま、手の平が天井に近くなる。


「こっちも終わったぞ」

「あら、奇遇ね」


セブルスは羽ペンを置いて、小さく身体を伸ばす。
そして羊皮紙の束を重ねて机の端へやる。
椅子を降りて、のいるソファーへ寄って、の後ろから背もたれに腕を乗せた。

は身体を後ろへひねって、立っているセブルスへ顔を上げる。


「お疲れ様。先生って大変なのね」

「お前も先生をしていたじゃないか」

「まあ、名前だけの?」


クスリと笑う。
しかしセブルスは笑わなかった。


「いつ魔法省へ?」

「明日」

「そうか」


はそう言うセブルスをじっと見上げる。

そして、大きく背凭れに身を預けた。
首に背凭れが当たって、髪が広がり、顔が上に上がってセブルスと視線が合う。


「私、何をしに此処に来たんだろうな」

「どうして?」

「だって、本来の目的の捕まえるべき男はあんなのだったし。私が此処に来た意味なくない?」


そう言っているの顔は、言葉に反して半ば笑いじみたものだった。


「本当に来た意味がなかったと、思っているわけじゃないだろう?」

「だってー、何か元を辿ったら情けなくなっちゃって」


は腕を上に伸ばし、セブルスの首に腕を絡ませて引き寄せて、座ったまま唇にキスをする。
唇をゆっくりと離して、凛とした声に笑みを混じらせて。


「ま、来て良かったって思ってるけど」

「それは良かった」

「うん。貴方も良かったでしょ? 私が来て」

「――ああ」

「じゃ、良かった」


はセブルスの首から腕を離す。
上機嫌なままで、側にあった報告書を袋に入れて、封をする。
これで本当に仕事は終わり。

は何気なくセブルスに顔を上げる。


「部屋全部片付けちゃって何もないから、今日泊まらせてくれない?」

「お前、片付ける前からも何も言わず泊まってなかったか?」


セブルスが呆れたように言い、はにこりと微笑む。

この部屋にこうしてしっくり居座っていられるのも、当分お預けだ。
この心地良い空間をまた感じることが出来るのは、いつになるだろう?



























2008/8/27






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