三人で一つの紙を覗き込んだ。
マントを着込んだ大人が一つに固まり、電灯の元でそれを真剣な顔で見つめる様は、滑稽なものだった。
すぐ側にある家からテレビの音が漏れてきている。

その中で一番小さな影が、残りの二人に目配せをした。
三人は同時に頷き、羊皮紙は一瞬にして燃えて跡形もなく消えた。
三人は周りの家を見渡し始め、その中の一人が、十一番地と十三番地との間を指差した。

先ほどの羊皮紙に書かれていたことを考える。
そうすると、建物と建物の間が広がり始め、新たな建物が現れ始めた。
その建物の様子をまじまじと観察する前に、三人はその石段を急いで駆け上がる。

目の前に銀の蛇がとぐろを巻いたノッカーがあったが、それに触れず、杖で扉を叩いた。
扉を引き、三人はグリモールド・プレイス十二番地に足を進めた。














序章/Grim Old Place














扉が閉まると、真っ暗闇だった。
扉が重い音を立てて軋んで閉じると同時に、足元から煙が舞い上がった。
目でそれは確認できなかったが、ざらざらとしてしきりに咳をしたい欲求に駆られる喉がはっきりとその存在を知らせた。

トンクスが激しく咳き込む。


「何これ、ひどい! 埃がひどすぎるよ。それに、黴っぽいひどい臭い……」


トンクスの目の前にぼんやりとした明かりが点った。
キングズリーの杖の先に明かりが点され、三人の顔がかろうじて分かるようになる。
トンクスは、とキングズリーが黙ってマントで鼻と口を押さえているのを見て、眉をしかめながらそれに倣った。


「静かに奥の部屋に足を進めるよう、アラスターに言われているわ」


トンクスは口を閉じ、二人の後を追った。
二人は目配せで行き先を示し合い、必要最低限の光で、明るい方で足を進める。
長い両開きカーテンの前を通り、階段の前を通る。

その時、はふと何かに気づいたかのように足を止め、階段を見上げた。
そして無言のまま、階段の方へ足を進め始めた。


が奥の部屋に行くって言ってたのに、寄り道する気!?」


トンクスの制止の言葉はの耳に届いているのだろうが、足は止まらない。
キングズリーは怪訝な顔での後を追った。

はじっと、壁にかけられている飾り板を眺める。
暗くてそこに何があるかはっきりと分からない。
その時、その場に光が広がった。

が顔をつき合わせていたのは、屋敷しもべ妖精の醜い首だった。
は大きく息を吸い込み、顔を階段へ上げた。


「ようこそ! グリモールド・プレイス十二番地へ」


大きく手を広げた男が立っていた。
顔には満面の笑みが携えられている。


「悪趣味なお家ね。ブラック」


は、目の前の屋敷しもべ妖精の首を嫌悪の視線で指差しながら答えた。
ブラックは鼻を鳴らして苦笑する。


「同感だ。この家に防御の魔法をかけるのに必死で、人間が住める環境にまでこの家を整備することはできていない。
 まあ、この家を徹底的に掃除したところで、この陰鬱な雰囲気を全て消し去ることはできないだろう」

「では、どこで会議をするんだ?」

「厨房だよ、キングズリー」


シリウスとキングズリーは視線を合わせると、握手した。
お互い笑みを顔に浮かべている。
まるで、長年顔を合わせていない旧友に会ったかのようだった。


「知り合いなの?」

「学生時代のね」

「……こいつらには、世話を焼かされたよ」


いや、今も十分世話を焼かされているが。
キングズリーが呟く。
去年一年、キングズリーが公式にシリウス・ブラックを追う責任者となり、捜査を撹乱する役目を負っていた。
その役目はこれからも続くだろう。

シリウスは、ばんばんとキングズリーの背を労をねぎらうかのように叩いたが、キングズリーは顔をくしゃりとして微笑むだけだった。
シリウスはもう一人の魔女の存在を目に入れた。


「ニンファドーラだな」

「私のファーストネームを呼ばないでよ」


トンクスの髪の色がピンク色から、濃いパープルに変化した。
唇を尖り、眉は逆立つ。
シリウスはその様子をまじまじと見つめ、気を取り直して言う。


「トンクス。君のことは……」

「あなたのこと、ママからよーく聞いてるわ、シリウス」

「ドロメダは元気にしているか?」

「うん!」


そのまま楽しげに会話を始める二人に、キングズリーとは置いてけぼりを食らう。
何だ、全員がこの屋敷――ブラック家の現主人と知り合いだったのか。
は頬をかき、いい加減にしろと口を開こうとするが、先にキングズリーが口火を切った。


「シリウス、厨房へ案内してくれ。今日はダンブルドアも来るんだろう?」















ブラックは客人がとても嬉しいのだろう、とは思った。
これでも指名手配犯の彼である。
この屋敷から出るなとダンブルドアからのお達しがあったらしいし、この屋敷の中で随分とフラストレーションを溜めていたのだろう。
それに、彼はあまりこの屋敷が好きではないと思う……いや、こんな屋敷を気に入るのは、生粋の純血一家のみだろう。
……いや、ルシウスがこの屋敷を気に入るとは思えない。

は明るくなった屋敷内を見回す。
ブラックが、玄関ホールの明かりを点けてくれたのだ。

この屋敷が随分と古ぼけ、壁紙が剥がれかけ、天井には蜘蛛の巣が張り巡らされていているのは、この際無視しよう。
蜘蛛の巣だらけのシャンデリアにも、テーブルに置かれた燭台も、そこのドアの取っ手も、全て蛇のモチーフがつけられている。
以前マルフォイの屋敷には行ったことがあったが、あそこはここよりずっと趣味が良かった。
ここまで蛇を前面に押し出すことはなかったし、屋敷しもべ妖精の首なんかが飾られていたら、マルフォイの奥方は悲鳴を上げるだろう。

少なくとも、「マルフォイ」はそれだけ正常だった。
――時代の変化のせいもあるのだろうとは思うが。
この屋敷は、十年ほど放置されていたらしい……が、これは私には受け入れられない。

趣味の悪い傘立てを見て、そう思う。
これは、トロールの足を切り取って作ったのだろうか?


「こっちだ」


ブラックは、ホールから地下へ降りる階段の扉を開く。
狭い階段を降り、扉を開けると、そこには十人ほどの魔法使いたちがひしめいていた。
厨房らしいその部屋は、天井からは釜や鉄鍋が吊り下げられ、奥で暖炉が燃えていた。
少なくとも、ここだけは人間がいられるように掃除をしたようだった。


「やあ、

「リーマス」


扉の近くの椅子に、彼は座っていた。
リーマスは、以前顔を会わせた時よりも、随分とやつれていた。
着ているローブの継ぎはぎだらけで、この一年でどうしたのだ、とは思った。
しかし、決してはそのことを口に出さず、黙って微笑んだ。

キングズリーとシリウスが顔見知りだったのと同様に、キングズリーはリーマスとも顔見知りだった。
部屋にいた初対面の魔法使いたちと軽く自己紹介をし、の足は厨房の奥へと向かう。
が向かった先には、ムーディがどっかりと椅子に座っていた。

ムーディは無言で隣の椅子に手をかける。
は促されるままに、そこに座った。


「これで全員じゃないわよね」

「ああ。もう既に任務に就いている者も多くいる」


とムーディは低く会話を始める。


「ハグリッドは、マダム・マクシームと共に、学期が終わってすぐに旅立った。巨人の集落へ向かっている。
 そこのビルは、エジプトからイギリスへ戻って来た。グリンゴッツのゴブリンの様子を探っている。
 リーマスは、人狼のコミュニティに入り込もうとしている」


リーマスのやつれ方の原因が、分かったような気がした。


「ハリー・ポッターの護衛は、彼がマグルの元へ帰ってから、ずっと継続して続けられている」

「ところで、肝心の私たちのボスはまだ来てないの?」

「ボスの登場は遅れる、と大抵相場は決まっておろう」


なるほどね。
は肩を落とし、椅子の上で足を組んだ。

それにしても、ダンブルドアは多種多様な人物と接点があるようだった。
この部屋に集まった者の中には、まるでこそ泥のような人物や、魔法の気配が全く感じられないスクイブのような人物もいた。
純血の魔法族がほとんどである死喰い人の軍団とは、まるで正反対だ。

は自らが降りてきた階段の方へ目を向け、唇に手を当てた。
唇の両端がつり上がる。


「来たわよ」


ドアが開くと、全員の視線がその人物へ突き刺さる。
ゆったりとした長いローブを着た、白い長い髭を蓄えた老魔法使いが、にこやかに立っている。

アルバス・ダンブルドア。
不死鳥の騎士団の設立者であり、この屋敷の秘密の守人である。



























2009/9/10






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