24.5/掌中之珠痛惜














その女の身体は、今まで晒されたどの女の裸体よりも、しっかりとしていた。

少し力を入れれば筋を見せる筋肉。
筋肉が張り、程良く引き締まり、無駄な脂肪がついていない身体。

そして、その肢体には、幾多の古傷が刻み付けられていた。
右の下腹部、胸の上、肋骨の下、肩、腕――形状がそれぞれで数え切るのが面倒な傷跡。
その中には、明らかに傷を負った時にきちんと処理していれば綺麗に治っていただろうものがあった。
さらに、今でも、治そうと思えば簡単に治るだろうと思われる傷跡までが、白い皮膚に醜く爛れて刺青のように刻まれている。

刺青のような跡は、もちろん左腕にも刻み込まれていたが。

その身体は一種の色気を持っていた。
脱がせる前にはただの細い身体だとしか認識していなかったのだが、脱がせると彼女は均整の取れた肉の張った身体をしていた。
無論、柔らかい肉が胸へ尻へとのっている身体とは、違う色気である。
彼女は、この脂肪の少ない身体で、よくぞここだけに脂肪をのせたという胸をしており、豊満という形容からはかけ離れている。

女性的なラインを残した身体で、悶える度に筋の浮く足と腹、腕に、何ともいえぬ高揚感を感じた。
汗の雫の浮く傷付いた肌は、古傷のない所は見た目と裏腹にしっとりと手触りが良かった。


それに加え、それ以上に、は頬を赤らめ――彼女は案外赤面症だ――口をぎゅっと閉じてずっと顔を顰めているが、ふとした瞬間にその顰めが解かれるのだ。
そして、上気した頬で、悩ましげに眉を寄せ。
徐々に唇は開いてゆき、小さな呼吸を繰り返すようになる。

は時折戸惑ったような顔を見せていた。
身体の反応から、多少の慣れは感じることはできたが、久し振りの情動には恐れと不安を持っているらしい。
状況からいっても、それをが持つのは当然のことだが。

過去の感覚をゆっくりと掘り起こし、鈍感な身体から快楽を生み出す作業は時間がかかった。
その間、は目に涙を浮かべ、身を震わせ、シーツを握って熱い息を吐き、それに耐えていた。
恐る恐るこちらへ縋るように上げた顔は、穢れを知らない少女のように幼かった。

しかし、表情に対し、その言葉は自棄に満ちて鋭くて辛かった。
好きにすればどうだ、と。

目尻に涙を溜めて言う者の台詞ではない。
揺れる唇が吐く言葉ではない。
台詞に対して、その身体はほの赤く染められて、小さく震えていた。

求めていたものを得た時、彼女は初めて柔らかい唇を開けて女の甘く蕩けた言葉を吐いた。















もっと乱暴にして欲しかった。
ただ、肉と情を貪るように。

過去に出会ったあの男たちのように触られたら、終わった後に笑んできっぱりと離別を言えるのに。
じっと彼を見据え、馬鹿にした笑みを浮かべて、私らしい言葉を言うことが出来るのに。

なのに、何故そんなに優しく触れるの?

こっちを労わって触れてくれるの?

そんなもの、いらないのに。
欲望だけを求められた方が、どれだけ楽だっただろうか。
私はただの機械じかけの娼婦となり、その時が過ぎるのを待てば良い。
彼はそういう人だったと。

そして目が覚め、冷たい言葉を吐けばそれで終わりなのだ。


そんな感情をこっちに向けないで。
愛なんて鎖のように重い。
そして、私はそれを己に繋ぐ枷を捨てた。

鎖は首を締め付け、ただ苦しいだけ。
分かって。
私のことを好きだと、愛していると、想ってくれるのなら、分かって。

応える方法はもう忘れた。
忘れたんだから、お願い、もう与えないで。

その感情が怖い。















彼女の目は拒絶していた。
当然だろう。
これはただの、レイプだ。

最初の目の色は鋭かったが、情に流されるにつれ、その目の色はゆるんでいった。
ただ快楽に流されているだろうことは分かっている。
しかし、それが己を受け入れてくれているかのような錯覚を抱かせるのだ。

華奢な女の形をした身体、さらりとした髪、唇や目の周りに化粧の施された表情が、全て己の支配下にあるかのような。
それは独占欲を激しく満足させた。
今まで、あのように凛とした面持ちで、闇祓いとして男以上の働きを見せていた彼女が惚けている。
目の前には自分しかいない。

失ったものを取り戻そうとするかのように、その身体に触れた。
長い間懸想し続けていた相手の身体は、青さを残して熟れており、それもまた独占欲を満足させた。

古傷を辿ると震える身体、潤む瞳、力の入らなくなった彼女の肢体、身悶える薄く牡丹色に染まった手足。

かつて鋭い言葉を吐いていた唇は、意味を成さない声を時々上げる。

恋しい。
その身体も、その内に秘められている感情も。
普段の凛とした立ち居振る舞いも、今のあられもなく晒された肢体も、衝動に突き動かされる頬も。

こっちを見て欲しい、というのは単なる我が侭だというのは自覚している。
だから、今、この一時を――ただこの一時だけを――。

彼女の目も髪も、己と同じ闇を映す黒色で、腕には同じ罪の証が染み付いているけれど。

彼女の目も髪も、己と同じ闇を映す黒色で、腕には同じ罪の証が染み付いているから。














痛いほどの白くくぐもった感情を向けられている。
私はそれを受容する器を持ってはいないのに。
欠けた胸を完全に包囲したそれは、その中へ今か今かと進入せんとしている。

欠けた所を生暖かく、まるでそこを埋め合わそうとしているかのようだった。
それは恍惚とした脳に案外心地良く感じられた。

恐ろしいほどの痛い感情は、ことが終わった後には弱まるかと思えば、そうとはならなかった。

終わった後もそれはじりじりと肌を焼き、思わず私は心が揺らいだ。
しかし、その揺らぎを恐怖によって一瞬で元に戻す。

感情に反して、口はいつもの私が言うだろう言葉を、生意気に吐いた。

今までのことをなかったかのようにするために。
汗ばんで火照った身体を、無視するために。

腹の中に孕む愛から目を逸らすために。


















2009/2/12






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