07/予期せぬ攻撃














アーサー・ウィーズリーがとても慌てた様子で厨房にやって来て、着くなりそこにいた全員に告げた。
ハリー・ポッターが吸魂鬼に襲われ、魔法を使って未成年の制限事項にひっかかってしまい、魔法省に処分を下されたこと。
ダンブルドアが今魔法省に向かい、事態を収拾しようとしていること。
そして、ここにいる限りの騎士団員は、ダンブルドアがここに着くまで待機して欲しいということ。

シリウスは慌てた様子で立ち上がり、厨房から出て行った。
ハリーにフクロウでも送るのだろうか、は考える。

ハリーに魔法を使わせてはならない。
叔父と叔母の家から出させてはならない。
ダンブルドアが、騎士団員に口を酸っぱくして言っていたことだ。
彼の叔父と叔母の家には強い魔法がかかっていて、あそこにいる限りハリーは安全らしいと聞いている。


「誰が担当だった?」

「マンダンガスだ。彼がこのことをダンブルドアに知らせた。私は、魔法省でダンブルドアに呼び出されて、彼の指令ですぐにここに来たんだ」


アーサーは苦笑を見せ、ムーディは眉をひそめて怒りを見せた。


「確か、ハリーは未成年魔法使いの制限事項に、昔にひっかかったことがあったのよね? 今回また違反したら、その処分は……」

「退校処分と杖の破壊だ。ダンブルドアが一番恐れていたことだよ。もちろん、そんなことはさせない」

「魔法省は喜々としてその処分を行うでしょうけど」

「ダンブルドアがどうにかしてくれる。私たちはここで待つしかないよ」


は冷静に述べ、考えるように顎を撫でた。
今、ヴォルデモートの復活を唱えるハリー・ポッターは、魔法界の爪弾き者となっている。
全て魔法省の陰謀だ。
預言者新聞に書いてあることは全て魔法省が操作し、世論を都合の良いようコントロールしている。


「吸魂鬼を、魔法省はコントロールできなくなったってこと?」

「以前にアズカバンに行ったのだろう? そんな節はあったか?」

「いいえ。そんなことはないわ」


ぎゅっと眉を寄せて、解せない吸魂鬼の行動の意味を解き明かそうとする。
ムーディはそのようなを眺め、ふうと息を吐いて淡々と述べる。
呆れているようで、確信を持っているかのような口調だった。


「魔法省が放ったな」

「そんな! いくら魔法省があんなのでも、そんなこと――!」

「闇の勢力がこの時期にこんなことをする、ということの方が、わしにとって理解し難い。まさか、偶然ポッターの所に吸魂鬼が迷い込んだわけはなかろう」


いくらあの魔法省でも、こんな非人道的なことをするわけがない。
はムーディの意見を許容できなかった。
ムーディはそんなに、まだ若いとでも言いたげに視線を送る。


ダンブルドアは、それからすぐにやって来た。
その姿を見るなり、は驚き多少の恐怖を覚えた。
あのダンブルドアが火を吹かんばかりに怒っている――全身から力を放っているようで、周りの者を寄せ付けない強さがあった。
普段怒らない人ほど、怒った時は恐ろしいというのを体現したようだった。
ダンブルドアが今世紀最高の魔法使いだと呼ばれる所以を見せつけられ、は暫し圧巻された。

ダンブルドアは急いで、ハリーの杖はまだ破壊されていないこと、処分は尋問の日に決定されることを伝えた。
数日以内にハリーをここに連れて来るよう言い、ムーディにそれを指揮するよう指示を出した。
それから、ダンブルドアは急ぎ足でグリモールド・プレイスを出て行く。
あっという間の出来事だった。

ダンブルドアが出て行った後、ハーマイオニーやロンが何事かと厨房の中を覗きこんだが、モリーがそれをいさめた。
子供たちに話し合いを傍受されていないのを確認してから、ムーディは切り出した。


「では、ハリー・ポッターの護衛に行きたい者」


厨房にいたほとんどの魔法使いが、それに志願した。
ムーディは顎で、隣にいたに行かないのかと訊いた。
は首を傾げ、仕事の都合で無理そうだということを伝えた。
シリウスは今すぐにでもここから出て行きたそうに、周りの魔法使いたちに羨望に似たじっとりとした視線を送っていた。


次の日、日刊預言者新聞に、ハリーが国際機密保持法を破ったことは記載されていなかった。
すぐにでもこれを載せ、中傷するだろうと睨んでいたのに。
きっと、退校処分にでもなったらこれを載せるつもりなのだろう。
しかし、未成年魔法使いの制限事項によると、生命が脅かされた場合未成年魔法使いでも魔法を行使しても良いとされている。
魔法省は、自らの法を破るつもりでいるのだろうか。

また、は思う。
――野放しにされていた吸魂鬼について、ムーディのように考えた方が良いのだろうか?
魔法省がこれを仕組んだと考えた方が、何か胸に重く圧し掛かるものを感じ、背筋が凍えた。










*










ムーディの魔法の目は、何者かが再び玄関を開いたのを見た。
一番しんがりにいたムーディは杖を構え、外の街灯の明かりが玄関の中に入って来て、その人物の姿がはっきりしてくるのを目に入れた。
ハリーやリーマスもそのことに気づき、杖をにわかに構えた。


「アラスター? ……私、凄くややこしい時に来ちゃったのね」


その人物はホールに入り、扉は閉められ、また真っ暗闇が戻って来る。
ムーディは入ってきた人物に注意を払いながらも、玄関ホールの灯りを点しに行った。

ガスランプが点くと、両手を肩程度までに上げたが苦笑しながら、扉の前で立っているのが見えた。
トンクスはその姿を見て表情を明るくさせたが、は動かない。
あたかも、身体検査を受けているかのように両手を上げたままだ。


「大丈夫?」

「ああ」


魔法の目が彼女がだとはっきりと判別したのを確認してから、は腕を下ろす。
ハリーを見て安心したように微笑んだ。


「ハリー、無事だったのね。何の襲撃にも会わなかった? 誰も怪我してない?」

「どうしてあなたたち師弟は、どうしてもそういう思考に走るの?」

「習慣よ」


当然のように言う。
これじゃあ、も一緒に先発護衛隊に来なくて良かったかもしれない。
トンクスはそう思う。
この師弟が二人いたら、どれほど用心に用心を重ねられたことだろうか。

様子を聞きつけたモリーがやって来て、笑顔でハリーを歓迎し、抱き締めた。
そして、大人の魔法使いに会議がもう始まっていることを告げた。
は、彼らが興奮気味に話し合いながら、厨房へ向かう流れについて行く。
トンクスが小走りでの方へ近付き、嬉しそうに言った。


「今日、セブルス来てるんでしょ? ねえ、今日もお泊り? 羨ましいなあ」


ムーディの魔法の目がぐるりとこっちに向くのを、は感じた。
彼のことになると、師匠はいつもこうなる。
この話が、ハリーには聞こえていないことを確認する。
そして、慣れた感じでは淡々と言う。


「貴方の思っているお泊りは、実際のものとはかなり異なっていると思うわよ。彼の仕事を手伝うのが主な目的だわ」

「照れちゃって。だって、そんなこと……」

「トンクス、足元」


余所見をしていたトンクスの足元に、いつもいつも彼女がひっかかるトロールの足でできたと思われる傘立てが現れた。
トンクスは、ひょいとそれを飛び越える。


「それと、ここではもう少し声を潜めて」

「もう、ったら」


トンクスは茶化すように言いながらも、声を小さくした。
あれを呼び起こすことは、彼女も恐れているらしい。
彼女も、あの熱烈な歓迎を受けたことがあったようだ。





会議後ホールに出ると、上階から子供たちがこちらを見ていた。
ハリーやロンに始まる、ここにいる全ての子供たちがこちらを見下ろしている。
今回扉にかけていた邪魔よけ呪文は、しっかりとその効能を発揮してくれていたようだ。
彼らは物欲しそうにこちらを眺めている。

そうしている間にも、フレッドとジョージがこちらの情報を耳に入れようと工作をしていたが、それが遂行される前に全員が玄関から出た。
後ろでがちゃがちゃと錠が閉まる音がした。
トンクスが鍵をかけてくれることになっている。

目の前に、マグルの特に変哲のない道が広がっていた。
夜ながらも、夏特有の暑さがまだ地面から立ち上ってくるようだった。
暗い道に魔法使い以外の人影はなく、そこにはマントを着た幾人もの人物がひしめいていた。
会議後の変哲のない、いつもの光景だ。


「それでは、これで失礼します。皆さん、お疲れ様でした」


は相手を不快にさせない愛想笑いを綺麗に顔に浮かべ、小さく頭を下げた。
自然にセブルスの隣に足を進めると、そのまま二人は騎士団員に背を向ける。
は、セブルスの分まで別れの挨拶を済ませたらしい。
セブルスは彼らに対して、小さく会釈するのみだった。

ある程度の所まで足を進めると、同時にセブルスとのマントが消えた。
大と小の黒マントが消える。


「羨ましいんだけど」


騎士団員は顔を見合わせて言った。
あれから、二人へどこに行くんだというのだろう?
悶々とする。


「あの二人、よく分からない関係だよな。スパイと闇祓いなんて、一番くっついたらいけないパターンだと思う」

「でも、二人とも任務に関しては優秀なのは一緒だ。二人とも、どこからあんな情報手に入れて来るんだろう?」

「スパイの成果だろ。の方は……魔法省をうまく渡り歩いているんじゃない?」


騎士団員は、次々と姿を眩ませていた。
どんどん人数が減ってくる。


が付き合っているんだったら、本当にスネイプはこちらの味方だと判断して良いのかな」

「ダンブルドアがスネイプを信じているのなら、きっとそうなんだろ」

「ほとんどの騎士団員が、あいつのこと胡散臭いと思ってる。元死喰い人だぞ」

「……それはダンブルドアが判断すべきことだ」


ふう、と息を吐いて二人が消えた方向を眺めた。


「しかしまあ、毎回毎回一緒に姿眩ましするだなんて、嫌がらせとしか思えないよ」


そう同意したところで、二人はお互いに手を振り、別れた。
全ての人影が消えた。



























2009/12/28






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